――本当に、こういうことってあるんだ。
冷静だった頭が一気に熱を持って、沸騰しそうになる。
未だに信じられない。ましてや、そういうのとは無縁だった自分が。
琴葉の告白が何度も再生されて、頭の中がいっぱいで、なのになにも考えられない。
そういう意味で好きかと聞かれたらそれは違う気がする。少なくとも、そういう意味で好きなわけではないと思う。
じゃあ、琴葉のことをフるか? それはそれで話が違うというか……。
あっという間に玄関について、まだまとまらない思考のまま上靴を脱いだ。それと同時に。
「……斗真」
名前を呼ばれて、斗真は顔を上げる。やや人が残る昇降口、下駄箱に寄りかかるようにして晴斗が立っていた。
「晴斗じゃん」
斗真は気持ちを切り替えて、すぐにいつものように笑う。
「なんで?」
「斗真が心配だったから。帰り道でこけたり、迷子になったりしないかなとか思ったり」
「そんなことないし」
「まあ、斗真と帰りたかったんだけどさ」
すぐに靴を履き替えて、斗真は晴斗に並んだ。
こっちも一緒に帰りたいと思っていたから、嬉しい。
――まずは気持ちを切り替えなきゃ。考えるのは家に帰ってからでいい。
「で、斗真、なにしてたの?」
でもその嬉しさは、琴葉からの告白を思い出すことで薄れてしまう。喜んでいる場合じゃないだろと、また鼓動が速くなる。
「補習? 違うか、呼び出しって言ってたし。てことは先生からで、職員室か」
「間違ってるし。なんで断言するわけ」
「だってそれしかないから」
「んなわけないじゃん」
「……斗真さ、なんかあった? 絶対なんかあったよね?」
晴斗は目ざとく斗真の気持ちの流れを見抜く。否定したいが、こんなときの晴斗は嘘をついても意味がない。
「……あった」
「なに?」
「実はさ、告白されてた。そういう、呼び出し」
斗真は包み隠さずに事実を伝えた。
「へぇ、誰?」
茶化すことはせず、晴斗はいつもと同じくらいの熱量で会話してくれる。
「琴葉さん」
「あぁ。……それで、返事は?」
ただ、普段よりも淡々としているように聞こえるのは、表情が張り詰めているように見えるのは、気のせいだろうか。
「……まだ、さすがに」
その一言で表情が和らいだように見えたのは、低視力による錯覚だろうか。
「付き合うかどうかなんて決められないって。琴葉さんのことはそういう目で見てないし」
「いい子だけどな」
「そう! だからさ……」
琴葉をフるか迷ってしまうのは、端的に言って琴葉がいい人であることも関係していた。
細やかな気遣い、まとっている穏やかな雰囲気、相手を思いやった言葉選び。小さな『いいこと』の集合体みたいだと斗真は思う。
「晴斗はさ、もし琴葉さんに告白されたらどうする? 付き合う? 付き合わない?」
「……俺はフるかな。琴葉さんは友達って感じ」
「正直に言ったら、俺もそう思う。でもさ」
隣を歩く晴斗の表情が堅くなる。
「こんなにいい子なんていないし、俺のこと好きになってくれる子もいないし……」
口にしていくうちに、考えがまとまっていく。
「大切にしたほうがいいんじゃないかなって。断ったらもったいないんじゃないかって」
「好きな人と付き合ったほうがいいんじゃないのか」
抑揚のない口調で晴斗が言った。
晴斗の言うことには共感できる。斗真もそう思う。
「それはそうなんだけどさ……」
どうしても決めきれない。
分かれ道に到着する。晴斗とは家の方向が違って、ここでいつも別れていた。
晴斗は足を止める。斗真も足を止める。
「……考えなよ」
「もちろん。分かった。約束な」
斗真は力強く頷いてみせた。
「また明日、斗真」
「うん。晴斗、また明日」
きちんと考えることを約束すると、手を振って別れた。



