春風の声


体育祭が終わってからというもの、進藤先輩とはごくたまに廊下ですれ違って挨拶をするぐらいで、以前と何ら変わらない日常を取り戻していた。

だが、周りにオープンな関係となったことをきっかけに俺の中で燻っている気持ちがあった。
いつも通り、春誠と帰っている時に、思い切って打ち明けてみる。

「あのさ、前から思ってたんだけど、俺、自分の家族に春誠と付き合ってるって話してもいいかな?」
「えっ。うん、僕はもちろんいいけど...話しても大丈夫そうなの?」
「たぶん、否定はされない...ような気がする」
「そっか、そうだよね。冬夜のご家族だから、明るく受け止めてくれそうだよね。話すとき、僕も一緒に行く?」
「ううん。まずは俺だけで話してみるよ。また報告する」
「うん、報告待ってるね」


はっきり言って、兄ちゃんのことがあるから俺の家族は比較的マイノリティに理解があり、俺の告白もすんなり受け入れてくれるだろうと思っていた。
特に何も気負わず、いつもの家族団欒の中で話し始める。

「あのさ、みんなに聞いてほしいんだけど。実は最近藤崎と付き合い始めたんだ」
「え?どういうこと?」
「だから、藤崎と恋人として付き合い始めた」
みんな驚きすぎて声も出ていない。

その場がシーンとして、この時点で俺が想像していた反応とはずいぶん違った。
「あら、そうなの〜素敵じゃない!」なんていつもの調子で言ってくれるだろうと思っていたからだ。


「ごめん。想像もしてなかったから、今かなり驚いていて整理がつかない」
「わたしもよ。あまりにも突然で...」
「男同士なのに恋人?冬夜は男の人が好きだったの?」
みんな混乱しているが、特にばあちゃんに関しては意味がわからないといった表情で疑問を直球にぶつけてくる。

「俺は今まで男の人を好きになったことはない。藤崎だから好きになった。それで、見ての通り男同士だけど恋人になった」
またシーンとなる。みんなそれぞれ必死に頭の中を整理しているようだ。

本当に軽い気持ちでカミングアウトしたが、あまりにも長い沈黙に、もしかして反対されるかもしれないと覚悟を決めた時、父さんがポツポツと話し始めた。

「周りに同性愛の人がいないから、今の時点で完全に理解してあげられるとは言えない。何も知らない状態だから、なんと声をかけたらいいのかもわからない。だけど、冬夜の人生だから何にも縛られずに自由に生きていってほしいと思ってるよ」

「ええ、そうね、そうね。お母さんも相手が男の子だからびっくりしちゃったけど、冬夜が好きな人と思い合っていることは素晴らしいことよね」

「おばあちゃんは男同士で恋愛というのはよくわからないけど、今の時代ではよくあるのかしら」

「社会的に言えば少数派なのは間違いないよ。もちろん昔から同性愛の人はいたと思うけど、今は昔よりも理解が広がってきてるから、よりオープンなんじゃないかな。それでもまだまだ差別はあると思うけどね」

「差別...そうね。春陽のことで差別される側の気持ちはわかってるつもりだから、冬夜にそんな思いはさせたくない。だから、おばあちゃんは冬夜と藤崎くんを祝福するわ」

「そうだね、お父さんも祝福するよ」

「お母さんも。でも、私たちの理解が足りなくて、これからもあなたたちを無神経に傷つけるようなことがあると思うの。その時はすぐに教えてね。理解したいと思っているから」


この家族のところに生まれたことは、俺にとって最も幸福なことの一つだ。受け入れてもらえないかもしれないと一瞬思ったが、みんな自分の中で整理をつけてすぐに寄り添ってくれた。

「ありがとう。俺、みんなの家族に生まれてきてよかったよ」
本心からそう言ったら、みんな「そうでしょう、そうでしょう」とワチャワチャし始めて、またいつもの団欒に戻った。
家族たちの異様な雰囲気に、なりを潜めていた兄ちゃんも「はるま?はるま?」といつものように騒ぎ出した。


部屋に戻り、春誠にすぐ話したくてメッセージを送る。
「話せたよ...っと」
なかなか既読が付かず、もうそろそろ寝るかと思った時に、春誠から電話がかかってきた。

「もしもし、冬夜?どうだった?」
「うん、最終的にはみんな受け入れてくれた」
「よかった。さすが冬夜のご家族だね」
「予想してたみたいにすんなりではなかったけどね。一瞬反対される覚悟まで決めた」
「そうだったんだ。意外だね」
「うん、正直いつもの軽いテンションでお祝いしてくれるかと思ってた。でも、みんな無理やりかもしれないけど、自分たちの中で整理をつけて、受け入れてくれたからよかった」
「息子が同性と付き合うなんて、普通はなかなか想像しないことだからね。戸惑ったと思うよ。でも受け入れてもらえてよかったね」

「春誠はご両親に話すことは考えてないの?」
「うちはね〜受け入れてもらうのがかなり難しいと思うんだよね。でもいつか、タイミングがあったら話そうかなと思ってる」
「そっか。またいつでも話聞くから」
「ありがとう。その時はお願いするよ。じゃ、今日はもう遅いから寝ようか」
「うん、おやすみ」

家族に打ち明けることができて、とてもスッキリした気持ちでその日はよく眠れた。