春風の声


「冬夜のクラスの出し物は何に決まったの?」
「お化け屋敷。俺は受付だけど。春誠のクラスは?」
「仮装喫茶だよ...」
「ありがちだな。絶対に春誠ありきの企画だと見た。それで、なんの仮装するの?」
「それもありがちだよ。当ててみて」
「王子様だな」
「すごい、大正解」
「かっこよく生まれたものは仕方ない。世の中の人たちを救ってやってくれ」
「本当、今から憂鬱だよ...」

文化祭に向けて着々と準備が進められている。
1組は春誠がメインだろうから、忙しくて一緒に回るのはほぼ無理だろうな。
まぁでも、休憩時間に勇姿を見に行ってやろう。


文化祭当日、やはり春誠の人気は伊達ではなかった。他校の女子まで集まって、1組の仮装喫茶は大変な賑わいになっていた。
おこぼれで俺たち6組のお化け屋敷もそこそこ忙しく過ごしていたが、俺はただの受付なので、予定通りに交代のタイミングが来た。

一人でフラっと1組を覗きに行ったところ、相変わらず長蛇の列だった。
春誠目的の女子たちが絶えず足を運んでいるようだ。
だがしかし、俺も春誠の王子様姿を見たい。
女子たちがキャッキャ並ぶ中で、強靭な心臓をもって順番を待った。

「いらっしゃいませ」
王子様の春誠は、他校からわざわざ見にくる価値があると言えるほどかっこよかった。
想像を容易く超えてきて、あんぐりする。

「冬夜!来てくれたの!すごい並んだでしょ」
「あ、うん、まぁ」
「僕、もうすぐ休憩もらえる予定なんだけど、冬夜何時まで空いてる?ちょっとだけでも一緒に回ろうよ」
「ああ、俺はしばらく間空くんだ。だから一緒に回れると思う。待ってるよ」

俺にだけわかりやすく神対応なので、周りの視線がやや気になる。
仲のいい友達か?一体どんなやつだ?そんな心の声が聞こえ、上から下までジロジロと見られているようだった。

だが、幼少期に兄の隣で感じていた、ここから逃げ出したいという感覚には不思議とならなかった。
ああ、俺は強がりや浮かれているわけじゃなく、本心から周りにバレても大丈夫だと思えてるんだな。
春誠のおかげで、俺は自分と他人に一線を引けたんだ。


「おまたせ、冬夜。どこから回る?」
制服姿に着替えた春誠と合流し、いろんな組の出し物を見に行く。デートみたいで純粋に楽しい。

「春誠、今日と明日でいろんな女子から告白されるんじゃないか」
「うーん。どうかな。でも、されないとは言い切れないね」
「告白を断るほうも言葉選びが大変だよな」
「うん、でもこれからは恋人がいるってハッキリ言おうと思ってるんだ」
「え⁉︎」
「言ってもいいかな?もし誰と付き合ってるのか聞かれたら、冬夜だって」
「うん、俺はもちろんいいけど。春誠は平気なのか?あんなに悩んでたのに...」
「僕、この前冬夜と話して、すごく吹っ切れたんだよね。今はいい意味で開き直ってる。誰にどう思われても、僕と冬夜の価値は変わらないし、冬夜と堂々と生きていきたいって気持ちが自分の中で一番大切だから」
「そっか。うん、俺はずっと隣にいるよ」


それから、文化祭の二日間で本当にたくさんの女子から告白された春誠は、恋人がいると丁重に断り、相手を聞けば男だということで学校中を賑わす大ニュースになった。
噂は一気に駆け巡り、ついに文化祭が終わる頃には俺のところまで届いた。

「ちょちょちょちょ、オカン!藤崎春誠の恋人がオカンだって噂が流れてんだけど!」
「なにそれ、女子がそんなこと言ってんの?断られた腹いせか?」
「オカン藤崎と仲良いから巻き込まれてる感じ?」

みんなが俺を庇おうと勇み足になっているところで、こちらも覚悟を決めて爆弾を投下する。

「いや、それが本当のことなんだ。俺、本当に藤崎と付き合ってる」

しばらく時が止まったように静かになる。

「ええ⁉︎まじで付き合ってんの⁉︎」
羽山のクソデカボイスが沈黙を切り裂く。

「まってまって、いくらオカンが可愛いとはいえ、オカンは男子だよな?」
「つまり藤崎もオカンもそっち系ってこと...?」
「そっち系かどうかはわからないけど、好きになったのが藤崎だった。誰でもいいわけじゃない」
「えぇ...ちょっと待って、俺混乱しすぎてる」

わかりやすく頭を抱えるやつがほとんどの中、異常に順応力の高い羽山の一言が響き渡った。

「まじかよー!いや、おめでとう!あの藤崎の恋人になるとかオカンすごくね⁉︎」

羽山のこういうところに幾度となく救われている。思わず笑いながらありがとうと言う。

俺と羽山の雰囲気を見て、周りのみんなも「俺たちのオカンが〜」「藤崎にとられるなら仕方ないか」「いや、藤崎を惚れさせるなんてすごいぞ」などと冗談めかして言ってくれる。

春誠の周りはどうだろうか。注目度が高い分、春誠のほうが噂に上りやすく、好感度が高い分、がっかりされやすい。
開き直ったと言っていたが、実際に心ない言葉を浴びて傷ついていないだろうか。


下校時間、いつものように下駄箱で落ち合う。
心配していたが、意外にも春誠は憑き物が落ちたようなスッキリした顔をしていた。

「冬夜何か言われた?」
「あ〜うん。みんなびっくりしてたけど、羽山がおめでとう!って反応してくれたからか、最後にはみんな祝福の雰囲気になったよ」
「さすが羽山だし、冬夜のクラスって本当に順応力の高い人が多いね」
春誠がびっくりした顔でそう言う。

「春誠はどうだった?」
「うん、まぁ振った女の子たちには泣かれたり、疑われたり、それなりに大変だったけど。噂を聞いて直接何かを言ってくる人は今のところいないかな」
「そっか。みんな意外とそんなもんか」

春誠が傷ついていなくて心底ホッとした。
みんな口々に噂はするだろうし、いろんな感想を持つだろう。それはもう自由だし、止めることもできない。
現に、噂の渦中の俺たちが一緒に帰っているので、周りからの視線もいつも以上に感じる。

だけど、これでいいんだ。自分たちで選んで、自分たちで生き方を決めたんだ。

「僕、今ようやく自分らしく生きているって思えて、すごく清々しいよ」
春誠の表情が晴れ渡っている。今はそれが全てだ。