春風の声


冬夜と話した後、進藤先輩が言ってくれた言葉も思い返して、家族には無理にカミングアウトしないでおこうという気持ちになっていた。

もっと大人になってから、それこそパートナーシップを組むとかそういった話になった時に改めて考えればいいかと漠然と思っていた。


だが、その時は突然きた。

「春誠...あなた男の人と付き合ってるって本当?」

母親が仕事から帰ってきたかと思ったら、深刻そうな面持ちで、断罪するかのような口調で聞かれる。

ついに母親のところまで噂が回ってきたのかと覚悟を決めた。学校中に知れ渡るより、町中に知れ渡るより、両親に知られるほうが緊張するのはなぜだろう。

「うん、本当だよ」
「あなた...そっちの人だったの?」
「そっちの人ってゲイのこと?それで言うと、うん。ずっとゲイだよ」

一縷の望みをかけて聞いてきたのか、母親が耐えきれないといった様子でわっと泣き崩れる。

やはり、想像していた通りだ。うちの家族に受け入れてもらうなんて夢のまた夢だったのだ。
ソファーに座っていた父も呆然としていて、何も言葉を発さない。

「どこでどう間違ったのかしら。どこに出しても恥ずかしくない子に育ったのに、ゲイだなんて。ゲイだなんて...」
グサグサと容赦なく刺してくる。他人に言われるよりも痛いのはどうしてなんだろう。

自分らしく生きていくんだと心に決めたのに、あの時の勇気はどこへいってしまったんだろう。
「ごめんなさい」
小さな子どものように俯いて、まるで罪を犯したかのように、懺悔するように謝った。
ゲイでごめんなさい。期待を裏切ってごめんなさい。
それ以上は話にならず、部屋に戻った。


冬夜の声が聞きたくなり、一言ダメだったよとメッセージを送った。
すぐに既読がついて電話がかかってくる。

「春誠?」
「噂が母さんのところまで回ってきたみたいで、泣かれちゃった。どこで間違えたのかしらって」
改めて言葉にすると、またグサグサと刺されるような痛みに襲われる。
冬夜にとっても思いもよらない言葉だったのだろう。電話の向こうでしばらく絶句していた。

「それは...ものすごく痛くて、辛かったな」
「思わずごめんなさいって謝っちゃったよ。何も悪いことしてないのに。今までの勇気がどこにいったのか、自分でもわからなくなって」
「うん」
「仕事から帰ってくるなり切り出されたんだけど、たぶん母さんは僕に嘘だよって言ってほしかったんだと思う」
「うん」
「嘘、つけばよかったのかな。女の子と付き合って、結婚して、子どもができて...それが普通にみんなが想像する幸せだもんね。だけど、僕にはどうしても叶えられないよ」
「うん、そうだな。ただ言えるのは、俺たちはみんなの想像とは違ったっていうだけで、悪いことも間違ったこともしてないよ」

「そうだよね。元々受け入れてもらえないだろうとは思っていたけど、想像以上に拒否されてかなりショックだった。母さんも混乱していただろうけど、間違えたとまで言われて。だけど冬夜の声を聞いてたら、僕は僕だってまた思えてきたよ」
「うん。春誠は生まれた時からずっと春誠だよ。何も変わらない、たった一人しかいない大切な存在だよ」

冬夜の温かい優しさに包まれてホッとする。

「ありがとう。時間がかかるだろうし、もしかしたら受け入れてもらうことは無理なのかもしれないけど、また両親に自分の気持ちを話してみるよ」
「あの、もしよかったら俺も一緒に行くよ。春誠と春誠のご両親がよければだけど」
「え...いや、でも...うちの両親が冬夜に失礼なことを言うかもしれないし...」
「俺、何言われても大丈夫だよ。春誠の隣にいたいんだ」
「うん...ありがとう。冬夜がいてくれたら強い気持ちで話せる気がするよ。また今度、連れてくるって言ってみるね」