東京での公演から2か月後、契斗は自身のセクシュアリティを公表した。家族の反対を押し切り、事務所と仲間を説き伏せて、実現させた。
単独公演のステージ上でマイクを握り、ファンが見ている前で、恋愛対象が男性であることを自ら打ち明けた。事前に知らされていたのは社長とメンバー、一部のスタッフだけで、ファンにとってはまさに青天の霹靂だった。
韓国のアイドルグループのメンバーによるカミングアウトのニュースを日本のネットメディアの記事で知った。現役のアイドルがセクシュアリティを公にするのは珍しい。海外でも話題になり、様々な反応を呼んだ。契斗のプライベートを詮索するようなセンセーショナルな筆致の媒体もあり、記事のコメント欄には無神経な憶測やバッシングも並んでいた。
しかし、ファンの反応は危惧していたほど辛辣なものではなかった。戸惑いはあったようだが、大きな問題にまでは拡がらず、ファンの多くは概ね理解を示したようだった。
アイドルを応援する女性ファンとしては、恋愛対象が男であるという事実に複雑な思いも抱くだろうが、それ以上に契斗の勇気を支持する声が大きかった。リーダーとしてグループを牽引してきた契斗の献身的な努力と地道に積み重ねてきた信頼があったからこそ、非難を浴びることなく、むしろ幅広い共感を得る結果になったのだろう。
契斗の決断は、アーティストとしても人間としても彼の評価になんら悪影響を与えることなく、むしろ世界的にニュースが報道され、性的マイノリティのコミュニティからは勇気ある行動と讃えられたことで、知名度が高まる結果になった。
翌年にはニューヨークのステージにも招かれ、ミュージックビデオの再生回数も倍以上に跳ね上がった。
しかし、快進撃は長くは続かなかった。ニュースが世間を賑わせたのはわずかな間だけで、みんなすぐに忘れてしまった。契斗にとってはいいことか悪いことか微妙なところではあったが、半年もしないうちに、なにごともなかったかのように通常の活動にもどった。
そしてさらに1年後、所属事務所の方針と一部メンバーの意向により、グループは活動を終え、解散することを発表した。デビューから5年あまり。最年長メンバーの契斗は29歳になっていた。
だれもが口ずさめるような代表曲こそなかったが、熱心なファンに愛され、メンバーのひとりも欠けることなく、不祥事や事故もなく、事務所の規模からすれば奇跡的といえるほどの結果だった。
客席の電源が落ち、周辺が暗くなる。歓声が上がり、ホール内の壁を跳ね返ってうねりを生み出す。やがてSEが流れ出すと客のボルテージは最高潮となった。ほとんどは女で、甲高い声で推しの名前を叫んでいる。色とりどりのうちわが振られ、ペンライトが点灯した。暗闇のなかライトの光が揺れて幻想的な空間を演出する。
強い照明が輝き、ステージ上に複数の人影が並ぶ。均等に距離をおいて整列した複数の影がゆらめき、ゆっくりと前進した。ファンたちの歓声に包まれ、一歩一歩踏みしめるように歩みを進める。
ステージ中央に全員が揃い、一列に並んだタイミングを見計らって、照明が明るくなった。眩しいほどの光のなか、数百人のファンが待ちわびた姿が現れた。
最後にして最大の公演は素晴らしいものだった。練習生時代はもちろんのこと、デビューしてからもトレーニングを怠らず、楽曲制作にも精力的に関わってきた。歌もダンスも構成も韓国国内トップクラスのアーティストと比較してもひけを取らないほどだった。とりわけ契斗のダンスはすさまじい迫力だった。2年前に負った怪我で手術とリハビリを経験し、影響もまだ残っているはずだったが、ブランクを感じさせない見事なパフォーマンスで会場を魅了した。
グループの中心としてメンバーを引っ張り、ほかのメンバーが契斗を信頼していることがステージを見るだけで理解できた。思わず目頭が熱くなった。契斗との関係がなかったとしても、感動したはずだった。客席の照明が落とされていなければ、周囲から訝しく思われただろう。
約3時間、5年間の活動期間中にリリースしたほぼすべての楽曲を披露し、アンコールも2度行われた。最後の曲ではハジュンらメンバーも涙を流し、客席からも啜り泣く声が聞こえた。
デビューした年の韓国公演以来、一度も会場に足を運んでいなかったおれに解散コンサートの招待状が届いたのは、解散が発表された直後だった。
最後部の関係者席から、ステージ上のメンバーを見つめた。契斗はメンバーのなかで唯一最後まで涙を見せず、泣きじゃくるハジュンらの肩を抱いてやり、ファンに向けて感謝を伝える言葉を綴った。最後の曲を歌い終えたあと、だれよりも深く長く頭を下げていた。
きらびやかな照明と紙吹雪を浴び、あたたかな拍手に囲まれた契斗の姿を目に焼き付けた。練習生時代を含めた10年以上もの間、二十代の若者が経験する恋愛や青春をあきらめ、プライベートな時間を含めた生活のすべてを捧げて、ただひたすらに、ひたむきに、信念を貫き通し、アイドルとして生きた男の生き様を、しっかりと見つめつづけた。
単独公演のステージ上でマイクを握り、ファンが見ている前で、恋愛対象が男性であることを自ら打ち明けた。事前に知らされていたのは社長とメンバー、一部のスタッフだけで、ファンにとってはまさに青天の霹靂だった。
韓国のアイドルグループのメンバーによるカミングアウトのニュースを日本のネットメディアの記事で知った。現役のアイドルがセクシュアリティを公にするのは珍しい。海外でも話題になり、様々な反応を呼んだ。契斗のプライベートを詮索するようなセンセーショナルな筆致の媒体もあり、記事のコメント欄には無神経な憶測やバッシングも並んでいた。
しかし、ファンの反応は危惧していたほど辛辣なものではなかった。戸惑いはあったようだが、大きな問題にまでは拡がらず、ファンの多くは概ね理解を示したようだった。
アイドルを応援する女性ファンとしては、恋愛対象が男であるという事実に複雑な思いも抱くだろうが、それ以上に契斗の勇気を支持する声が大きかった。リーダーとしてグループを牽引してきた契斗の献身的な努力と地道に積み重ねてきた信頼があったからこそ、非難を浴びることなく、むしろ幅広い共感を得る結果になったのだろう。
契斗の決断は、アーティストとしても人間としても彼の評価になんら悪影響を与えることなく、むしろ世界的にニュースが報道され、性的マイノリティのコミュニティからは勇気ある行動と讃えられたことで、知名度が高まる結果になった。
翌年にはニューヨークのステージにも招かれ、ミュージックビデオの再生回数も倍以上に跳ね上がった。
しかし、快進撃は長くは続かなかった。ニュースが世間を賑わせたのはわずかな間だけで、みんなすぐに忘れてしまった。契斗にとってはいいことか悪いことか微妙なところではあったが、半年もしないうちに、なにごともなかったかのように通常の活動にもどった。
そしてさらに1年後、所属事務所の方針と一部メンバーの意向により、グループは活動を終え、解散することを発表した。デビューから5年あまり。最年長メンバーの契斗は29歳になっていた。
だれもが口ずさめるような代表曲こそなかったが、熱心なファンに愛され、メンバーのひとりも欠けることなく、不祥事や事故もなく、事務所の規模からすれば奇跡的といえるほどの結果だった。
客席の電源が落ち、周辺が暗くなる。歓声が上がり、ホール内の壁を跳ね返ってうねりを生み出す。やがてSEが流れ出すと客のボルテージは最高潮となった。ほとんどは女で、甲高い声で推しの名前を叫んでいる。色とりどりのうちわが振られ、ペンライトが点灯した。暗闇のなかライトの光が揺れて幻想的な空間を演出する。
強い照明が輝き、ステージ上に複数の人影が並ぶ。均等に距離をおいて整列した複数の影がゆらめき、ゆっくりと前進した。ファンたちの歓声に包まれ、一歩一歩踏みしめるように歩みを進める。
ステージ中央に全員が揃い、一列に並んだタイミングを見計らって、照明が明るくなった。眩しいほどの光のなか、数百人のファンが待ちわびた姿が現れた。
最後にして最大の公演は素晴らしいものだった。練習生時代はもちろんのこと、デビューしてからもトレーニングを怠らず、楽曲制作にも精力的に関わってきた。歌もダンスも構成も韓国国内トップクラスのアーティストと比較してもひけを取らないほどだった。とりわけ契斗のダンスはすさまじい迫力だった。2年前に負った怪我で手術とリハビリを経験し、影響もまだ残っているはずだったが、ブランクを感じさせない見事なパフォーマンスで会場を魅了した。
グループの中心としてメンバーを引っ張り、ほかのメンバーが契斗を信頼していることがステージを見るだけで理解できた。思わず目頭が熱くなった。契斗との関係がなかったとしても、感動したはずだった。客席の照明が落とされていなければ、周囲から訝しく思われただろう。
約3時間、5年間の活動期間中にリリースしたほぼすべての楽曲を披露し、アンコールも2度行われた。最後の曲ではハジュンらメンバーも涙を流し、客席からも啜り泣く声が聞こえた。
デビューした年の韓国公演以来、一度も会場に足を運んでいなかったおれに解散コンサートの招待状が届いたのは、解散が発表された直後だった。
最後部の関係者席から、ステージ上のメンバーを見つめた。契斗はメンバーのなかで唯一最後まで涙を見せず、泣きじゃくるハジュンらの肩を抱いてやり、ファンに向けて感謝を伝える言葉を綴った。最後の曲を歌い終えたあと、だれよりも深く長く頭を下げていた。
きらびやかな照明と紙吹雪を浴び、あたたかな拍手に囲まれた契斗の姿を目に焼き付けた。練習生時代を含めた10年以上もの間、二十代の若者が経験する恋愛や青春をあきらめ、プライベートな時間を含めた生活のすべてを捧げて、ただひたすらに、ひたむきに、信念を貫き通し、アイドルとして生きた男の生き様を、しっかりと見つめつづけた。



