怒り、だがどこか複雑な気持ちを抱えたまま、気づけば放課後になっていた。
「……ね、心音~!」
やっと我に返ったのは、両肩を揺さぶられた時だった。
「わっ!…あ」
声だけで、だれだか分かった。
「玲亜……」
「もう、やっと気づいた~!」
心音の前に回り込んだ玲亜が、机を軽くバンッと叩く。
「どんだけ上の空だったの! 瀬那は部活行っちゃったし、他の子たちももう帰っちゃったよ~?」
「え?」
ぎょっとして、心音は周りを見渡した。
「……いない。だれも」
「でしょ、それだけ心音の意識がどっかに飛んでたってこと~!」
心音の口から出たお手本のような倒置法に、玲亜が頷いて続ける。
「今日の心音、なんか変だよ? 廊下歩く時に壁にめり込むくらい寄って歩いてたし、体育でやったバスケでは緩いパスをなぜか弾き返すし、極めつけは瀬那とうちが喋ってる間、ずっと無言だったってこと! たまに打つのはめちゃくちゃ気のない相槌だし、瀬那、さすがに機嫌悪くなったんだよ~」
「……え……」
小さな奇行以上に、瀬那の機嫌を悪くさせたことにショックを受ける。
瀬那は心音を好かれていないと仮定しても、一応は会話に入っている人物が上の空だったらそうなるのも当然だ。
「もう、しっかりしてよね~。尻拭い大変だったんだよ? ただ瀬那に合わせるだけでも結構エネルギー使うのさ〜」
「へっ?」
違和感に気づき、心音の返事がまぬけになる。
「れ、玲亜」
「ん~?」
「『瀬那に合わせるだけでも』って、それ、玲亜も瀬那に合わせてるってことになるよ……?」
「そうだけど?」
天気の話をするように、あっさり肯定した玲亜。
あっけからんとしている本人を前に、心音はこぼれ落ちるほど目を見開く。
「え、えっ!?」
「なに驚いてんの~。瀬那はバカだから気づいていないと思うけど、でも~……」
「あっ!」
心音の腕をぐいっと引っ張り、玲亜がその耳元に唇を寄せた。
「心音だって、本当は気づいてたくせに」
玲亜がばいば~いと笑顔で去っていった後も、心音は動けなかった。


