そしてそれは、吉田高校の裏サイトのとある投稿、だった。
「あれー、その反応は心音、知らなかったの!?」
「うっそ、マジで〜?でもこれはさすがに、固まるのも無理はないよね〜」
瀬那と玲亜がそう言って、クスクスと下卑た笑いをこぼす。
心音はそれを、どこか他人事のように聞く。
頭の中はようやく、投稿から様々な情報を拾い始めていた。
妹が……愛音が付き合っていた相手は、女子だったのだ。
松下利美という1年生のことを心音は知らない、だが松下利美が女子――同性というのは添付写真が全て証明している。
心音はほとんど放心状態のまま、隠し撮りのような角度から映っている添付写真を見つめた。
投稿の文章の通り、左側にいるのが少し明るい茶髪のロングヘアー、松下利美だ。
彼女の後頭部に手を回しているのが……横顔でも分かる、愛音本人。
ストレートに重なっている2人の唇から、心音はバッと目を離した。
「写真、AIかなにかで作られたんじゃ……ないの?」
否定したいのに、語尾に疑問符がついていた。
そんな心音の弱々しい訴えに、瀬那は少し目を見開く。
だがすぐに、嫌な予感がした。
瀬那の顔が、驚きからニヤリとしたものに変わったからだ。
「信じたくない気持ちがあるのは当然か。でも、残念でしたぁ」
――「失礼しまーす。瀬那パイセーン、来ましたぁ!」
剥き出しの腕に鳥肌が立った時、場違いに無邪気な声がした。
「あ、千波ー!」
臆することなく2年生の教室に足を踏み入れた千波を見て、心音はさらに嫌な予感に包まれる。
まるで、瀬那に呼ばれてやって来たかのような口ぶりに違和感を覚えてしまったのだ。
「聞いてよ千波。心音に投稿の添付写真、AIで作ったんじゃないかとか言われてさ。だから自動的に、文章も嘘じゃないかって疑われてることになるんだよね」
一応、瀬那の言っていることは間違っていない。
けれど裏サイトの投稿が本物だと絶対的な確信を持っているような、心音の現実逃避に呆れているかのような声のトーンに、もう分かってしまった。
「えぇ、そうなんですか?疑われるなんて嫌な気分ー。じゃあ、この投稿の投稿者、名前がなにか見てくださーい!じゃっじゃじゃーん」
バラエティー番組の視聴者のような、やけに明るいトーン。
投稿内容に気を取られてそれを確認していなかった心音と玲亜は、投稿の1番最後に表示される投稿者の名前に目を移した。
「……なっ」
「うっそ〜!【Chinami】って、千波ちゃんのことだよね!?」
「ピンポンピンポン!その通り、投稿者はこのあたしなんですよー!」
まさかのカミングアウトだった。
「元の写真、あたしのスマホにありますよー、だからバラまこうと思えば出来るってわけです!実際にこの目で写真の通りの光景を見たし、写真もAIでなんか作ってないですからねー!」
投稿内容と写真が嘘という証拠はない。
だが、逆に事実という証拠もないから、愛音のほうを信じることは出来る。
しかし、心音は悟った。
「実はー、えっとそうだ、一昨日!一昨日にたまたま、心音があたしと同クラの愛音と話してるトコ見てー。そんなにちっちゃい声でもなかったから話の内容全部筒抜けだったんで、どんな彼氏か気になったんですよ。それで昨日、愛音の動きを見てたら、放課後の教室で待ち合わせてたのが隣のクラスの利美で。これはもう写真撮らなきゃ!って思ってたら、あっちからベストな光景を作ってくれてもう感謝すぎるって感じで――」


