「おはよう、斗真」
「晴斗、おはー」
「……え」
晴斗は、いつもならここで斗真の席の前を通りすぎていくところだったが、今日はなぜか歩みを止めた。
「斗真……メガネ」
「……ああ」
「なんで外したの」
「いや……気分?」
昨日散々考えて、『見えなければいいんじゃ?』という晴斗と同じ発想に至ったことは教えられない。
斗真が誤魔化すと、晴斗は自分の机にリュックを置いた。手つきが乱暴だったのか、大きな音がする。
「視力悪いのにどうして外すわけ?」
「前回の慣れがありますので」
隣で晴斗が大きなため息をついた。
「言っても意味ないのは分かってんだけどさ、俺の話聞いてた?」
斗真はなにも言わない。こうなるのは分かってたけど……な?
「……そういえばさ、斗真」
準備を再開すると、もう気にしないことにしたのか普段の声音で名前を呼ばれる。
「ん〜?」
顔を上げて横を向きそうになったのをどうにか返事だけでこらえる。
「なに?」
「……斗真、絶対なんかあったよね」
晴斗が立ち上がって近付いてくる。見えてはいないが、音で分かった。
顔を覗き込まれる。ぼんやりしている中、晴斗の顔がはっきりと見えて、戸惑う。目のやり場に困って下を向くと、晴斗はしばらくしてから離れた。
「……そういうこと?」
「…………」
「こっちもそう思っていいってこと?」
斗真は小さく頷く。やや間があって、晴斗が言う。
「だとしたら斗真さ――」
複雑に、いろんな気持ちを含んだ声で。



