ついこの間文化祭が終わったというのに、またすぐに体育祭という一大イベントがやってくる。
なんで学校ってのはこんなに忙しく行事を詰め込むんだ...。
正直、運動音痴の俺にとっては何かしら理由をつけて休みたいくらい憂鬱だ。
なるべく迷惑をかけない種目を死に物狂いで勝ち取り、なんとか借り物競走になったと安心していたのも束の間、そのすぐ後に最悪のくじ運でスローガン制作係になってしまった。
各クラス一人ずつの選出だし、縦割りの先輩たちとやる作業だし、かなり憂鬱だ。
そして、ついに誰も知り合いがいない中での顔合わせの日が来た。空き教室に緊張した面持ちで入る。
どこの席に座るのが正解なのかと見渡している時、見知らぬ先輩に突然話しかけられた。
「自分、藤崎くんの彼氏の三谷くんやろ?」
びっくりした。いかにもモテそうなキラキラ一軍といった感じの先輩で、何か言われるのだろうかと緊張する。
「は、はい。そうですが」
「まぁまぁ、ええからここ座り」
先輩が隣の席の椅子を引いて、おいでおいでとジェスチャーしてくる。
言われるがまま隣に着席すると
「実はな、俺もゲイやねん」と突然耳打ちされる。
「えっ?」予想外の急展開に思わず先輩を凝視する。
「自分ら文化祭の時にカミングアウトして、もう学校中みんな知ってるくらい有名やろ。ずっと話してみたかったんよ」
人懐こい笑顔でそう言われる。
「あ、ありがとうございます」
「俺二年の進藤って言うねん。進藤先輩って呼んでな」
「あ、三谷です」
「知っとる。下の名前はなんて言うん?」
「冬夜です」
「ほな後輩やし、冬夜って呼び捨てにしよーっと」
「あ、はい」
この辺りでは珍しい関西弁で、ポンポンと会話が進むので、テンポ感についていくのに必死だ。今何か無理難題を言われたとしても、テンポ感に任せて何でもハイと言ってしまいそうな怖さがある。
「進藤先輩はその、隠してないんですか?」
小さめの声で確認する。
「隠しとるに決まっとるやーん」
「じゃ、俺と話してて大丈夫ですか?何か変な噂に巻き込まれたりとか」
「心配してくれてんの。優しい子やなぁ。でも大丈夫、俺いつもこんな感じで誰にでも話しかけてるから」
たしかに、誰がどう見ても圧倒的なオーラを放っている進藤先輩だ。コミュニケーション能力もありえないぐらい高いので、たしかに変な噂を立てる人はいなさそうだとホッとする。
「まぁ一緒のチームで、しかも一緒の係になったのもすごい縁やし仲良うしてや」
俺もまさかこんな身近なところにお仲間がいるとは思わず、一気に親近感が湧く。
「こちらこそ仲良くしてください」
それから、スローガン制作係になってしまったことで春誠とは帰りの時間が合わず、準備期間に入ってからはずっと進藤先輩と帰っている。
「自分ら噂回るってわかっててカミングアウトしたん、めっちゃ勇者じゃない?」
「まぁ、たしかに。今思えば。でも別に誰にバレても構わないと思ったんです」
「でも嫌なこと言うてくるやつかておるやろ?」
「中にはいます。でも意外とほとんどの人が無関心ですよ。みんな興味津々なの最初だけでした」
「ええ!そうなん!でも俺、いいように言われるん怖いわ〜」
「俺も怖くないと言えば嘘になりますけど、どう思うかは他者の問題であって、俺たちの問題じゃないなと思って。まぁ思考の自由だし」
「冬夜って爺さん並に悟り開いとるの何なん?」
「そういえば、ずっと気になってたんですけど、進藤先輩って関西出身なんですか?」
「せやで〜高校一年の時に家族でこの町に引っ越してきてん。関西弁目立つやろ」
「そうだったんですか。関西弁、進藤先輩に似合ってて全然違和感ないです。むしろかっこいい」
「こら〜天然人たらしが〜」
頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
進藤先輩は気さくで話しやすいので、あっという間に仲良くなれた。帰宅部なので先輩の知り合いは初めてで、いろんなことを教えてもらえて、それもまた頼もしく嬉しかった。
準備期間もいよいよ大詰めというところまできた。
スローガン制作はかなりハイペースに進んでいて、あとは設置するだけになったので、今日はもう集まらなくてもいいかという話になった。
いつものように進藤先輩と歩いていると、後ろから「冬夜!」と声をかけられる。
「春誠!久しぶりに時間合ったね」
「本当に久しぶり。僕も一緒に帰ってもいいですか?」
春誠が進藤先輩にお伺いを立てる。
「もちろんええに決まってるやーん。話してみたかったんよ、藤崎くん」
「進藤先輩ですよね。冬夜から話を聞いてて、僕も話してみたかったんです」
「ほな、俺がゲイってことももう知ってる?」
進藤先輩が相変わらずサラッとカミングアウトするので、春誠もびっくりしている。
「そうなんですか。それは今初めて知りました...」
「ええ!そうなん?冬夜ってほんま口堅いんやな。どこまでええ子やねん」
いつものように頭をガシガシと撫でられる。
「藤崎くんが冬夜のこと好きになるのわかるわ〜見た目可愛らしいのに、中身めっちゃ男前やもんな」
「そうなんです。誰にでも分け隔てなく優しいし、思慮深くて大人びているのに可愛いところもあって...」
なんかこんな展開、前にもあったな。
「大人びてる通り越して、悟り開いた爺さんみたいな時あるけどな」
「爺さんて...」思わず口を挟む。
「まぁお似合いのカップルってことや」
最後なんとなく雑に締めくくられた感じがするけど、そんなふうに言ってもらえるのは素直に嬉しい。
「お、喜んでる。かわい」
「もう、進藤先輩いい加減からかうのやめてください」
俺と進藤先輩がわちゃわちゃ騒ぐのを春誠が複雑そうな表情で見つめているのに、この時の俺は気がつかなかった。
体育祭当日、借り物競走でかっこいい人というお題を引き当てた俺は、真っ先に春誠が思い浮かんだ。
しかし、学校中に関係が知れ渡っているため、春誠を連れてゴールするのはあからさますぎる。
悩んだ俺はとりあえず同じチームを見渡し、幸いにも進藤先輩をすぐに見つけることができた。
「進藤先輩!きて!」と叫び、なんと一位でゴールすることができた。簡単なお題でラッキーだった。
司会の人に「かっこいい人」のお題を確認される。
「はい、お題はかっこいい人!ということなので、進藤くんのかっこいいところをプレゼンしてください」
「いやいや、プレゼンする必要がないぐらい誰から見てもかっこいいやろ」
「ルールなので進藤くんは黙っててください」
ゴール後のインタビューでもしっかり笑いをかっさらっていく先輩はさすがだ。
「えっと、もちろん誰から見てもかっこいいですし、フレンドリーで優しくて関西弁もかっこいいです」
「ということです!審判、判定をお願いします。...はい、クリアです!」
二人揃ってチームに戻ると、一位だったからかみんなから盛大な拍手で迎えられた。
「いや〜あれは俺にしかクリアできんお題やったな〜」
進藤先輩がまたサラッとボケて、仲の良い先輩たちにツッコまれ、どっと笑いが起こる。
ゲイカップルとして認識されている俺が相手なので、やり方を間違えると気まずい空気になるところだが、先輩の持ち前の明るさに助けられた。
体育祭は俺たち白組の優勝で幕を引き、勝利の余韻を引きずったまま片付けをしていた。
今日からまた春誠と一緒に帰れるかなと考えていたところで、タイミングよくご本人が登場した。
「冬夜、やっと見つけた。あとどのくらいで終わりそう?」
「もうほとんど終わり。あとこれ倉庫に持っていくだけ」
「僕もう終わったから手伝うよ」
そう言ってコーンを一緒に持ってくれる。
ほとんど人気のなくなったグラウンドで、春誠が不満そうに口を開く。
「借り物競走見てたよ。冬夜にとってのかっこいい人って進藤先輩なんだ」
「え...」
珍しく不機嫌そうに言われたので、少し焦りながら必死に弁解する。
「いや、あれは、真っ先に春誠が思い浮かんだけど、俺たちが恋人なの学校中が知ってるから、春誠を連れて行ったらあからさますぎるかなと思って...」
「わかってる。それでも、よりにもよって進藤先輩を選ばれるとさすがに嫉妬する」
「ごめん...」
春誠がふぅと息を吐く。
「僕こそごめん。進藤先輩はかっこいいし、冬夜のこと気に入ってるし、ゲイだし、二人が仲良いの見てると正直余裕なくなるんだ」
そうだったんだ。不謹慎ながら、春誠が余裕がなくなるほど嫉妬してくれるのがちょっと嬉しい。
「知ってると思うけど、俺は春誠だから好きになったんだよ。春誠にしかドキドキしないし、春誠は他の人とはかっこいいとか好きの種類が違うと言うか...」
なんて説明したら安心してもらえるだろうか。
倉庫にコーンを置いてふと隣を見ると、春誠がキョロキョロと周りを確認して、扉を少し閉めた。
どうしたのかと聞く暇もなく、あっという間に距離を詰められてチュッとキスをされる。
「えっ、誰か来たらまずいから」
言い終わる前に、隅っこの壁際に追い込まれ、何度も角度を変えて深くキスされる。
春誠の背中をたたき、やっと離されたと思ったらそのままぎゅっと抱きすくめられる。
「僕、冬夜だけは譲れない。誰にも渡さない。自分でも知らなかったけど、嫉妬深いみたいだから覚悟しててね」
「はい...」
「よし、戻ろうか」
今の出来事は幻か?と思うほど、春誠はいつもの調子に切り替えて、倉庫のドアを開けて先に出ていく。
俺はなかなかドキドキがおさまらないまま、慌てて後を追いかけた。
