目が覚めたとたん、強烈な頭痛に襲われ、思わず顔をしかめた。ひどく喉が渇き、吐き気もする。ところどころ記憶が抜け落ちてはいるが、かなりの量のアルコールを飲んだらしい。
薄く目を開けると、無機質な白い天井が見えた。朋大のマンションの天井とも客とつかうラブホテルのものともちがう。一瞬、どこにいるのかわからなかった。すこし考えて、韓国にきていることを思い出した。
「あ、起きた」
すこし離れたところから声がして、重い頭を持ち上げた。契斗がバスルームのドアを開けて出てくるところだった。
状況が理解できず、戸惑った。強い日差しが薄いカーテンを突き破るように差し込んでくるところを見ると朝らしい。
「水飲む?」
契斗が差し出したミネラルウォーターを一気に飲むと、ようやくすこし落ち着いた。
「……何時?」
「朝の7時」
舌打ち。いつまでも姿を現さない契斗を待つのに疲弊し、苛立って酒を煽ったことはおぼえているが、途中から記憶が曖昧だった。契斗がいつきたのか、どうやってホテルまで帰りついたのかもおぼえていない。
「頭いて……」
「だいじょうぶ?」
おれの手からミネラルウォーターのペットボトルを受け取りながら、契斗がいう。呆れたような口調ではあったが、怒気は感じられない。
「どこで飲んでたん?」
「さあ……」
二日酔いの度合いからしてかなりの量を飲んだのははっきりしているが、どれほどだったのか、どこで飲んだのか、自分でもまるでわからない。
「焼肉屋出たのって何時だっけ?」
「焼肉屋?」
契斗が訝しげに眉を寄せる。
「今日、日曜やけど」
「は?」
慌てて枕元をまさぐりスマホを探しあてる。ディスプレイに表示された日時はたしかに日曜の午前7時すぎだった。
「金曜の夜からずっと飲んでんの?」
おれの悪癖を知っているはずの契斗もさすがに驚いたようで、目を丸くしている。
「飛行機の時間、平気?」
「ああ、夕方の便だから……」
時間がたつにつれすこしずつ思い出してきた。韓国に到着した金曜の夜に契斗とハジュンと会った。別れた後にホテルで飲みながら待っていたが、契斗は現れず、連絡もつかなかった。翌日もおなじで、おれはホテルのバーでひたすら飲んだ。記憶はそこで途切れていた。
「急性アルコール中毒とかやなくてよかった」
金曜に会ったときとおなじようなパーカーにトレーニングパンツ姿の契斗が、ベッドから離れて立ち上がる。おれに背を向け、テーブルの上に置いたリュックを取り上げた。
「じゃあ……」
「えっ」
自分でも情けなくなるほど上擦った声が漏れた。
「帰んのかよ」
「うん」
「なんで」
「レッスンあるし。気をつけて帰ってね」
「ちょっと待てよ」
慌てて起き上がったせいでベッドから落ちそうになった。どうにか踏ん張り、裸足のまま契斗に近づき腕をつかんだ。
「おれに会いにきたんだろ」
「お店のひとから電話きて、だれも迎えにこないなら警察呼ぶっていわれたから……」
閉店時間まで居座ったホテルのバーを追い出され、近所のショットバーに移動してさらに飲んだ。明け方まで飲みつづけ酔いつぶれてしまったのだろう。店員になにか話しかけられて返事をした記憶はあるが、細かいやりとりの内容は思い出せない。
「ちょ待って、ねえ、お酒臭いから……」
つかんだ腕を引き寄せ、抱きしめようとしたが、するりと逃げられた。
「だれのせいだと思ってんだよ」
かろうじて手は離さず、いった。
「おまえが早くこないから……」
「行くっていわんかったし」
「約束しただろ」
「してへんよ。勝手に……」
縺れ合ううちにバランスを崩し、ベッドに倒れ込んだ。素早く上に跨がり、パーカーの裾に手を滑り込ませる。リュックが床に落ち、シューズが片方脱げて転がった。
「待って、もう、嫌やって……」
契斗が身を捩って抵抗する。キスしようと顔を近づけたが、首を捻って避けられた。
「いいじゃん」
「だめ」
おれの胸に両手をついて圧し返そうとする。どうにか逃れようともがく体を押さえつける。トレーニングパンツに手を入れ、下着ごしに握りこむと、驚いたように体が跳ねた。
「だめだめ、ほんまに、やめて……」
上半身を捻って抜け出そうとする契斗を追いかけ、背後から抱き込んだ。脚を絡めて下半身の動きを抑えると、下腹をまさぐる手に力をこめた。下着の隙間から手を滑り込ませ、直接刺激を加えると、抵抗が緩んだ。
「なんだよ、だめとかいって、もうこんなじゃん」
拒絶が嘘とは思えなかったが、言葉とは反対に、体の反応は早く、顕著だった。体温が上昇し、声に息が纏わりつく。
「だめ、つよすぎ……だめって……」
ほとんど泣き声になっていた。烈しい動きに呼応するように全身の熱が上がりつづける。体を密着させ、首を伸ばして、汗ばんだ頬にくちづけた。
「こっち向けよ」
首や顎に舌を這わせながらいった。
「痕つけるぞ」
「やだ、だめ……」
契斗がうろたえて振り向いた瞬間に唇をとらえた。舌を入れると口を開けて迎え入れた。はじめは遠慮がちに、すぐに積極的に絡めてくる。まだ体は強張っているから完全に受け容れたわけではないだろうが、体に刻まれた記憶がそうさせているのだろう。はじめて体を重ねたあの朝から1年半以上の間、数えきれないほど繰り返してきた。5年の期間が空いたとしても、触れられれば記憶は容易に呼び覚まされる。
薄く目を開けると、無機質な白い天井が見えた。朋大のマンションの天井とも客とつかうラブホテルのものともちがう。一瞬、どこにいるのかわからなかった。すこし考えて、韓国にきていることを思い出した。
「あ、起きた」
すこし離れたところから声がして、重い頭を持ち上げた。契斗がバスルームのドアを開けて出てくるところだった。
状況が理解できず、戸惑った。強い日差しが薄いカーテンを突き破るように差し込んでくるところを見ると朝らしい。
「水飲む?」
契斗が差し出したミネラルウォーターを一気に飲むと、ようやくすこし落ち着いた。
「……何時?」
「朝の7時」
舌打ち。いつまでも姿を現さない契斗を待つのに疲弊し、苛立って酒を煽ったことはおぼえているが、途中から記憶が曖昧だった。契斗がいつきたのか、どうやってホテルまで帰りついたのかもおぼえていない。
「頭いて……」
「だいじょうぶ?」
おれの手からミネラルウォーターのペットボトルを受け取りながら、契斗がいう。呆れたような口調ではあったが、怒気は感じられない。
「どこで飲んでたん?」
「さあ……」
二日酔いの度合いからしてかなりの量を飲んだのははっきりしているが、どれほどだったのか、どこで飲んだのか、自分でもまるでわからない。
「焼肉屋出たのって何時だっけ?」
「焼肉屋?」
契斗が訝しげに眉を寄せる。
「今日、日曜やけど」
「は?」
慌てて枕元をまさぐりスマホを探しあてる。ディスプレイに表示された日時はたしかに日曜の午前7時すぎだった。
「金曜の夜からずっと飲んでんの?」
おれの悪癖を知っているはずの契斗もさすがに驚いたようで、目を丸くしている。
「飛行機の時間、平気?」
「ああ、夕方の便だから……」
時間がたつにつれすこしずつ思い出してきた。韓国に到着した金曜の夜に契斗とハジュンと会った。別れた後にホテルで飲みながら待っていたが、契斗は現れず、連絡もつかなかった。翌日もおなじで、おれはホテルのバーでひたすら飲んだ。記憶はそこで途切れていた。
「急性アルコール中毒とかやなくてよかった」
金曜に会ったときとおなじようなパーカーにトレーニングパンツ姿の契斗が、ベッドから離れて立ち上がる。おれに背を向け、テーブルの上に置いたリュックを取り上げた。
「じゃあ……」
「えっ」
自分でも情けなくなるほど上擦った声が漏れた。
「帰んのかよ」
「うん」
「なんで」
「レッスンあるし。気をつけて帰ってね」
「ちょっと待てよ」
慌てて起き上がったせいでベッドから落ちそうになった。どうにか踏ん張り、裸足のまま契斗に近づき腕をつかんだ。
「おれに会いにきたんだろ」
「お店のひとから電話きて、だれも迎えにこないなら警察呼ぶっていわれたから……」
閉店時間まで居座ったホテルのバーを追い出され、近所のショットバーに移動してさらに飲んだ。明け方まで飲みつづけ酔いつぶれてしまったのだろう。店員になにか話しかけられて返事をした記憶はあるが、細かいやりとりの内容は思い出せない。
「ちょ待って、ねえ、お酒臭いから……」
つかんだ腕を引き寄せ、抱きしめようとしたが、するりと逃げられた。
「だれのせいだと思ってんだよ」
かろうじて手は離さず、いった。
「おまえが早くこないから……」
「行くっていわんかったし」
「約束しただろ」
「してへんよ。勝手に……」
縺れ合ううちにバランスを崩し、ベッドに倒れ込んだ。素早く上に跨がり、パーカーの裾に手を滑り込ませる。リュックが床に落ち、シューズが片方脱げて転がった。
「待って、もう、嫌やって……」
契斗が身を捩って抵抗する。キスしようと顔を近づけたが、首を捻って避けられた。
「いいじゃん」
「だめ」
おれの胸に両手をついて圧し返そうとする。どうにか逃れようともがく体を押さえつける。トレーニングパンツに手を入れ、下着ごしに握りこむと、驚いたように体が跳ねた。
「だめだめ、ほんまに、やめて……」
上半身を捻って抜け出そうとする契斗を追いかけ、背後から抱き込んだ。脚を絡めて下半身の動きを抑えると、下腹をまさぐる手に力をこめた。下着の隙間から手を滑り込ませ、直接刺激を加えると、抵抗が緩んだ。
「なんだよ、だめとかいって、もうこんなじゃん」
拒絶が嘘とは思えなかったが、言葉とは反対に、体の反応は早く、顕著だった。体温が上昇し、声に息が纏わりつく。
「だめ、つよすぎ……だめって……」
ほとんど泣き声になっていた。烈しい動きに呼応するように全身の熱が上がりつづける。体を密着させ、首を伸ばして、汗ばんだ頬にくちづけた。
「こっち向けよ」
首や顎に舌を這わせながらいった。
「痕つけるぞ」
「やだ、だめ……」
契斗がうろたえて振り向いた瞬間に唇をとらえた。舌を入れると口を開けて迎え入れた。はじめは遠慮がちに、すぐに積極的に絡めてくる。まだ体は強張っているから完全に受け容れたわけではないだろうが、体に刻まれた記憶がそうさせているのだろう。はじめて体を重ねたあの朝から1年半以上の間、数えきれないほど繰り返してきた。5年の期間が空いたとしても、触れられれば記憶は容易に呼び覚まされる。



