玲亜も瀬那に合わせていたなんて――そんなこと、分かっていた。
でも、同性愛は気持ち悪い、保健室登校は逃げだなんて古い考えをしてバカみたい。
それらに疑問を抱かなかった玲亜も、そして心音もバカだけれど。
瀬那の前では彼女に合わせていたが、心音自身はそのことについて、他の人物にはなんと言ったのだろうか。
生理痛で保健室に数十分滞在した時、帰り際、山崎佳子と琴里は悲しみや悔しさのような表情を浮かべていた。
愛音が同性と付き合っていることを知った時から、姉妹仲は木っ端みじんに壊れた。
どちらも心音が原因だったのだろうが、しかし、彼女たちに対してどんな言葉を吐いたのか思い出せなかった。
――『同性愛なんて気持ち悪い!!』
だがその瞬間、耳元でだれかに叫ばれたかのような、鮮明に怒鳴り声が蘇った。
心音の全身からすらっと温度が引いていく。
愛音も利美も、そして同性愛をしている人間全員を真っ向から否定した自分が恐ろしい織物のように感じた。
そういえば今朝、愛音は利美と別れる、と言っていた。
それを止めなきゃ、という今朝とは真逆な感情が心音を突き立てる。
特別な理由はない。でも同じ屋根の下で一緒に成長していった大事な妹なんだから早く幸せを自ら壊そうとするのを止めなきゃ、と思った。
「……でも、止められるの……?」
だがその考えに至り、立ち上がりかけた心音の足が急激に力をなくす。
もう利美に別れ話をした可能性もある。仮に止められたところで、姉妹仲は修復するのだろうか。
否、無理だろう。
だって姉妹仲を壊したのは心音のほうなのだから。
結局、自分で自分の首を絞めただけだ。
保健室登校は逃げ、保健室登校をしている生徒は地味で暗いイメージ、そして同性愛は気持ち悪い。
他にもまだまだ、偏見という名の見えない方程式はあるのだろう。
心音は、その方程式を正解と疑っていない瀬那に合わせていた。
けれど、心音も方程式が間違っているだなんて、微塵も思っていなかったのではないか。
見えない方程式を正解にしていたのは――
自分だ。


