進藤先輩から「修学旅行のお土産渡したいし、今日のお昼一緒に食べへん?」と誘われて、久しぶりに会うことになった。
春誠が心配するようなことは何もないが、体育祭の時のこともあったので、一応メッセージを送っておく。
「冬夜〜〜久しぶり〜〜」
「お久しぶりです、進藤先輩。修学旅行楽しかったですか?」
「そらもうめっちゃ楽しかったわ、沖縄!はい、これお土産な〜」
「俺にまでありがとうございます」
「可愛い後輩やし当たり前やーん。最近、藤崎くんとはどうなん?仲良うやってる?」
「はい。あ、そういえば俺、最近家族にカミングアウトしました」
「ええ⁉︎急に何⁉︎ほんまに⁉︎ほんで⁉︎家族なんて言うてた⁉︎」
進藤先輩が驚きすぎて、身を乗り出すように聞いてくる。
「最初はみんなポカーンとしてましたけど、最終的には納得?というか、応援するよみたいな感じで言ってくれました」
「え、家族全員が受け入れてくれたん?」
「まぁ、はい。一応」
「いや、それめっちゃレアケースやで。知らんけど。冬夜の家族もすごいな〜」
「うちは兄ちゃんが知的障害者で元々マイノリティ側なんで、家族も順応力が高いのかもです」
「そうやったんか〜やから冬夜みたいな優しい男前が育つんやなぁ。ほんまみんなに受け入れてもらえてよかったな」
いつもの調子でよしよしされる。
胸に何のつかえもなく、言い淀むこともなく、兄のことを話すことができた自分に今さらながら驚く。
前までは少し話すだけでも泣きそうになっていたが、もう自分の中で完全に兄の障害を受容できたんだろう。
「先輩はやっぱり家族に言うのはハードル高いですか?」
「せやな〜俺は家族が一番無理かもしれん。ちなみに藤崎くんも家族にカミングアウトしたん?」
「いや、春誠はまだ。受け入れてもらえるか微妙みたいで、機会があれば話そうかなとは言ってましたけど」
「え〜ほな俺は無理せんでええと思うけどな〜家族やからこそ割り切れん感情がお互いにあるし、藤崎くんが傷付かんか心配やわ」
「そうですよね...他人に拒否されるのと家族に拒否されるのはまた全然違いますもんね」
進藤先輩の意見を聞いて、自分の家族の感覚で軽く考えすぎていたことに気づいた。
春誠も当然いつかは家族に話すものだと思っていたのだ。それぞれの家庭で、事情も関係性も考え方も何もかも違うと言うのに。
「まだ高校生やのに、なんや自分らはめっちゃ生き急いでる感じがして怖いわ〜」
「生き急いでる...でもたしかに勢いに任せて進めようとしてる感は否めないです」
そう言われてみて初めて、知らず知らずのうちに焦っていた気持ちがふと立ち止まる。
たしかに、俺たちは出会ってまだ一年も経っていないのに、何をそんなに焦っているのだろう。
俺はラッキーなことに、カミングアウトしても受け入れてくれる人が周りに多い。
でも、春誠はどうだろう。カミングアウトすることによって、家族関係にヒビが入ったりしないだろうか。
自分のことばかり考えていて、春誠のことまで気が回っていないどころか、無意識のうちに焦らせるようなことをしていた気がする。
放課後になり、春誠といつも通り落ち合う。
「冬夜おつかれ。進藤先輩とのお昼楽しめた?報告してくれてありがとね」
「あ、うん。一応連絡しといたほうが安心するかなと思って。あの、本当にただの先輩後輩だから」
「うん、わかってる。あの時は暴走してごめんね。冬夜の交友関係に口出すつもりはないんだけど...」
「俺もわかってるよ。嫉妬するほど好きでいてくれるんだなって思うと嬉しかったし」
春誠が恥ずかしそうな、安心したような複雑な表情で笑う。
「今日進藤先輩に、家族にカミングアウトした話をしたんだ。藤崎くんも?って聞かれたから、春誠はまだだって言ったら、無理して言わなくてもいいんじゃないかって。家族だからこそ割り切れない感情がお互いにあるから、春誠が傷つかないか心配だって。あと、俺たちが生き急いでる感じがして怖いとも言われて、俺、たしかに無意識に焦ってたかもしれないって思ったんだよ」
「そっか。そんな風に言ってくれてたんだね。たしかに自分らしく生きるぞー!ってなって突っ走ってた感じはあるよね、僕たち二人とも。もっと落ち着いて、ゆっくり進んでいけばいいのかもしれないね」
「うん。だから、俺、春誠のこと焦らせてたと思うから本当にごめん。自分の家族の感覚で、春誠のカミングアウトも軽く考えてたから...」
「全然大丈夫だよ。実は僕も言いたい気持ちが強くて、なんとかなるだろうってあまり深く考えてなかったんだよね。でも、家族へのカミングアウトはもうちょっと慎重にいくことにするよ」
今日、図らずも進藤先輩にアドバイスをもらえて本当によかった。
このまま突っ走っていたら、春誠まで巻き込んで傷つける結果になっていたかもしれない。
自分たちらしく生きていくとは言っても、周りに理解してもらうことを焦ったり、押し付けたりしてはいけない。
特に家族は切っても切り離せない関係だから、カミングアウトすることが必ずしも正解とは限らない。
俺ももっと視野を広く持たないといけないなと考えさせられた日だった。
