神獣後宮の宮姫〜後宮で神獣の蝦蟇さまのお世話をしていたら、帝に興味を持たれたようです〜

 胸の傷をひとなでして、翠(みどり)はその場に立ち尽くした。
 掌の上には神獣である多邇具久(たにぐく)――つまり、ガマガエルである。
「異国の瞳を持つあのものが、次の蝦(が)の宮(みや)の宮姫(みやひめ)に?」
「ああ、しかし。蝦蟇の世話など、誰もやりたがらん。それに神獣なんてものは言い伝えにすぎん。異国の姫には、蝦蟇の世話がお似合いだ」
 この国には、四つの神獣が存在する。
 白狐。八咫烏。多邇具久。大口真神(おおくちのまかみ・白狼)。
 その世話をするのが、選ばれし宮姫。それらは、妙齢の少女を帝の巫女殿に呼び出して、神獣自らに選ばせる。
 つまり、狐、烏、ガマガエル、狼。
 四つの宮にそれぞれ飼われている神獣を巫女殿で解き放ち、神獣に見初められれば――翠のように、神獣が最初に触れたものが、神獣付きの宮姫になる。
 宮姫はすなわち、後宮の主だ。
 白狐の住まう宮は狐(こ)の宮(みや)、八咫烏が住まうのが烏(う)の宮、多邇具久が住まうのが蝦(が)の宮、そして大口真神が住まうのが狼(ろう)の宮。
 蝦の宮以外の宮姫に空席ができたことはない。しかし、蝦の宮だけは別だ。
 他と違って、ガマガエルの見た目の悪さから、蝦の宮には宮姫がいつかない。
「謹んでお受けいたします」
 しかし、翠はそれでもいいと思った。このまま妾(しょう・めかけ)の子としてあの家で虐げられるくらいなら、蝦蟇さまのお世話をするほうがましだ、と。