「おはよう、矢弥」
月曜日。
いつものようにバスの中で隼と合流した僕は、少し気まずい思いで彼の言葉を受け止めた。
「おはよ……」
僕が隼の家に泊まった翌朝。いつの間にか帰宅していたおじさんに寝顔を見られていたらしかった。僕は恥ずかしくなって、あわあわと挨拶してしまった。
それから「タッパーは洗って返すよ」と申し出た隼に「いいよいいよ」と乱雑にトートバッグに持ち物すべてを突っ込み、「じゃあ、月曜日に」と僕はそそくさと帰宅した。
部屋に戻ってから隼に宛てて『ごめん、急に帰って』とだけ送った。隼からは『こっちこそフォローできなくてごめん。また月曜日に』とだけ返ってきた。
母さんが不審に思うくらい、僕は土曜日と日曜日を自宅で過ごした。一応受験生なので気まぐれに机に向かってみる、なんてこともしたけれど、大半がベッドでゴロゴロしたり、スマートフォンで動画を流し見る時間だった。
月曜日まで、今まで一番長い時間を過ごした気がする。
「よく寝た?」
バスに乗り込みからかい半分で言う隼に僕は苦笑した。
「寝た寝た。安静にし過ぎて疲れるくらいね」
「はは、じゃあもう元気だな」
揺れるバスの車内で足を踏ん張りながら、僕は拳を丸めて「元気元気」と返した。隼はそれを見て笑った。いつものニヒルな笑顔で、僕は心底安心した。
月曜の放課後は歴史クラブの活動日だ。
七不思議を調べて十一月の文化祭で発表するというのは、初めから決めていた目標だ。だから最近の活動内容はほとんどそれなので、水曜を飛ばしても本当は問題ない。でも二年はゲームのために集まるみたいだし、僕もなんとなく隼を連れて入り浸る。なかなか、楽しい。
七不思議の話は、当時は「ウワサが囁かれてい」たそうなのだけれど、僕含めてあまり聞いたことがない。じゃあ僕たち以外はどうなのか、とクラスメイトあたりにヒアリングしてみようということになった。
先に家族に訊くと、両親は「懐かしー! トイレのミナコさんっていたよね?」「桜の木の下に死体が埋まってるって女子が騒いでるの見たことあるよ」と懐かしトークが始まり、姉曰く、「懐かしいけど、高校じゃほとんど聞かなかったわ。結局あれじゃん? 作りものってわかったんじゃない?」ということだった。
「──逆に都市伝説は、そこらへんの有耶無耶加減が絶妙で、否定しきれないというところがみんなの興味を引いているんだろうな」
隼の発言から反応が連続する。
「うちのクラスの子も、そんなに知らない感じでしたよ」
「小学校では結構盛り上がってたみたい」
「私たちと変わんないね」
「インターネットがあったから、いろいろわかっちゃったんだろうか」
「それも要因としてあるだろうな。親世代と俺たち世代で違うことっていろいろあるけど」
「ま、フツーに考えたらありえないっすからね」
鯖田があっけらかんと言い放った。
僕も根本は怖い話が好きではないけれど、彼の言葉に納得できなくて、一応反論してみた。
「でも、昔はけっこうお化け番組あったみたいだし、今だってお化け屋敷とかホラーイベントとか、みんな楽しそうに遊んでない?」
隼が顎に手をやって考えた。
「テレビの向こうとかイベントとしてなら、ハラハラ感が楽しめていいって感じかもな。あとは昼間の学校にそういうのは求めてないんじゃないか?」
だから夜間が条件の噂が受け入れられたのかもしれない。
夢見がちな僕としては、もう少し反論したいところだ。また隼に「妄想乙」とか言われるのがくすぐったくて、心地いいんだ。
「……ありえないことが本当に起こる可能性って、大きくなっても考えちゃうけどね」
例えば僕の気持ちとか。
隼は「妄想」とは言わなかったけど、その代わりに一瞬瞠目して、「可能性なら、あるかもな」とだけ言った。
※
七月に入った。蝉の大合唱に囲まれながら、僕たちは次の七不思議調査の対象〈プールの伊藤さん〉のために、水泳部の顧問の先生を訪ねた。
対応してくれた担当の先生から、僕たちは驚く話を聞いた。なんとその先生のお父さんが発祥ということがわかったんだ。
まず〈伊藤さん〉は架空の人物であること、その先生のお父さんが別の学校で先生をやっていた頃のエピソードとして、記録が伸び悩む生徒の無茶な練習を止めるつもりで、
──『あんまり未練がましくやってると、大会に出られなかった子が泣いて化けて出てくるぞ』って言ったんだ。
ということ。
これにいろんな怖い要素がくっついて、今の塔覧高校に行き着いたみたいだ。二ノ前が呟いた「夢がない」が妙に印象的だった。
「ある意味、夢を壊すのがこの調査だからな」
諦めた方がいい、と隼が二ノ前に慰めているのかどうなのかわからないことを言った。
「でも先生、褒めてくれてたよね、僕たちのこと」
実は当時の調査は、当時の歴史クラブ顧問の先生に黙っておこなわれていたらしい。夜の校舎に忍び込んでの調査がバレてしまうや、叱責どころか休部の憂き目にあったということを、僕たちは西村先生から聞いた。
それ以来、この系の調査は封印され、あのノートだけが歴史クラブの黒歴史として誰かの手によって隠され残されていた、というのが真相らしい。
隼の言う通り、僕は最初に西村先生に許可を求めた。けれど夜間には調査はできないこと。場合によっては校長の許可がいることも承知した。西村先生はその点で僕たちを褒めてくれた。
「だから夢を壊すだけじゃなくて、昔の人の夢を取り戻す作業にもなるんじゃないかなって思うんだ」
「空森先輩……推せる」
「……?」
若い子の考えることはよくわからないや。
「〈十三階段〉は夢のままに置いておくってことですね」
数多いしそれもいっか、と言いながらうちわを仰ぐ多部山。前向きで助かる。
「俺としては〈開かずの教室〉も」
「え? どうして?」
隼が驚くことを言い出したので僕たちはびっくりした。
「たぶん、〈開かずの教室〉ってあそこだと思うんだ。でもそれを明らかにして、それを知った奴はどうすると思う?」
「どうって……」
言い淀む僕たちに代わって、多部山が答えた。
「本当かなって、見に行っちゃうかも……」
隼はそれに頷き、
「生徒のみんなが、俺たちみたいに分別のある人間ばかりとは限らない」
鯖田たちがなぜか恥ずかしそうに鼻をかいた。
「そっか。あそこ、立ち入り禁止だし、ダメって言われたら行きたくなるのが人間じゃんね」
とハンディファンの前に顔を置きながら、新浜が「うんうん」と何度か頷いた。
「新事実を書き立てて目立つことが歴史クラブの目的じゃないんなら、わからなかったと敢えて伏せるのも、必要なんじゃないか?」
隼の言葉は本当にその通りで、僕も賛成して続けた。
「そうだよね。僕たちは暴いて見せつけたいわけじゃないし、それで注目を集めたいわけじゃない。わかりませんでした、で終わらせようか」
「はい」
「りょっす!」
みんなは僕の言葉に納得したようで、それぞれ力強く頷いてくれた。
「さすが部長だな」
帰りのバスの中。運よく座れた僕たちは隣り合って過ぎていく見慣れた街並みを眺めていた。
ふとそんな風に隼が褒めてくれたけど、ほとんど隼の手柄なので僕は肩を竦めるだけだ。
「僕は隼の言葉尻に乗っかってそれっぽく言っただけだよ」
「夢を取り戻す」
「え?」
「いい言葉だなって思った」
「そ、そうかな? へへ……」
照れくさくなってヘラリと笑うと、隼の指が僕の頬に触れた。
「……隼?」
「矢弥は自称陰キャのくせに頑張ってる」
からかわれた、と遅まきに気付いたのでムッと隼の指を摘んでよけた。
「けなし褒めは陰キャの専売特許なんですけど」
「ああ、自虐ってこと? 自虐は矢弥の専売特許だよな」
はは、と隼は笑った。それこそ自虐的に。
「けど少なくとも俺は、矢弥を陰キャなんて思ってないし、だから自虐なんてしなくていい。矢弥はじゅうぶん頑張ってる。俺はそんな奴の幼馴染で嬉しいよ」
「隼……、めっちゃキメてる」
「……ばれたか」
隼は小さく舌を出した。
「僕にキメたって意味なくない? 他に……ほら、佐野さんとか、隼のこと狙ってたじゃん」
僕はあえて隼に気がありそうな女子の名前を挙げた。僕を見ててもどうにもならないよ、と。そう言えば最近、佐野さんのアピールはなくなったけれど。
「断ったよ」
「何が?」
「告白」
「……誰の?」
「佐野さん」
僕はバスのブレーキに合わせてずっこけそうになった。
「ほ……ほんとに? いつの間に?」
思わず隼にズリ寄る。同じタイミングでまたバスが揺れ、僕は隼の方に倒れ込んでしまった。
「わっ、ご、ごめんっ」
「大丈夫?」
平気な顔で僕の腰に手を回してくる。話を戻す気分ではなくなった。
「体育祭の日だよ」
告白されたの。車内に遠慮してか、隼は声を抑えて言った。
「もしかして、騎馬戦のあとの?」
「そう」
たしかにあのあと隼の姿が見えずに、僕は校舎の方に向かったんだ。途中、多部山たちに隼の行き先を訊いて、それでも見つからずに、メッセージを送ろうとしたら……。
「……」
隼にキスされた。
「……戻ってきた」
「え? 何が戻ってきた?」
僕の呟きを拾った隼が訊いてくるが、もちろん僕に答えられるはずもない。頬が熱くなるのを必死に抑えようと、僕は手で顔を覆い隼を困惑させていた。
月曜日。
いつものようにバスの中で隼と合流した僕は、少し気まずい思いで彼の言葉を受け止めた。
「おはよ……」
僕が隼の家に泊まった翌朝。いつの間にか帰宅していたおじさんに寝顔を見られていたらしかった。僕は恥ずかしくなって、あわあわと挨拶してしまった。
それから「タッパーは洗って返すよ」と申し出た隼に「いいよいいよ」と乱雑にトートバッグに持ち物すべてを突っ込み、「じゃあ、月曜日に」と僕はそそくさと帰宅した。
部屋に戻ってから隼に宛てて『ごめん、急に帰って』とだけ送った。隼からは『こっちこそフォローできなくてごめん。また月曜日に』とだけ返ってきた。
母さんが不審に思うくらい、僕は土曜日と日曜日を自宅で過ごした。一応受験生なので気まぐれに机に向かってみる、なんてこともしたけれど、大半がベッドでゴロゴロしたり、スマートフォンで動画を流し見る時間だった。
月曜日まで、今まで一番長い時間を過ごした気がする。
「よく寝た?」
バスに乗り込みからかい半分で言う隼に僕は苦笑した。
「寝た寝た。安静にし過ぎて疲れるくらいね」
「はは、じゃあもう元気だな」
揺れるバスの車内で足を踏ん張りながら、僕は拳を丸めて「元気元気」と返した。隼はそれを見て笑った。いつものニヒルな笑顔で、僕は心底安心した。
月曜の放課後は歴史クラブの活動日だ。
七不思議を調べて十一月の文化祭で発表するというのは、初めから決めていた目標だ。だから最近の活動内容はほとんどそれなので、水曜を飛ばしても本当は問題ない。でも二年はゲームのために集まるみたいだし、僕もなんとなく隼を連れて入り浸る。なかなか、楽しい。
七不思議の話は、当時は「ウワサが囁かれてい」たそうなのだけれど、僕含めてあまり聞いたことがない。じゃあ僕たち以外はどうなのか、とクラスメイトあたりにヒアリングしてみようということになった。
先に家族に訊くと、両親は「懐かしー! トイレのミナコさんっていたよね?」「桜の木の下に死体が埋まってるって女子が騒いでるの見たことあるよ」と懐かしトークが始まり、姉曰く、「懐かしいけど、高校じゃほとんど聞かなかったわ。結局あれじゃん? 作りものってわかったんじゃない?」ということだった。
「──逆に都市伝説は、そこらへんの有耶無耶加減が絶妙で、否定しきれないというところがみんなの興味を引いているんだろうな」
隼の発言から反応が連続する。
「うちのクラスの子も、そんなに知らない感じでしたよ」
「小学校では結構盛り上がってたみたい」
「私たちと変わんないね」
「インターネットがあったから、いろいろわかっちゃったんだろうか」
「それも要因としてあるだろうな。親世代と俺たち世代で違うことっていろいろあるけど」
「ま、フツーに考えたらありえないっすからね」
鯖田があっけらかんと言い放った。
僕も根本は怖い話が好きではないけれど、彼の言葉に納得できなくて、一応反論してみた。
「でも、昔はけっこうお化け番組あったみたいだし、今だってお化け屋敷とかホラーイベントとか、みんな楽しそうに遊んでない?」
隼が顎に手をやって考えた。
「テレビの向こうとかイベントとしてなら、ハラハラ感が楽しめていいって感じかもな。あとは昼間の学校にそういうのは求めてないんじゃないか?」
だから夜間が条件の噂が受け入れられたのかもしれない。
夢見がちな僕としては、もう少し反論したいところだ。また隼に「妄想乙」とか言われるのがくすぐったくて、心地いいんだ。
「……ありえないことが本当に起こる可能性って、大きくなっても考えちゃうけどね」
例えば僕の気持ちとか。
隼は「妄想」とは言わなかったけど、その代わりに一瞬瞠目して、「可能性なら、あるかもな」とだけ言った。
※
七月に入った。蝉の大合唱に囲まれながら、僕たちは次の七不思議調査の対象〈プールの伊藤さん〉のために、水泳部の顧問の先生を訪ねた。
対応してくれた担当の先生から、僕たちは驚く話を聞いた。なんとその先生のお父さんが発祥ということがわかったんだ。
まず〈伊藤さん〉は架空の人物であること、その先生のお父さんが別の学校で先生をやっていた頃のエピソードとして、記録が伸び悩む生徒の無茶な練習を止めるつもりで、
──『あんまり未練がましくやってると、大会に出られなかった子が泣いて化けて出てくるぞ』って言ったんだ。
ということ。
これにいろんな怖い要素がくっついて、今の塔覧高校に行き着いたみたいだ。二ノ前が呟いた「夢がない」が妙に印象的だった。
「ある意味、夢を壊すのがこの調査だからな」
諦めた方がいい、と隼が二ノ前に慰めているのかどうなのかわからないことを言った。
「でも先生、褒めてくれてたよね、僕たちのこと」
実は当時の調査は、当時の歴史クラブ顧問の先生に黙っておこなわれていたらしい。夜の校舎に忍び込んでの調査がバレてしまうや、叱責どころか休部の憂き目にあったということを、僕たちは西村先生から聞いた。
それ以来、この系の調査は封印され、あのノートだけが歴史クラブの黒歴史として誰かの手によって隠され残されていた、というのが真相らしい。
隼の言う通り、僕は最初に西村先生に許可を求めた。けれど夜間には調査はできないこと。場合によっては校長の許可がいることも承知した。西村先生はその点で僕たちを褒めてくれた。
「だから夢を壊すだけじゃなくて、昔の人の夢を取り戻す作業にもなるんじゃないかなって思うんだ」
「空森先輩……推せる」
「……?」
若い子の考えることはよくわからないや。
「〈十三階段〉は夢のままに置いておくってことですね」
数多いしそれもいっか、と言いながらうちわを仰ぐ多部山。前向きで助かる。
「俺としては〈開かずの教室〉も」
「え? どうして?」
隼が驚くことを言い出したので僕たちはびっくりした。
「たぶん、〈開かずの教室〉ってあそこだと思うんだ。でもそれを明らかにして、それを知った奴はどうすると思う?」
「どうって……」
言い淀む僕たちに代わって、多部山が答えた。
「本当かなって、見に行っちゃうかも……」
隼はそれに頷き、
「生徒のみんなが、俺たちみたいに分別のある人間ばかりとは限らない」
鯖田たちがなぜか恥ずかしそうに鼻をかいた。
「そっか。あそこ、立ち入り禁止だし、ダメって言われたら行きたくなるのが人間じゃんね」
とハンディファンの前に顔を置きながら、新浜が「うんうん」と何度か頷いた。
「新事実を書き立てて目立つことが歴史クラブの目的じゃないんなら、わからなかったと敢えて伏せるのも、必要なんじゃないか?」
隼の言葉は本当にその通りで、僕も賛成して続けた。
「そうだよね。僕たちは暴いて見せつけたいわけじゃないし、それで注目を集めたいわけじゃない。わかりませんでした、で終わらせようか」
「はい」
「りょっす!」
みんなは僕の言葉に納得したようで、それぞれ力強く頷いてくれた。
「さすが部長だな」
帰りのバスの中。運よく座れた僕たちは隣り合って過ぎていく見慣れた街並みを眺めていた。
ふとそんな風に隼が褒めてくれたけど、ほとんど隼の手柄なので僕は肩を竦めるだけだ。
「僕は隼の言葉尻に乗っかってそれっぽく言っただけだよ」
「夢を取り戻す」
「え?」
「いい言葉だなって思った」
「そ、そうかな? へへ……」
照れくさくなってヘラリと笑うと、隼の指が僕の頬に触れた。
「……隼?」
「矢弥は自称陰キャのくせに頑張ってる」
からかわれた、と遅まきに気付いたのでムッと隼の指を摘んでよけた。
「けなし褒めは陰キャの専売特許なんですけど」
「ああ、自虐ってこと? 自虐は矢弥の専売特許だよな」
はは、と隼は笑った。それこそ自虐的に。
「けど少なくとも俺は、矢弥を陰キャなんて思ってないし、だから自虐なんてしなくていい。矢弥はじゅうぶん頑張ってる。俺はそんな奴の幼馴染で嬉しいよ」
「隼……、めっちゃキメてる」
「……ばれたか」
隼は小さく舌を出した。
「僕にキメたって意味なくない? 他に……ほら、佐野さんとか、隼のこと狙ってたじゃん」
僕はあえて隼に気がありそうな女子の名前を挙げた。僕を見ててもどうにもならないよ、と。そう言えば最近、佐野さんのアピールはなくなったけれど。
「断ったよ」
「何が?」
「告白」
「……誰の?」
「佐野さん」
僕はバスのブレーキに合わせてずっこけそうになった。
「ほ……ほんとに? いつの間に?」
思わず隼にズリ寄る。同じタイミングでまたバスが揺れ、僕は隼の方に倒れ込んでしまった。
「わっ、ご、ごめんっ」
「大丈夫?」
平気な顔で僕の腰に手を回してくる。話を戻す気分ではなくなった。
「体育祭の日だよ」
告白されたの。車内に遠慮してか、隼は声を抑えて言った。
「もしかして、騎馬戦のあとの?」
「そう」
たしかにあのあと隼の姿が見えずに、僕は校舎の方に向かったんだ。途中、多部山たちに隼の行き先を訊いて、それでも見つからずに、メッセージを送ろうとしたら……。
「……」
隼にキスされた。
「……戻ってきた」
「え? 何が戻ってきた?」
僕の呟きを拾った隼が訊いてくるが、もちろん僕に答えられるはずもない。頬が熱くなるのを必死に抑えようと、僕は手で顔を覆い隼を困惑させていた。
