どこかから、甘い香りがほのかに漂ってくる。梅の花だ、と気づき、なぜか滝川のことを思い浮かべる。
滝川には、季節が確実に進んでいるって気づいてほしい。でもやっぱり、鈍感でいてほしい——
「環さん! こっちこっち!」
すっかり聞き慣れた明るい声が俺を呼んでいる。
ほとんどの学部の後期試験が終わったはずだが、さすがに昼時ともあって、食堂は学生で賑わっていた。
俺はアジフライ定食のトレーを抱えて、滝川がとってくれたテーブルに腰を下ろした。
「おまえなに食うの?」
「唐揚げ定食っす〜!」
滝川が、実に嬉しそうに自分のトレーを見せびらかす。
「相変わらずでかいな、ここの唐揚げ」
「ですよねー! うちのばーちゃんのぐらいある」
「え、こんなにでかいの?」
滝川は「うんうん」とうなずきながら、握りこぶしくらいある唐揚げに、その大きな口でかぶりついた。
わんぱくな滝川に、俺はとても、安心する。
唐揚げをもぐもぐしながら滝川が言った。
「そうだ、今度うち来てくださいよ。唐揚げでも何でも、サービスしちゃいます」
「それは、ばーちゃんが、だろ?」
「へへ、まあ、そうっすね」
俺は、「行ってみたいな」とつぶやいた。
滝川の表情を探ることは、できなかった。
