目が覚めたとき、水色のダウンジャケットの背中が見えた。
「滝川……?」
俺が呼びかけると、大きな背中が動きを止めた。
「……ああ、おはようございます」
少しだけ振り向いて、滝川はすぐに部屋を出ていこうとする。それに全然気づかないふりで、
「おまえ、二日酔い大丈夫? 俺すっげぇ頭痛いんだけど」
と俺が言う。呼び止めるみたいな感じになって、なんかめちゃくちゃかっこ悪い。
けど、滝川は足を止めてくれた。
「環さん、マジで飲みすぎでしたよ。オレは大丈夫っす」
「あ、そう。そんならいいか」
今からバイトか?と尋ねようとした俺を遮るように、滝川の声が部屋に響いた。
「環さん」
滝川が俺に向き直った。……くそ、0.3の視力じゃどんな顔してるかわかんねぇ。
「……冷蔵庫に、ポカリ入れときました。ビタミンCのサプリも、机に、置いとくんで」
絶対飲んで、と言い残し、滝川は足早に部屋を出ていった。
閉じられたドアをしばらく見つめてから、俺はよろよろと立ち上がった。
吐き気と頭痛に耐えながら、いろんな書類や本を積みっぱなしの机を見た。
ビタミンCのサプリの箱が、留学手続き完了の書類の上に置いてあった。
留学のことは、もうずっと前から考えていた。
国内で大学院に行く道もあった。けれど、俺は休学して1年カナダへ行く。
やれインターンだ、企業説明会だ、と周りが右往左往している中、俺は1人で留学を決めた。
滝川には、言えていない。
なんで、と聞かれるだろう。なんで言ってくれなかったんすか、なんて、なじられる未来も見える。
けど俺には、言葉にするのが難しい。
