翌日から晴斗はコンタクトに戻り、斗真はメガネに戻った。琴葉からの告白は断ったが、琴葉は仲良くしてくれているし、ほかのクラスメートとの関係も変わっていない。
明確に違うのは、晴斗に告白されたこと。
晴斗は考えなくていいと言った。だから斗真が気にする必要はない。分かっているのに、考えてしまうのだ。考えなくてはいけない、なにも考えずにすごしてはいけない、そう思ってしまう。
それと、晴斗との距離が少しだけ遠くなったこと。
表面上はなに一つ変わっていない。でも、引いているような感じがする。遠慮している感じがする。
並んでいて肩が触れたときも、横からノートを見るときも、自販機で買った飲みものを飲むときも。そばにいるのに、遠くなったような気がするのだ。
――告白したこと、気にしてる? もしくは、俺のことを気遣ってる?
だったら別に、気遣わなくてもいいのに。
晴斗がなにを言ってもずっと親友で、ずっと好きなのに。
「さっきの数学の問題、むずかったね」
授業が終わり、ノートを閉じながら晴斗が言う。斗真も同じくノートを閉じて答える。
「な! でもだよ晴斗、x無視して解いてみな? ちゃんと解けたから」
「なにその解き方、やば」
晴斗は笑った。
メガネをかけているから、動きも表情もはっきりと分かる。笑い方は変わっていない。斗真といるときによく笑うことも。
横顔を見る。一番大好きで、大切な人の横顔。周りは斗真にかっこいいと言うけれど、斗真からすると晴斗のほうがかっこいい。
見ていると、晴斗がこっちを向いた。
目が合う。
数秒あって、斗真に笑いかける。爽やかな笑顔になる。
瞬間、心の中に問いが浮かんだ。
――これって、本当に親友としての気持ちなのか?
心臓から顔まで、一気に熱が広がっていく感覚に、うつむく。
「斗真? どうかしたか?」
前までだったら顔を近付けて確認していたのに、そうすることはなかった。引きがある。
「大丈夫。たださっきの問題、y無視しても解けたんじゃね?って」
「そんなことある? やってみようかな。斗真、発想がすご」
笑う。また、熱が広がっていく感覚。斗真は顔をそらした。
――昨日言われたから、意識してるだけだ。
普通に、と言い聞かせる。普通に、笑って明るくすごす、それだけ。
だって、晴斗が笑っていることが嬉しいのは、ずっと前からなのだから。
だが、笑った顔だけではなく、なにかを考えているときの顔、ふざけているときの顔、隣を歩いているときの顔、どれもつい見てしまう。問いが頭をよぎり、一人でドキドキしてしまう。
今更、顔を見たり見られたりするくらいで恥ずかしくなる理由はない。
ないはずなのに。
シャーペンをくるくると回す晴斗を見つめていると、晴斗が不意にこちらを向いた。
「どうかした?」
今度は顔を近付けてくる。先ほどみたいに引きがなく、だからこそ反射で顔をそむけてしまう。
「なんでもない」
もう一度うつむく。晴斗みたいに、顔見て分かったなんてそんなこと、あるのだろうか。
――『親友だから』という言葉で、説明はつく?
あのときから晴斗も遠く引いていない距離で接してくれていた気がするけど、それどころじゃないうえに、むしろドキドキに拍車をかけるものでしかない。
一つだけ、分かった。
晴斗の顔を、まともに見ることができない。



