春風の声


あれよあれよと夏休みがやってきた。

高校に入ってから怒涛の一学期だったので、こうしてボーッと毎日を過ごしていると、春誠と付き合ったのが現実なのかどうかもたまにわからなくなるぐらいだった。
部活もバイトもしていない堕落した夏休みを送る俺とは違って、春誠は塾や習い事で忙しそうだ。

ノルマはさっさと終わらせたい派の俺は、もうとっくに夏休みの課題も終わらせて、ただただ毎日が過ぎるのを待っていた。
塾も習い事も高いし、何よりやりたくないし、俺は何かバイトでもした方がいいのかな〜と求人サイトを見ていたところで、春誠から電話がかかってきた。

「久しぶり冬夜。元気?」
「うん、毎日ひま〜春誠は元気?」
「元気だよ。13日に花火大会あるの知ってる?よかったら一緒に行かない?」
「え!行く行く!絶対行く!」

春誠が忙しいのに加え、家も遠いため、夏休みに入ってからまだ一度も会えていなかったので、突然会える予定ができて飛び跳ねる。

「その日は塾とか習い事とか何もないの?」
「うん、お盆休みだから休みなんだ。せっかくだから冬夜と夏っぽいことしてみたいなと思って」
春誠がそう言ってくれて、胸がキュンとする。

「そうか、これがキュンか」
「え?キュンとした?やったー」
二人で笑いながら13日の計画を立てた。
当日、浴衣で行くかも議題に上がったが、浴衣など持ち合わせていないので、結局お互い私服で行くことにした。
恥ずかしながら、また母さんを巻き込んで私服会議を開くしかないな...という考えは一旦胸にしまい込んでおいた。


そして待ちに待った13日。
せっかくだから、祭りが始まる15時に待ち合わせようということになり、まだ暑い中やってきた。
ダンスクラブのステージ、キャラクターショー、ゲストのライブ、和太鼓などイベントは盛りだくさんだ。
とはいえ、結局は隣で一緒に過ごせたらそれでいいのだが。

最寄駅で落ち合うことになっているが、祭りのためいつもより人が多く、目立つはずの春誠でもなかなか探せずにいた。
スマホを持ちながらキョロキョロしていると、後ろからトントンと肩を叩かれる。

「冬夜、おまたせ」
「春誠」
「わー本物の冬夜だ。久しぶりに会えて嬉しいよ」

変わらない眩しい笑顔でそう言われると、毎日連絡も取っていたのに妙に懐かしく感じて「俺も会いたかった」と口から素直な気持ちがこぼれる。

「冬夜、いつもよりすごい大荷物じゃない?」
「もちろん!長丁場になるからレジャーシートと凍らせたお茶とジュース持ってきた。あとネッククーラーとハンディファン。全部春誠の分もあるよ」

春誠が心底驚いたような、感心したような顔をする。
「さすがオカンと呼ばれるだけあるね。準備がよすぎる。僕そこまで考えてなかったよ。本当にありがとう」
春誠が荷物を持つといって聞かないので、結局半分こずつにして、祭り会場まで一緒に歩いた。

ステージを見ることがメインではないので、少し後ろの方に場所をとり一息つく。
「今日も暑いのは暑いけど、いつもよりちょっとマシだよね?」
「ほんと。風が吹いてるから乗り切れそう。ラッキーだよ」
「冬夜が持ってきてくれた避暑グッズもあるしね」
ステージをなんとなく見ながら夏休み中の出来事をあれこれ話していると、あっという間に夕焼け空になってきた。

「あのさ、急なんだけどもしよかったら今日うちに泊まりに来ない?」
「え、でも俺着替えとか何も...」
「僕のでよければ貸すし、洗濯もできるから。お願い。そのために前半詰め込んで、課題も終わらせたんだ」
「そっか、だから毎日忙しそうだったんだ。ならお言葉に甘えてお邪魔します...」
「本当?うれしい。今日両親二人とも出張でいないから、気楽にのんびり過ごしてね」

それはそれで何か別の意味で緊張するが...
そう思う俺の横で、春誠は子どもみたいにはしゃいでいた。

それから屋台飯を食べ、花火までしっかり見た後、駅や電車での大混雑の中、はぐれないようにと理由をつけて手なんか繋いでみたりして、春誠の家に帰った。

「さすがに疲れたね〜」
「駅と電車の混み具合がやばかった」
「ほんと、久しぶりに人混みの中に行ったよ。冬夜、先にお風呂に入っておいで。暑いからシャワーだけでいい?」
「うん、ありがとう。家でも夏はいつもシャワーだけだよ」

そう言って先に入らせてもらっている間に、春誠がタオルと着替えを用意しておいてくれた。明らかに新品であろうパンツまで置いてある。申し訳ない。
身長が15センチぐらい違うので、部屋着もブカブカだが、袖にも裾にもゴムが入っているのでなんとかなっている。

「春誠お風呂お先にありがとう。着替えとパンツまで貸してもらってごめん」
春誠が俺を見た瞬間固まって、また天を仰いでいる。
「これが萌えっていう感情なのかな」
真面目に言うので笑える。

「ほら、遅くなるから春誠も早く」
「そうだね、入ってくる。よかったらこのお茶飲んでね」
丁寧にお茶まで用意してくれたので、ソファーに座ってテレビを見ながら一息つく。

「おまたせ〜疲れたからもう寝ようか?」
「そうだな。今日はもう寝るか」
部屋に行くと、今日は客用布団が敷かれていなかった。

春誠を見ると、当たり前のような顔でベッドをポンポンと叩いている。少し緊張しながらベッドに入る。
ぎゅっと抱きしめられてドキドキもするし、ホッと安心する気持ちにもなる。

「久しぶりに会えたから冬夜を充電する」
「なんだそれ」
笑っているとふと顎の下に手を置かれ、クイっと上を向かされる。
目が合って少しの緊張感が流れる。ドキドキして苦しい。

「冬夜、キスしてもいい?」
ああ、ついにこの時が来た。改めて確認されるとものすごく恥ずかしい。
とりあえず、オッケーのつもりで目を瞑ると、チュッと音を立てて唇が重なる。
ふぅと息をつく。春誠の仕草一つひとつがかっこよすぎて苦しい。

気まずくてキョロキョロしていると、今度はくるりと体勢を変えられる。春誠が俺に覆い被さるような形になり、両手は恋人繋ぎでベッドに縫い付けられる。

「ごめん冬夜。もうちょっとだけ」
そう言って何度も何度もキスの雨を降らされる。されるがままになっていると、だんだんと深いキスになってきて目を見開く。

初めてなのでどうしていいかわからず、声にならない声をあげるが、気づいていないのか気づかないふりをしているのか、なかなか離してもらえない。
やっと離された頃には息も絶え絶えで、恥ずかしすぎて思わず顔を覆った。

「ごめん、我慢できなくて。嫌じゃなかった?」
頭を撫でながら心配そうに聞かれる。
「嫌じゃない。どうしていいかわからなかっただけ」
正直にそう言うと、春誠がハァとため息を吐きながら少し距離をとってベッドに腰かける。
「冬夜が可愛すぎておかしくなりそう。自分がこんなにブレーキの効かない人間だとは思わなかった...」

男子高校生なので、もちろんそういった欲も理解できる。
普段余裕そうな春誠が、情けない顔で反省しているのが可愛くて、今度は俺が頭を撫でておいた。
「俺、キス嬉しかったよ」
そう言うとまたギュッと抱きしめられる。

「あ〜可愛すぎる。たまらない。僕、本当に冬夜のこと大切にしたいと思ってるから、それだけはわかってて」
「うん」
大切にしてくれていることはもう十分伝わってきている。性別を超えて藤崎春誠という人間を好きになったんだと改めて実感した夜だった。