まさかこの恋が実るとは思ってもいなかったので、ただただ舞い上がっていた。
家に泊まりに来てくれた時には我慢できずにキスまでしたが、拒まれるどころかむしろ嬉しかったと言ってくれた。
冬夜とさらに恋人らしい雰囲気になれて、何度でも言わせてもらうが、ただひたすらに舞い上がっていた。
だが、夏休み明けにクラスメイトから「夏祭りで見かけたよ」と話しかけられた時、一気に冷水を浴びせられたような気分になった。
手を繋いだ場面は見られていなかったか。
ちょっとしたやりとりの中でゲイカップルだとバレていないか。
突然冷静になって、大きな不安に襲われる。
もちろん冬夜のことは大好きで、愛おしくて、これからもずっと一緒にいたい。
そして、自分らしく生きていきたいとも思っている。
しかし、いざカミングアウトすることを考えると綺麗事だけでは済まされない。
冬夜はゲイではないので、偏見にぶち当たった時、この恋に終わりが来るんじゃないか。
そんなマイナスなことばかり考えてしまい、フワフワとした高揚感から一気に現実に引き戻される。
「おつかれ、春誠」
「あ、冬夜。おつかれさま」
いつものように下駄箱で合流し、帰路につく。
途中、冬夜から公園で話そうと誘われ、誰もいない公園のベンチに二人で腰掛ける。
「今日さ、クラスメイトに夏祭りで見かけたって言われたんだ」
僕も全く同じことがあったのでドキっとする。
「それで、付き合ってることはまだバレてないけど、これからどうしていきたいか話し合っておこうと思って」
「冬夜は、僕たちの関係を誰かに話したいと思ってる?」
「うーん。そうだな。わざわざ誰かに話すことまでは考えてないけど、隠す必要もないかなとは思ってる。春誠は?」
「僕は、正直今は誰かにバレるのが怖いっていう気持ちが強い。ありのままで生きていきたいって決意したはずなのに、いざとなると否定されるのが怖い。これまでの努力も、自分の人格も、他者からの評価も、それに冬夜も、全てを一気に失うような気がして...」
「何も失わないよ。俺が春誠を好きな気持ちは、他人にどう思われても、何を言われても変わらない。それに、春誠自身だって何も変わらない。春誠の人格と今までの努力は誰にも否定できないし、俺たちのことをどう思うかは他人の問題だと思う。だけど、無理に言う必要もない。隠していてもいい。春誠がどんな選択をしても、どんな結果になっても、俺は絶対的な味方だし、ずっと隣にいるよ」
あぁ、こういうところだ。冬夜の深い優しさに包み込まれる。冬夜の言葉一つ一つにこれまでの苦労と葛藤が詰まっているから、それがどうしようもなく心に響く。
「あ、俺、知ったようなこと言ってごめん」
「ううん。ありがとう。その通りだなって思えたし、冬夜を好きになってよかったなって感動してたところ」
「前から言ってるけど、俺は春誠のおかげで周りの視線が怖くなくなったんだよ。今なら、これが俺の兄ちゃんですって学校の真ん中で叫べるし、春誠のことも俺の彼氏めっちゃかっこいいだろ〜!ってみんなに自慢できる」
冬夜が笑顔をそう言っているのを聞いて、ふと腑に落ちるものがあった。
そうか。セクシュアリティに囚われていたのは他の誰でもない、自分自身だったんだ。
セクシュアリティは僕を構成するほんの一部であって、僕の全てではない。ましてや他人にジャッジされるものでもない。
残念だ、もったいない、気持ち悪いと思う人がいても、それはその人の気持ちであって、僕がどうにかできることじゃないんだ。
もう誰かに理解されるために生きるのはやめよう。
僕は僕として、大好きな人と堂々と生きていきたい。
