春風の声


相変わらず堕落した冬休みを送る俺とは違って、春誠は忙しそうだ。

クリスマスはお互いに親の金でプレゼントを贈り合うのも何か違うなという話になり、そもそも予定も合わなかったため、なんとなく流れた。

その日もこたつの中でひたすら惰眠を貪っていると、春誠から電話がきた。

「もしもーし」
「冬夜久しぶり。元気にしてる?」
「毎日暇すぎてずーっと寝てる」
「そう言うと思った」春誠が笑っている。

「あのさ、無理なお願いかもしれないんだけど、大晦日と元旦、泊まりがけで一緒に過ごせないかな?」
「え、なにそれ楽しそう!大賛成!それなら俺の部屋テレビあるし、神社も家の近くにあるし、うちに泊まりに来ない?」
「いいの?うれしい。言っておいてなんだけど、僕の部屋テレビがないから味気ないなと思ってたんだよね。ご家族にまた聞いてみて」
「絶対にいいって言うと思うけど、また帰ってきたら聞いてみる」

年末年始はさすがに塾や習い事も休みらしく、会えるとわかって今からソワソワする。

夜になり、晩御飯のタイミングで切り出してみる。
「あのさ、大晦日に春誠泊まりに来てもいい?」
「もちろんいいわよ〜一緒に年越しなんてものすごく青春ね」
「久しぶりに藤崎くんに会えるから楽しみだな」
「はるま来る?はるま来る?」
「ええ、大晦日に泊まりに来てくれるみたいよ。よかったわね」

よし、やっぱりみんな大歓迎のようだ。
春誠にオッケーもらったよと連絡し、その日から何度も何度もカレンダーを確認しては、大晦日が来るのを待ち侘びていた。


ようやく待ちに待った大晦日になり、駅まで春誠を迎えにいく。
「冬夜久しぶり〜会いたかったよ」
「俺も。ありがとう、こんなに遠いところまで来てくれて」
「こちらこそ泊まらせてくれてありがとう」

荷物を持ち、家まで一緒に歩く。
「春誠のご両親は大丈夫だった?」
「うん。大晦日にお邪魔するなんて非常識すぎない?って心配してたけど、冬夜のご家族もみんな大歓迎してくれてるって話したら、本当に?って微妙そうな顔で納得してたよ」
「ぜひ春誠のご両親にうちの家族の軽いノリを見てもらって、心から安心してほしいよ」
「本当、ご迷惑じゃないか心配みたいで、今回はいろいろ手土産と手紙まで持たされた。くれぐれも失礼のないようにって」
「なんか、春誠のご両親ってやっぱり春誠に似てるな〜真面目で義理堅くて気遣い屋さんなところが」


そんな話をしているうちにあっという間に家に着いた。
玄関を開けるなり兄ちゃんが「はるま!はるま!」と大騒ぎし、みんなドタドタと出てくる。

「久しぶりね〜いらっしゃい」
「よく来てくれたね」
「自分の家みたいにくつろいでね」
「皆さんお久しぶりです。お世話になります。これ、うちの両親からです。ご家族団欒の時にご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
「あら〜ご丁寧にありがとう。迷惑どころか大歓迎よ〜毎年来てくれていいのよ」
「本当だよ。気を遣わせてしまって申し訳ない。うちは大歓迎だとご両親にも伝えておいてね」
「はい、ありがとうございます」


「え!こたつがある!すごい、自分の部屋にこたつがあるなんて」
俺の部屋に入るなり春誠が大感動していた。
春誠の家にはそもそもこたつがないらしい。

「こたつ好きすぎて、中学生の時にお小遣い貯めて買ったんだ。いつもここで堕落した毎日を送っている」
「想像できる。なんか猫みたいで可愛いなぁ」

春誠がよしよししてくる。

「ほら、春誠も入ってくつろいで。今年のN-1観た?」
「観てない。僕お笑いとか全然知らないんだ」
「そうだと思った。じゃ、録画してあるから観よう!今年面白かったんだよ〜」
「うん、観たい」

それから二人でN-1を観ながらバカ笑いして、みかんを食べて、なんでもない幸せな時間を過ごした。

「あ〜面白かった。今年一番笑ったよ。これ絶対健康にいいね」
「だろ?今度一緒に劇場に観に行こう。生のお笑いライブ観てみたい」
「それいいね、絶対に行こう」

そんな話をしていると、ふいに春誠が近づいてきた。あれ?なんか近いと思った時にはもうキスをされていた。
「あまりにも幸せすぎて、つい」
「なんだそれ」

耳まで真っ赤になる。でも俺も同じように幸せを感じていたので、たまには俺からも伝えたいと思って、キスをして返す。

俺からキスをしたのは初めてだったからか、春誠はかなり驚いた顔をして固まっていた。

「幸せすぎて、つい」と真似をして言うと、春誠が顔を覆いながら「冬夜が可愛すぎて爆発しそう」と呟いた。
そんなに喜んでもらえるなら勇気を出した甲斐があるというものだ。


しばらくして階段下から母が声をかけてきた。
「冬夜〜藤崎くん〜ちょっと早いけどお風呂に入っちゃう〜?」
「うん、はいる〜!」
聞こえるようにこちらも大声で答える。

「この調子でだらけてたら風呂キャンしたくなりそうだから入るか。春誠、先に入って」
「うん、ありがとう」
そう言って着替えを準備して、下に降りる。

「あなたたちの笑い声がずいぶん楽しそうで、こっちまで釣られて笑えちゃったわ〜」
「N-1の録画観てたんだよ」
「今年面白かったからね」
「おもしろい?おもしろい?」
「本当に面白かったです。僕初めて観たんですけど、面白すぎて涙出ました」

「じゃ、俺たち順番に風呂入るわ」
「お先にいただいてきます」
「寒いからゆっくり浸かってね」
春誠を案内してバスタオルを渡し、リビングに引き上げてきた。

しばらくすると、手土産を確認していた母親から話しかけられる。
「ねぇ、冬夜。藤崎くんのお母様からとても丁寧なお手紙をいただいたわ。藤崎くんもご両親に冬夜とのこと、話したのね」
「あ、うん。冬休みに入るちょっと前に。俺も一緒にお邪魔したんだ。なんか俺たちのこと書いてあった?」
「ええ、冬夜のこととても優しくていい子だって褒めてくださっていたわ。本当にもったいないくらい褒めてくださっていて...私たちにまで、春誠を受け入れてくださり、ありがとうございますって」

「お風呂お先にいただきました。ありがとうございます」
母さんとそんな話をしていると、ちょうど春誠が風呂から上がってきた。

「今、春誠のお母さんがくれた手紙のことで話してたんだよ。俺のことすごく褒めてくれてて、うちの家族にも春誠のこと受け入れてくれてありがとうって書いてくれてたんだって」
「本当に素敵なご両親ね」
「ありがとうございます。皆さんのおかげで、僕たちこうして幸せに過ごせています。改めて冬夜くんの恋人としてよろしくお願いします」

「こちらこそ、冬夜を好きになってくれてありがとう」
「冬夜をよろしくね」
「家族みたいに楽な気持ちでいつでも遊びにきてね」
「こいびとってなに?こいびとってなに?」
みんなそれぞれに挨拶をする中で兄が盛大にハテナを浮かべているので、笑いながら
「とても大切な人ってことだよ」と説明しておいた。


それから俺も風呂に入り、上がってくると春誠が晩ご飯の支度の手伝いをしてくれていた。
「冬夜、春誠くんったらとっても手際がいいのよ」
いつのまにか藤崎くんから春誠くん呼びに変わっている。

「知ってる。俺前に泊まりに行った時、春誠が晩ご飯作ってくれてびっくりしたもん。めちゃくちゃおいしかったよ」
「すごいわね〜」「冬夜なんていつ見てもコタツで溶けているのにね」と家族みんなで感心している。

それから大晦日恒例の歌合戦を観て、みんなでワイワイ盛り上がりながらごはんを食べた。
一階にもコタツがあるので、みんなそこに集まって、春誠のお母さんが持たせてくれたケーキを食後のデザートに食べた。

「春誠くんのご両親、本当にたくさんお土産を持たせてくださったのよ。ケーキでしょ、それからおせんべいの詰め合わせに、日持ちするお惣菜のギフトまで」
「大荷物だと思ったけど、そんなにたくさんくれたの⁉︎ご迷惑じゃないか心配してるって言ってたもんね」
「大晦日にお泊まりさせてもらうなんて...って、最後まで二人とも困惑していました」
「そうだったのか。うちはむしろ来てくれて嬉しいくらいだから、ご両親にも何も気を遣わないでくださいって言っておいてね」
「本当、本当。賑やかなのは嬉しいことよ」
「そうよね〜いつもと違った雰囲気になって、いつもよりさらに楽しいわよね。そうだわ!よかったら春誠くんのお家のお電話番号教えてくれる?また後日お電話させてもらうから」
「え、そんな、いいんですか...?ありがとうございます」
「母さん、あんまり喋って春誠のご両親を困らせないでよ」
「あら〜お母さん大人だから心得てるわよ」


「ほら、みんなそろそろ時間だから神社に行くよ。和太鼓のパフォーマンスがあるんだよ」
父さんの声掛けでみんないそいそと支度を始める。

春誠が部屋にコートを取りに戻ろうとすると「寒いから着て行きなさい」とばあちゃんが春誠の分の半纏を出してきた。じいちゃんが着ていた半纏がまだ他にも残してあったみたいだ。
俺はこのじいちゃんの形見の半纏が気に入っていて、家の中ではもちろん、ちょっと近所に出かける時も普通に着ている。

しかし、普通の男子高校生なら半纏なんてダサくてお断りする案件だろう。
すかさず助け舟を出そうとすると、
「わぁ!半纏って僕憧れていたんです」
春誠が目をキラキラさせながら嬉しそうに羽織っていた。そしてなんとまたそれがオシャレな感じで似合ってしまっていた。

「何でも着こなしてしまうんだな...」
「あら〜素敵じゃない」
ばあちゃんも心なしか目がハートになっている。

「春誠くん似合ってるじゃないか」
「本当!何でも似合っちゃうのね〜」
「はるまおじいちゃん?はるまおじいちゃん?」
「はい。おじいさんのお借りしました」
ワチャワチャと話しながら、神社へ向かい、和太鼓のパフォーマンスを見る。


「初詣はいつも昼間に行くから、外で和太鼓見てカウントダウンなんて初めてですごく新鮮だよ」
「実は俺も、兄ちゃんといるところを同級生たちに見られたくなくて、何年も来てなかったんだ。だから、今年は家族と春誠と堂々とした気持ちで来れて嬉しい」
「そうだったんだ。僕も冬夜と冬夜のご家族と一緒に来れて、今すごく幸せな気持ちだよ」
二人で目を合わせて微笑み合う。

「しかし怒涛の一年だったな〜」
「本当だね。こんな展開になるなんて想像もしてなかった。冬夜と出会えて、付き合えて、今までで一番いい年になったよ」
「それは俺もだよ。春誠のおかげで自分とも家族とも向き合えたし、今が一番楽しい」

周りから自然とカウントダウンが始まる。

「冬夜、出会ってくれて本当にありがとう。来年もよろしくね」
「こちらこそ。あの時声をかけてくれてありがとう。来年も仲良く過ごそう」

周りの声が大きくなってきたので、お互いに耳元で聞こえるように挨拶し合う。


5...4...3...2...1...ハッピーニューイヤー!
神社にいるみんなが声を合わせて叫ぶ。


「新年明けたね〜おめでとう。今年もよろしく」
「あけおめ、ことよろ」
近くにいた家族ともあけましておめでとうと言い合う。

近くで甘酒が振る舞われているので、家族みんなで連れ立ってもらいに行く。
「あれ?冬夜は甘酒もらわないの?」
春誠が不思議そうにしていると、俺よりも先に家族が質問に答える。
「冬夜は昔から甘酒が苦手なのよ〜」
「おいしくてあったまるのにね」
「冬夜、甘酒嫌い?嫌い?」
「嫌いというか、苦手な味なんだよ...」
みんな甘酒を飲んで、心なしかポカポカした空気が出ている中、俺一人だけずっと凍えている。

「じゃ、わたしたちは先に帰るわね」
「鍵ちゃんと持ってきたか?」
「うん、持ってきたから大丈夫だよ」
家族はみんなもう遅いので参拝はまた明日にするらしく、おやすみ〜と言いながら帰って行った。

俺たちはせっかくなので、拝殿でお参りする人たちの行列に並ぶ。
「冬夜、甘酒飲んでないから寒いでしょ」
「寒い!やっぱりずっといると冷えてくるな」
そう言いながら、春誠の手をつかんで自分の半纏のポケットにごそっと入れる。
「は〜春誠の手あったかい」
少し驚いたような顔で春誠がこちらを見てくる。

地元だし、かつての同級生たちは絶対にいるだろう。どこかで誰かに見られて、またみんなの噂に上るかもしれない。
でも大丈夫。むしろみんなに俺の彼氏だって自慢したいくらいだ。
そう思って春誠を見ると、なんとなく伝わっているのか笑顔でギュッと恋人繋ぎにしてくれる。

これから先もいろんなことで悩んで、傷ついて、生きていくんだろう。でも隣にいるこの大切な人とこうして手を繋いで歩いていけば、何だって乗り越えていける気がする。

ポケットの中で繋いだ手から温もりが広がって、冷え切った身体の震えもいつの間にか止まっていた。