「環さん! ねえここ? 221号室で合ってますよね? 鍵開けますよ?」
「おー、頼むぅ」
滝川の声が聞こえる。ぼんやり霞んだような世界の中で、滝川の声が「まいったなぁ」と言った。
鍵が開く音がして、次にドアが開く。ああ、俺の部屋だ。やべ、俺あんま片付けてない。けどもう遅い。
俺は滝川に肩を貸してもらいながら自室に入った。
もつれる足でやっと靴を脱ぎ、上着を脱ぎ捨て、その場に倒れ込みそうになるのを、滝川のがっしりした腕に引き止められる。
「あー環さんだめだめだめ! そこで寝ないで!」
「んー、しんどいから、もういい……」
わがままな俺の発言に、滝川は毅然と返しながら部屋の奥に俺を連れて行った。
「だめですって! ちゃんとベッドで寝てください!」
「ベッドが来いよ〜」
「あんたほんと何言ってんの? こんなに酔っぱらう人だった?」
呆れた滝川の声色に、俺はふふ、と笑ってしまう。
「ごめんな、滝川」
顔を少し傾けると、すぐそばに滝川の耳があった。あーこいつ、ピアスしてたっけ。
「いったんこのへん座って。水入れてきますね」
組んだ肩をほどいてキッチンに向かいかけ、ふと机の方に目を向けた滝川の腕に、俺はしがみついた。
「大丈夫。大丈夫だから」
滝川が動きを止めた。滝川の赤い耳を見る。焦点が合わなすぎて笑える。メガネ、替え時か?
「なあ滝川」
「……な、なんすか……」
うーん、ピアス、よく見えない。
「誰に開けてもらったの、ピアス」
ん? 俺、そんなこと聞く予定あった?
滝川も黙って俺をじっと見ている。ああごめん、本当に俺、酔っ払っちゃったんだ。何の時間だこれ。
俺は消費税分くらいしか残っていない冷静さをフル稼働して、滝川の腕を解放してやった。
「はは、ごめん。俺、酔っぱらいすぎたわ」
「気になるんですか?」
滝川の手が、俺の腰に触れた。その手が服越しにもわかるほど熱い。驚いて俺が眼を見開いたとき、ありえない力で抱き寄せられて、思わず息を止めた。
滝川を見上げる。数センチしか身長が違わないはずの滝川が、やけにでかく思える。
この身体に、抱きしめられたら。
……一瞬の間にそこまで考えてしまって、俺は自分の身体が一気に燃え上がるような感覚に襲われた。
……いやいや、おかしいって。俺たち、別に、……なんでもないのに。
滝川が、きれいな形の目で俺を見ている。
そこにあるのは、無邪気で従順な大型犬の目じゃなくて、獲物をとらえて食べ方を考えている、狼の眼だった。
「……環さん」
狼の口が近づいてくる。キスされる。そう思ったら、反射的に目を閉じてしまった。
次の瞬間、眉の上あたりに、ちゅ、とやわらかくて冷たいものが押し当てられるのを感じた。
目を開けると、滝川の顔が離れていくところだった。
滝川が、声をひそめて言った。
「環さんのほくろ、いっつも気になってたんです。かわいいなって」
それを聞いた途端、俺は滝川の両頬を捕まえて、その唇に自分の唇を寄せた。
「ナオ」
