千波のキンキン声が、脳にこびりついて離れない。
そこから先のことを心音はうまく思い出せなかった。
ただ、自分がひどく惨めな存在に成り下がった気がする。
一歩間違えたら自分の醜い感情が溢れ出しそうな、そんな状態のまま心音は家に帰った。
いつも欠かさずに言う『ただいま』もなく、リビングに入る。
愛音はソファに座り、スマホをいじっていた。
「あ、心音おかえり!」
スマホから顔を上げ、愛音が裏サイトの投稿に気づいていないのか心音にいつもの笑顔で声をかけてくる。
瞬間、醜い感情を今の今まで押し込めていた〝なにか〟が壊れた――
「あんたの恋人、女の子だったんだ」
が、心音の口から出たのは、ぞっとするほど平坦で低い声だった。
愛音が目を見開く。
初めて『あんた』と呼ばれたことや声色がおかしいこと以前に、なんでそれを、という驚きが顔に現れていた。
「相手は松下利美って子だっけ?」
「待って、なんでそれを……あの日言いそびれたのに」
「裏サイト見れば!?それで分かるでしょっ」
『裏サイト』の単語に、心音は例の投稿を思い出して声が荒くなる。
『裏サイト』の単語に、心音同様今までその中身を見たことがなかった愛音はさらに目を見開く。
「う、裏サイトって……吉田高校の?」
「そうだよ!あんたのせいで……台無し」
混乱している愛音に構わず、心音は言い切った。
『台無し』が無意識に出た自分の本音だと、時間差で理解する。
そして理解した瞬間、心音の口から信じられないほど大きな声が出た。
「ねぇ、なんてことしてくれたのっ!?」
「こ、心音?」
「女子と付き合う妹とか、姉の私がどんなことを言われると思う!?あんたのせいであの2人に嫌われたら、私の今までの努力が台無しになる!!」
愛音のことを睨むと、勢いよく踵を返した。
「それに同性愛なんて気持ち悪いっ!!」
――『同性愛ってやつ?キモすぎて吐きそうwww』
心音の脳裏に、裏サイトの文章が浮かんだ。


