CHEEERR!!

「ごめんなさい。今日、いうつもりだったの」
 真由子の言葉に、奥は愕然とした。我妻の話が嘘だと思っていたわけではなかったが、自分だけが知らなかったというのにはすくなからずショックを受けた。
「コロさんから話を聞いたのも、ついこの間だったし、練習の成果を発表するには、これ以上ない場だと思ったから」
「オッケーしたの」
「まだちゃんと返事したわけじゃないけど、でも」
「なんでそういうことするんだよ」
 怒りで目が眩んだ。自制できなかった。奥は真由子につかみかからんばかりの勢いで詰め寄った。
「おれが完全に野球を忘れられたと思ってたの。元チームメイトが見てる前で、ダンスなんかできると思ってたの。応援なんかする気になれると思ってたの」
「もちろん、相談して決めるつもりだった」
「じゃあ、今すぐ断ってくれ」
「でも、せっかくコロさんが」
「どうしてもやるんなら、おれ抜きでやってくれよ」
「だめよ。最低でも8人いないと、フォーメーションが」
「なんとかなるだろ、そのぐらい」
「無理いわないで。野球だって、9人いなくちゃ試合はできないでしょ」
「野球といっしょにするな!」
 拳で床を叩く。地面までもが揺れたような振動があって、真由子が硬直する。
「恥ずかしいんだ」
 さっきまでの勢いは消え失せ、力のない声で真由子がいう。
「奥くん、チアやってるのが恥ずかしいんだ。どうしても、チアを健全にとらえられないんだ」
「健全でないのはどっちだよ」
 奥は卑屈な笑いを浮かべた。
「開幕戦には、毎年各局の取材が押し寄せるよね」
「……だから?」
「そこで話題になれば、真由子さんも、前みたいに、女子アナとして第一線で活躍できるようになるんじゃない」
 真由子の顔から血の気が引く。
「なんの話?」
 ほぼ同時に、振り向いた。珍しく決められた時間よりも早くきていた国分が、ガムを噛みながら立っていた。

 奥の様子がおかしいことには、すぐに気づいた。真由子とメンバーの間を取り持ってきたはずが、突然怒りを露にした。なにがあったのか知らないが、国分が間に入らなければ、取り返しのつかないことにもなりかねなかっただろう。
 国分の差し出したミネラルウォーターのペットボトルを受け取って、奥は頭を抱えている。
「おっくん」
 体育館の出入り口。うなだれる奥の隣に座って、国分は切り出した。
「ガッツ我妻と会ったでしょう」
 奥が目を見開く。その表情があれば、返答は必要なかった。
「ガッツ我妻って、どんな奴」
「どんなって……すごい投手だよ」
「野球のことじゃなくて、人間的にさ」
 奥は迷っているような顔つきになった。
「高校時代から知ってるんでしょ」
 奥が我妻のことを実はよく知らないのだということには、すでに気づいていた。国分が我妻を悪しざまに罵れば、やんわりと宥めはするが、具体的に例を挙げて庇うことはなかった。
「高校のとき、あいつ、彼女とか、いた?」
「いや……いなかったと思う」
「もてそうなのにね」
「本当だよな」
 ようやく笑いらしきものが顔に浮いたが、力はなかった。それどころではないらしい。かまわなかった。やっぱりなと口のなかで呟いて、国分は額を掻いた。
「おっくん」
「なに」
「おれ、おっくんのことが好きだよ」