つけ耳しっぽ。孤高のチーターが可愛すぎる!

 【チーター】
 猫科の肉食動物。
 陸上では最も速く走る動物で、時速100キロメートルにもなる。
 メスは基本的に単独行動をし、子育ても単独で行う。
 一方オスは、兄弟などで群れを作り仲間を大事に想い、離れたら声でコミニュケーションを取り合ったりする。
 チーターの長いしっぽは、高速走行の際にバランスを保ち方向転換を助ける役目がある。
 猫科ではあるが、イエネコのように触れると過敏な反応を示したりはしない。
 (うめの動物図鑑より)

「しっぽ、敏感じゃないじゃん」

 誰もいない図書室の隅で、呟いた言葉が図鑑に落ちた。
 俺は、部活前の貴重な時間でチーターの生態を調べに来てしまった。
 
 図鑑にあるチーターの写真は凛々しい目つきで草原を見つめていて、昨日自分の腕の中で目を潤ませていた昨日のやつとは違った。
 俺は図鑑を戻すと図書室を出て部活へと向かう。

 あの後、天馬はフラフラと立ち上がったら、いつも通りの無表情に近い顔に戻っていて、すごい速さで教室に戻っていった。
 また逃げられるのかと思ったら、意外にもしっかりとグループワークに向き合ってくれて、嘘はつかないタイプなんだと見直した。
 俺は、天馬も楽しめるようにと先日見つけたネットニュースから、チーターの異名を持つ野球選手の話をする。
 その話に、天馬は異常なほど食い付いてきて、俺以上にやる気を出して発表を終わらせた。
 多分、俺らグループワークの評価は良いだろう。


◇◇◇


 様々な掛け声が飛び交う部活中のグラウンドで、俺は野球部の補欠としてボール拾いをしてる。
 視界の端に陸上部の練習が映って、あまり集中できていない。

 高く上がったフライを追いかけて、野球部のテリトリーの端までくると、綺麗に走る天馬がすぐそばに見えた。
 流石に部活中はつけ耳もしっぽもない。
 それでも、もう俺には可愛い耳としっぽが見えている。

 天馬の表情は真剣で、ちゃんとコーチやマネージャーの話も聞いている。
 ここではかなりストイックなチーターらしい。

 あんな表情、普段のあいつからは想像もできない。
 あいつって、実は結構モテるんじゃねぇの?

 男の自分が見ても格好いいと思う、天馬の真面目な練習風景に、俺の心の中には何かモヤモヤしたものが渦巻いていった。

 いやいや、普段はつけ耳としっぽの変なやつだろ。
 みんなが遠巻きにしている。
 孤高のチーターだとか思ってんのか?

 いや、待て。単独行動をするチーターって、メスじゃなかったか?

 俺はバッターボックスに立つ監督の声に反応して、飛んでくるだろうボールに身構えるが、頭の中では可愛いメスチーターの天馬が走り回っていた。

 あいつのしてることって、全部メスのチーターの特性なんだよ。
 オスは群れになるって書いてあったし、しっぽはネコみたいに敏感じゃねぇし。

 尻尾触った時のあの顔……。

 天馬の涙目になった顔を思い出し、俺の体はゾクリと震えた。
 ゾワゾワと下腹部が熱くなってくる。

 自分の感覚に驚きながらも、当然の反応だろうと思う気持ちもある。そんなことを考えていたから、反応が遅れてしまった。

「隆平!!いったぞ!!ぼーっとすんなっ!!!」
「えっ!?」

 ハッと顔を上げると、部員が指差す先の空にボールが飛んでいた。
 大きなフライで、慌てて後ろへ下がった。

 いや、待て。これは大きすぎる。
 これ以上下がったら……。

 パッと後ろを見れば、ギョッとした顔をしている天馬が近くにいた。
 この軌道だと危ない。

 俺は声を出す前に天馬へと走り、覆い被さるように抱きしめた。

「なっ!!ぅわっ!!!」

 思ったより勢いが消せなくて、抱きしめたまま二人で地面に倒れ込む。
 慌てて天馬の後頭部に手を持っていったが、衝撃はあっただろう。
 驚いて、顔を歪ませる小動物を、また、可愛いと思ってしまった。
 ボールは俺らの横にポスリと落ちてきて、静かに転がっていった。

「なん……なの……」
「悪い……」

 不満そうな声に、俺はゆっくりと体を起こした。
 柔らかく、細い体が自分の下にあると気付いたのはその後だ。

 やばい、この姿勢はやばい。
 天馬怒るだろ。
 いや、なんか顔赤い。
 この前みたいに……。
 嘘、可愛い……。
 やばい。
 腰細い。
 思った以上に柔らかい。
 やばい。

 一瞬で俺の脳内は情報過多になった。
 やばかった。
 下半身が。

「もう、どいて……っ!?」
「……っ! わ、わるぃ……」

 天馬がみじろいだ拍子に、びっくりしたような顔で見上げてきた。
 そりゃそうだろう。腹に何か当たったんだから。
 俺はバツが悪く目を逸らす。
 でも、もう自分の気持ちに気付いてしまった。

「ど……どいて……重いし……痛い……」
「あ、あぁ……え、痛い?」

 天馬の言葉に、俺はハッとして細い体を舐め回すように見た。
 そして、右肘にうっすらと血が滲んでいるのを見つける。

「うわっ!! マジごめん!!!」
「別に……」

 俺が飛び退くと、天馬は体を起こして土を払った。
 天馬の声のトーンはいつも通りだが、俺はいてもたってもいられなくて、衝動的に小さな体を抱え上げ、保健室に走り出していた。

「なっ! 何?!」
「保健室だ! マジごめん!」
「ちょっ……みんな見てる……」

 腕の中で暴れる天馬を強く抱きしめると、キュウとおとなしくなった。
 それでも小さな声で反発してくる。

「マジで……やめてよ……」
「ごめん、無理……」
「は?」

 天馬は恥ずかしそうに俺の胸に顔を隠しながら、口だけは不満そうに動いていた。