ソウル・ステーション/ディセンバー

 朋大とはいっしょに暮らしてはいるが、恋人同士というわけではない。女に飽きたときにときどき遊びに行くゲイバーで知り合い、その日のうちに関係を持った。一夜限りのつもりだったが、当時おれは同棲していた女に浮気がばれて追い出され、ネットカフェやカプセルホテルで寝泊まりしていて、翌日もその次の日も朋大のマンションに泊まり、そのまま居着いてしまった。
 雑にベルトをはずし、前を寛げた。洗面台に置いてあるローションをつかって適当に尻の穴をほぐし、硬直した性器を捩じ込む。
 朋大がくぐもった声を上げる。多少乱暴にあつかっても、基本的には抗わない。さっきのように不満を漏らすことはたまにあるが、これまでの女たちのようにいちいち憤ってヒステリーを起こすこともなければ、浮気を疑って探りを入れてくることもない。そもそもほかの女や男と寝ることに対して咎めもしなかった。
「ほら、もっとケツ上げろって」
 バスローブの裾をつかんで体を引き寄せ、強引に腰を打ちつけた。手を前に回し、下腹部をまさぐる。朋大の年齢はいくつだったか。聞いた記憶はあるが思い出せない。たぶん、そろそろ40になる頃だろう。運動不足のせいで腹に脂肪がつき、肌も乾燥している。髪も薄くなりはじめていて、最近育毛剤をつかいはじめた。おれの目にふれないよう隠しているが、すこし前にトイレットペーパーを探して棚を開けたときに見つけた。
 手を下降させ、性器を握りこむ。はじめのうち下を向いていたが、刺激を加えているうちにすこしずつ質量を増してきた。漏れる声も湿ってきている。
 上京して3年ほどの間、数人の女の家に転がり込んだ。男は朋大がはじめてだが、もっとも長くつづいている。男同士ということもあり、互いに過度に干渉せず、気楽に過ごせるのかもしれない。
 朋大にしても、おれのことを本気で好きなわけではないのだろう。はじめて会ったとき、バーの片隅で所在なさげにビールを飲んでいた。顔をしかめるほど醜男というわけではないが、決してモテるタイプではない。おれは男も女も両方いけるが、朋大はそうではなかった。
 おれたちがいっしょにいるのは得られるものがあるからだ。朋大は快楽を、おれは寝床と食事といくばくかの小遣いを手に入れる。それぞれ提供できるものを提供し、受領するだけの関係だ。おれは満足していたし、相手もそれ以上を求めてはこなかった。
 性器から手を離し、両手で朋大の腰をつかんだ。限界がちかづいている。ぶら下がったままのベルトが洗面台に衝突して立てる金属音が姦しかった。振り払うと、スラックスのポケットから鍵が滑り落ちた。
 無意識に視線で追った。鍵は床に落ちていた。エッフェル塔を模ったキーホルダーがついている。18の誕生日に、契斗がくれたキーホルダーだ。
 べつに意図があるわけではない。いちいちつけ換えるのが面倒だっただけだ。それでも、小さな塔から目が離せなくなった。
「……どないしたん?」
 突然動きを止めたおれを訝って、朋大が上半身を捻りこちらを振り向く。
「べつに」
 視線をもどし、朋大の肩をつかんだ。乱暴に腰を叩きつけると、朋大が濡れた声を漏らした。体を撓らせ、快感を追いかける。
「庸ちゃん……いい、そこすごい」
「気持ちいいかよ」
「気持ちいい、気持ちいい。もういきそう、いきそう……」
 熱に浮かされたように何度も唱える。おれも余裕を失いつつあった。愛情などなくても刺激を与えられれば反応するし、相手がだれであっても目的を達成することはできる。
「なか、出すぞ」
「うん。うん、出して。いっぱいほしい……」
 中学もまともに出ていないろくでなしに性器を突っ込まれて喘ぐ有名大学出のエリートの痴態を眺めるのはそれなりに楽しい。歪んだ欲求を満たされる。
「庸ちゃん……庸ちゃん、もう無理、もうあかん、だめ……」
 庸介先輩……
 朋大を抱きながら、おれは契斗を思い出していた。契斗の声、匂い、体に触れた感触、唾液の味。すべて鮮明に思い出せた。契斗は朋大以上に従順で素直だった。おれの求めに応じ、体を開いて、自らすすんですべてを受け容れた。おれの動きに合わせて腰を振り、淫らに喘いだ。まだ完成しきっていない、おれしか知らない瑞々しい体を震わせて、はじめて知る快楽に怯えながら溺れていた。
 あの頃、おれも契斗の体に溺れた。はじめのうちは興味本位だったが、女のものとはまたちがう男の体を味わい、単純ないいかたをすれば、ハマった。おれの家、ホテル、公衆トイレや駅のトイレでもした。契斗は呼べばいつでもすぐにきて、求められるままに体を差し出した。過激なプレイや無理な体勢にも文句をいわなかった。
十代のおれたちはセックスの虜になり、毎日飽きることなく体を重ねた。まるで獣だった。その関係が一時的なもので、終わりが近づいていることも知らずに。いや、知らなかったのはおれだけか。あるいは、気づいていないふりをしていたのかもしれない。
 咆哮。同時に、動きを止めた。粘膜を圧しのけるようにもっとも奥まった部分まで侵入し、腹のなかに精液を放った。
 朋大も達していたようで、足元に白濁がこぼれ、ラグに染みをつくっていた。
 深く息を吐く。射精直後の気怠さを持て余していた。バスローブの背に体を預け、虚脱する。鏡に映る男が卑屈に濁った目でおれを見つめていた。