――「ただいま」
しかし、それでストレスがたまらないわけがなかった。
心音が本当に、心から周りに合わせることを望んでその通りに立ち回っているくらい鈍感だったらどれだけよかっただろう。
残念ながらそんなに鈍い頭を持ち合わせていない心音は、当然ながらストレスをためて息をしている。
塵も積もれば山となる、ということわざはあるが、ストレスも積もれば山となる、と言い換えればどうだろう。
心音のストレスが積もったものは、とっくのとっくに山となっているだろう。
そのストレス発散、とは言えないが、山になるほどストレスが積もっても、心音という人間が壊れない理由はきちんとあった。
――「あ、心音おかえり!」
我が家のリビングに、今さっきまで靴を履いていた足を踏み入れる。
「ただいま、愛音」
彼女に向けた笑顔は、決して作り物ではなかった。
そして彼女こそが、心音が誕生日プレゼントでスマホをもらえるまで、休み時間の相手となっていた妹である。
いつしか休み時間に自分のクラスに来なくなった姉に対して理由を聞いてきたことはなかった愛音は、心が優しい自慢の妹だ。
頭がいいため中学校は私立に行き――心音は中学校も公立に行くことが確定していたため、休み時間に来なくなった理由を汲み取って私立を選んだのかもしれないが――いつもにこにこと笑っていて、姉妹喧嘩をした記憶はなかった。
小学校時代、心音は途中から妹よりもスマホを選んだがそれに関して後悔に苛まれないくらい、愛音とは今も仲が良い。
「あ、そうだ。友達と帰りにコンビニ寄ったんだけど、心音の分のアイスも買ったよ!」
「そうなの?ありがとう、愛音の分は?」
「愛音は帰りながら食べた〜。心音も食べなよ、って押しつけるわけではないけど」
「ううん、食べるよ」
アイスくらい食べても夕ご飯はお腹に入るだろうと思い、ちょうど小腹が空いていた心音は頷いた。
「で、なんのアイス買ってくれたの?」
「それは見てのお楽しみ!喜ぶと思う!」
愛音の返事に、カバンを壁の隅に置いた心音は、少しわくわくしながら冷凍庫の引き出しを開けた。
「……あっ」
「期間限定、瀬戸内レモンのアイスバー!どうよ!?」
「あー……やめておこう、かな」


