春風の声


「オカンおはよ〜」「おはよう」
オカンはクラスでの俺のあだ名だ。
包容力があるとかで誰かがオカンと呼び始め、それが定着してしまった。

俺自身は目立つタイプではないが、何かと目立つ羽山と最初に仲良くなった流れから、ほぼ運動部で構成されたいわゆる一軍グループの中に混ざっている。

いつも可愛がられているのか揶揄われているのか、そのどちらもかは分からないが、朝から揉みくちゃにされる。

「オカン今日も可愛いね〜」「会いたかったよ〜」
「わかったわかった。もうやめろって」

頭を撫でてくるクラスメイトたちを押しのけていると、羽山が面白そうに声をかけてくる。
「お〜いオカン。俺聞いたよ〜最近藤崎と一緒に帰ってるらしいじゃん」

そうなのだ。あれから藤崎とは、本当に連絡を取り合いながら、お互いに待ち合わせて毎日一緒に帰っている。

「え⁉︎なに⁉︎藤崎春誠⁉︎」
「まじ?どういう流れ?オカンすごいじゃん」

藤崎は有名人なので、なんで特に接点のない俺が藤崎と友達なのかみんなが疑問に思っているだろう。

「帰宅部同士時間が合うから、なんとなく流れで」
「オカン可愛いから目つけられたんじゃね?」
「なわけないだろ。その可愛いキャラ設定やめろ」

軽口を叩くクラスメイトに、すかさずツッコむ。

「藤崎部活入ってないもんな〜まさに宝の持ち腐れ」
「本当だよな〜うちの部にほしいって」
「オカンもいつでもサッカー部のマネになってくれていいよ」
「いや、それはずるい。バスケ部のマネになってくれ」
「まてまて、バレー部のマネにほしい」
「いや、なんで全部マネなんだよ」

運動神経抜群の藤崎は引くてあまただが、体育でも中の下の運動神経を発揮している俺にはオカン要素しか求められていないらしい。

「HR始めるぞー」
担任が来たのでみんな慌てて席に着く。


その日の放課後、羽山と話しながら教室を出る。
今日は家の用事で部活を休むらしい。
羽山と適当なやりとりをしていると、いつものように下駄箱で藤崎と会う。

「よ!藤崎久しぶり!」
「久しぶりだね、羽山。今日部活ないの?」
「あるけど、今日は家の用事があって帰る」

それぞれに友達ではあるが、3人で帰るのは初めてだ。

「藤崎、ずいぶん三谷と仲良くなったじゃん」
「羽山のおかげでね」
「あの時はびっくりしたな〜初対面なのに、昨日隣にいた友達の名前を教えてくれって言ってくるから」
「え?そうなの?」

教室で話していた時は、そんなことは一言も言っていなかったので驚く。

「本当、初対面だったのにごめんね」
藤崎が苦笑いしながら謝る。
「俺そんなに目立つことしてた?」
「うーん、そういうわけじゃないけど。2回ほど見かけたことがあって、その時の印象がよかったから、絶対に友達になりたいと思ったんだよね」

自分がいつ何をしていたのか全く思い出せないが、友達になりたいと思わせるほどいい行いをした記憶はない。
改めて思い返すと、藤崎みたいなすごい人と友達になれたことが本当に不思議だ。

「三谷可愛いっしょ」と羽山が軽口をたたく。
「うん、可愛くて優しくて癒される」
「そうなのよ。包容力すごいからクラスではオカンって呼ばれてるわ」
「おい、羽山。いらんことを言うな」
恥ずかしくなって慌てて釘を刺す。

「オカンって呼ばれてるの?面白すぎ。でもなんか納得」
「だろ〜?困ってるやつがいたら一番に気づいてさり気なく助けるし、痒いところに手が届く存在?みたいな。小動物っぽい見た目も相まって、みんなから可愛がられてる」
「それすごくわかるな〜僕もまさに昨日一緒に帰ってる時に、エレベーターに乗ろうとしていた車椅子の人がいてね。その人が挟まれないように、さり気なく扉を押さえにいっているのを見て感動したよ」

「もう俺の話はいいって...」
なぜか急に俺の褒め合い合戦が始まって止まらない二人を横目に、真っ赤になって俯くしかなかった。