【短】親友がコンタクトを外したので、




 あのあとも『顔がいい』と『メガネかけて』は続いた。

 授業が終わるとかなりの確率で琴葉を中心に女子が斗真の席を囲むようになった。琴葉が話しかけてきたのを筆頭に質問大会と雑談が始まる。

 女子との交流だけではなく、男子との交流も増えた。今までは常に晴斗といるためほかの男子と関わることは多くなかった。

 机を並べて昼食をとったり、食べ終わったあとはとりとめのない話をしたり。晴斗といるときの楽しさにはかなわないものの、それはそれで違った楽しさがある。

 そうしていろいろな人との交流を終えて席に戻ってきたり、集まっていた女子がいなくなると、晴斗は言うのだ。


『メガネかけて』

 なんで?

『危ないだろ。見えてないし』

 ちょっとだけならできてるじゃん。

『自分が誰と話してるか分かってないのに?』

 ……でもまだ理由が。

『まだ言ってるわけ?』

 そう言うくらいだったらもう教えてくれてもいいだろ。

『嫌だ』


 会話の中でさり気なく教えてくれるよう頼んでみても、最終的には断固拒否される。

 理由探しは難航中、うーん……。


「斗真、帰ろう」


 すべての授業と帰り学活が終わり、晴斗がリュックを背負いながら立ち上がった。


「うわ、ちょっとストップストップ」


 荷物をまとめながら晴斗に言う。斗真はリュックのチャックを閉じて席を立ちかけたが、


「……あ」


 予定があったことを思い出した。


「晴斗ごめん、今日用事ある」

「え、なんの?」

「なにってほど大した用事じゃないんだけど、とにかくそういうわけで」


 そそくさと教室から出ようとした斗真に、晴斗はついてくる。


「用事って呼び出し?」

「そんなとこ」

「どれくらいかかりそう?」

「そんなにかかんないんじゃね?」


 隠す必要はないのだが適当に返事をしていると、晴斗は不機嫌そうに『なにそれ』と呟く。

 晴斗だっていつも俺に隠しごとしてるくせに。だったらこっちだって一つくらい隠しててもいいだろ。

 そんな意地悪な気持ちよりも、申し訳ない気持ちが勝った。

 晴斗、ほんとごめん。俺も一緒に帰りたかったけど……!

 斗真は晴斗を置いて、教室を出た。

 今までの経験をいかしてうまく人を避けながら早歩きをし、階段を下りて一階へ。玄関には向かわず、反対方向に行く。

 角にあるドアを開けて到着したのは、中庭だった。

 自販機で飲みものを買うか迷って、諦める。地面にリュックを置いて、入口をうかがう。

 数分後、斗真はドアがきしみながら開く音を聞いた。ドアの陰から顔を出したのは。


「ごめんね、待たせちゃった?」

「そんなことないよ」


 中庭に入った琴葉はまた謝った。


「待たせちゃったことだけじゃなくて、急に呼び出しちゃったことも」


 駆け足で目の前までやってきて、頭を下げる。


「私のために時間をとってくれたことからもう、なんていうか……」

「いやそこまでじゃないから!」


 昼休みに『放課後、中庭に来てくれる?』と言われたときはびっくりしたけど、それは謝ることじゃないし。今日晴斗と帰れなかったのは……言い表せないくらい残念だけど。


「で、話って……」


 聞くと、琴葉は背負っているリュックのショルダー部分に触れる。斗真と話すことに慣れたようで、前みたいにうつむく回数は減った。斗真の方をしっかり見て、琴葉は口を開く。

 斗真も今度は、物申しに来たのかな?なんてことは思わなかった。


「……うん。あのね、斗真くんはびっくりするかもしれないけど……」


 これから言われることの内容は知らなかったが、この空気感や行動がなにを意味するのかは、さすがに見当がついていた。


「斗真くん……――私、斗真くんのことが好きです。もしよければ、付き合ってください」


 話しかけてくる回数が増えたこと。話していてとても楽しそうにしていたこと。少しだけ距離が近くなったこと。全部気付いていた。


「ずっと気になってて、話してみたら面白くて気さくだし……ああ、好きだなって、思った」


 だから、パニックになることはなかった。冷静でいられた。話も理解できた。


「――斗真くんと付き合いたいなって……私は思ってます」

「…………ごめん」


 斗真は琴葉を見据えて、言う。人生で初めてされた告白に、こころなしか心臓の鼓動が速い。


「付き合えませんって意味の『ごめん』じゃなくて……、琴葉さんの気持ちは、分かったから、そのうえで一旦保留にさせてほしい。考えさせてほしいから今は答えられないって意味の『ごめん』なんだけど」

「……やっぱり、私に言われても困る、よね」

「や、困るとかでは断じてなくて」


 言葉に詰まって、わたわたしてしまう。誤解を招かないようにするにはなにを言えばいい? どう行動すればいい?


「そういうことじゃなくて、琴葉さんが考えて伝えてくれたから、俺もそうしたいなって……」


 ちらりと琴葉を見ると、琴葉は小さく頷いた。


「分かった。斗真くんが納得できる答えが出るまで、待つから」

「……ありがとう」


 斗真は安心して笑みを浮かべる。琴葉もつられて笑顔になった気がする。


「それじゃ、私は部活あるから。今日はありがとう。また明日ね」


 ひらひらと手を振った琴葉に、斗真も振り返す。中庭から出ていったのを見送ってから、自分も中庭を出て玄関へ歩き出した。