おもしろい話題があったのか、思い出したように肩を揺らして笑う。目尻に小さな皺が刻まれる。
デビューから2年。契斗は26歳になった。デビュー時は爽やかな明るい楽曲が多かったが、最近ではワイルドな大人の男を印象づける妖艶な曲や振り付けも増えた。多くの経験を積み、契斗の表現力も一段と増した。こうして配信で話すときには屈託がなくかわいらしかったが、ふとした瞬間に色っぽいしぐさを見せる。
布団のなかで身じろいだ。トレーニングパンツをずらし、下着のなかに右手を突っ込んだ。もう片方の手でイヤホンをはずす。契斗の声が聞こえなくなり、無音のまま笑顔で話しつづける契斗の顔が妄想をさらにかき立てた。
契斗の体に触れたのは、最後に会ったときよりもさらに前だ。しかし記憶はいまだ鮮明で、肌の感触や匂いまではっきりと思い出せた。
古いアパートは壁が薄く、隣の部屋の同僚のいびきが聞こえてきた。声や音が出ないよう注意を払いながら、乱暴に扱いた。おれの体に圧し潰されて喘ぎながら体を撓らせる契斗の痴態を頭のなかに思い浮かべながら、夢中で自分を慰めた。
16歳の契斗をはじめて抱いたとき。契斗は死ぬほど緊張して困惑していたが、おれを満足させようと必死だった。ろくに準備もしていなかったのに強引にこじ開けられて、痛みに耐えながら声をころしていた。
23歳の契斗はおれと距離を置こうとして、しかしけっきょくは身を委ねてしまった。生来のやさしさから、おれを突き放すことができなかった。おれの求めに応じ、乱暴に犯されても拒まなかった。
契斗が好きだ。
きつく握り込み、刺激を加えながら、心のなかで何度も好きだと唱えつづけた。
おれは契斗が好きだ。離れたことでよりつよく実感していた。
絶頂はあっという間に訪れた。下着のなかで炸裂させ、大量の体液がじわりと生地を濡らしていく。熱い感触は一瞬で、すぐに部屋の空気に冷やされていく。比例して、興奮も瞬時に冷めていった。あまりにあっけなく、虚しい。
終えたとたんに烈しい罪悪感に襲われるのもいつもどおりだ。自慰のネタにされているなど想像もしていないはずの契斗が朗らかに笑っている顔を直視できず、映像を停止した。
ハジュンに身を引くよういわれ、納得したうえで受け容れた。約束を守りきる自信もあった。酒と煙草をやめ、遊び相手と縁を切り、朋大とも別れた。真面目に働いて資格も取得した。自分なりに新しい人生を生きようとしていた。しかし契斗を忘れることはできなかった。ただの一瞬でもだ。むしろ好きだという気持ちは増幅していた。契斗への思いが大きく膨らみ、弾けて暴発しそうだった。自分では止められない。
スマホの連絡先を開く。来日公演以後、こちらから連絡はせず、契斗からのLINEや着信も無視していたが、連絡先は削除していなかった。十代のときとおなじだ。二度と連絡しないと決めたのにもかかわらず、どうしても消すことができない。
布団のなかでスマホのディスプレイの小さな明かりが目を刺す。契斗の名前と電話番号が表示された画面を凝視した。
グループが音楽番組ではじめて1位を獲得したとき、デビュー1周年を迎えたとき、契斗の怪我と休養が発表されたときにも、電話をかけたいという衝動に駆られた。そのたびに必死で耐えた。今度は耐えられるかわからない。
翌週にはデビュー年以来二度目の来日公演がある。これまでは会いに行くまでに航空券を予約し飛行機に乗るというプロセスが必要だった。しかし、国内となると話がちがう。電車で1時間以内の距離に契斗がいる。衝動を抑えられなくなるかもしれない。誓いを破ってしまうかもしれないと考えると、自分が怖かった。
契斗に会えば、また彼を傷つけ、足枷になる。おれはまた最低のクズにもどり、契斗の輝きを食い荒らし、精神を蝕む。おれにとっても契斗にとっても、いいことはなにもない。
会わずにいられるだろうか。連絡しないといえるか。これほど焦がれている契斗がすぐ近くにいるという状況で自制心を保てるかどうか。自信が薄れかけていた。
無理だ。自分のことはわかっている。ひとはそう簡単に変われない。おれは必ず誓いを破る。契斗のためにしてやれる唯一のことさえまっとうできない。衝動に負け、欲望に溺れ、契斗の人生を破壊する。自分自身が恐ろしかった。できることなら消えてなくなりたいとさえ思った。
いっそのことどこかへ行こうか。契斗が日本にいる数日間を乗り切ればいいのだ。しかし旅行に行くほどの金はない。やめていた酒に手を出すことも考えたが、泥酔すれば判断力が鈍り、却って最悪の方向に行きかねない。何度もおなじ失敗をしてきた。
苦しかった。契斗に会いたくて頭がおかしくなりそうだ。契斗に会えば、苦しみから解放されるだろう。しかし楽になるのは一瞬だけで、行く先は地獄だ。
電話番号を削除しないまま画面を切り替えた。再び契斗の配信視聴ページにもどり、再生する。契斗の笑顔がディスプレイに映し出される。こちらを見て親しげに語りかけてくる。
わかっていた。きっとまた今日もこのまま朝になる。こなければいいといくら願っても朝はくる。わかっていた。
デビューから2年。契斗は26歳になった。デビュー時は爽やかな明るい楽曲が多かったが、最近ではワイルドな大人の男を印象づける妖艶な曲や振り付けも増えた。多くの経験を積み、契斗の表現力も一段と増した。こうして配信で話すときには屈託がなくかわいらしかったが、ふとした瞬間に色っぽいしぐさを見せる。
布団のなかで身じろいだ。トレーニングパンツをずらし、下着のなかに右手を突っ込んだ。もう片方の手でイヤホンをはずす。契斗の声が聞こえなくなり、無音のまま笑顔で話しつづける契斗の顔が妄想をさらにかき立てた。
契斗の体に触れたのは、最後に会ったときよりもさらに前だ。しかし記憶はいまだ鮮明で、肌の感触や匂いまではっきりと思い出せた。
古いアパートは壁が薄く、隣の部屋の同僚のいびきが聞こえてきた。声や音が出ないよう注意を払いながら、乱暴に扱いた。おれの体に圧し潰されて喘ぎながら体を撓らせる契斗の痴態を頭のなかに思い浮かべながら、夢中で自分を慰めた。
16歳の契斗をはじめて抱いたとき。契斗は死ぬほど緊張して困惑していたが、おれを満足させようと必死だった。ろくに準備もしていなかったのに強引にこじ開けられて、痛みに耐えながら声をころしていた。
23歳の契斗はおれと距離を置こうとして、しかしけっきょくは身を委ねてしまった。生来のやさしさから、おれを突き放すことができなかった。おれの求めに応じ、乱暴に犯されても拒まなかった。
契斗が好きだ。
きつく握り込み、刺激を加えながら、心のなかで何度も好きだと唱えつづけた。
おれは契斗が好きだ。離れたことでよりつよく実感していた。
絶頂はあっという間に訪れた。下着のなかで炸裂させ、大量の体液がじわりと生地を濡らしていく。熱い感触は一瞬で、すぐに部屋の空気に冷やされていく。比例して、興奮も瞬時に冷めていった。あまりにあっけなく、虚しい。
終えたとたんに烈しい罪悪感に襲われるのもいつもどおりだ。自慰のネタにされているなど想像もしていないはずの契斗が朗らかに笑っている顔を直視できず、映像を停止した。
ハジュンに身を引くよういわれ、納得したうえで受け容れた。約束を守りきる自信もあった。酒と煙草をやめ、遊び相手と縁を切り、朋大とも別れた。真面目に働いて資格も取得した。自分なりに新しい人生を生きようとしていた。しかし契斗を忘れることはできなかった。ただの一瞬でもだ。むしろ好きだという気持ちは増幅していた。契斗への思いが大きく膨らみ、弾けて暴発しそうだった。自分では止められない。
スマホの連絡先を開く。来日公演以後、こちらから連絡はせず、契斗からのLINEや着信も無視していたが、連絡先は削除していなかった。十代のときとおなじだ。二度と連絡しないと決めたのにもかかわらず、どうしても消すことができない。
布団のなかでスマホのディスプレイの小さな明かりが目を刺す。契斗の名前と電話番号が表示された画面を凝視した。
グループが音楽番組ではじめて1位を獲得したとき、デビュー1周年を迎えたとき、契斗の怪我と休養が発表されたときにも、電話をかけたいという衝動に駆られた。そのたびに必死で耐えた。今度は耐えられるかわからない。
翌週にはデビュー年以来二度目の来日公演がある。これまでは会いに行くまでに航空券を予約し飛行機に乗るというプロセスが必要だった。しかし、国内となると話がちがう。電車で1時間以内の距離に契斗がいる。衝動を抑えられなくなるかもしれない。誓いを破ってしまうかもしれないと考えると、自分が怖かった。
契斗に会えば、また彼を傷つけ、足枷になる。おれはまた最低のクズにもどり、契斗の輝きを食い荒らし、精神を蝕む。おれにとっても契斗にとっても、いいことはなにもない。
会わずにいられるだろうか。連絡しないといえるか。これほど焦がれている契斗がすぐ近くにいるという状況で自制心を保てるかどうか。自信が薄れかけていた。
無理だ。自分のことはわかっている。ひとはそう簡単に変われない。おれは必ず誓いを破る。契斗のためにしてやれる唯一のことさえまっとうできない。衝動に負け、欲望に溺れ、契斗の人生を破壊する。自分自身が恐ろしかった。できることなら消えてなくなりたいとさえ思った。
いっそのことどこかへ行こうか。契斗が日本にいる数日間を乗り切ればいいのだ。しかし旅行に行くほどの金はない。やめていた酒に手を出すことも考えたが、泥酔すれば判断力が鈍り、却って最悪の方向に行きかねない。何度もおなじ失敗をしてきた。
苦しかった。契斗に会いたくて頭がおかしくなりそうだ。契斗に会えば、苦しみから解放されるだろう。しかし楽になるのは一瞬だけで、行く先は地獄だ。
電話番号を削除しないまま画面を切り替えた。再び契斗の配信視聴ページにもどり、再生する。契斗の笑顔がディスプレイに映し出される。こちらを見て親しげに語りかけてくる。
わかっていた。きっとまた今日もこのまま朝になる。こなければいいといくら願っても朝はくる。わかっていた。



