侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



朝食を終えると、俺は作業部屋へ戻った。

……さて、だいたいの構想は練られたから、とりあえず本体を作ってみるか。

本体は無難に薄型鉄板で、問題ないだろう。大きさは手の平に収まるくらいがいいな。

薄型鉄板に魔力を纏わせて、形成していく。

……一旦、円柱型にしてみたが少し握りにくいか。もう少し楕円の方が良さそうだな。

楕円形に整え、実際に握ってみる。
……うん。こっちの方がしっくりくる。

ただ、前世では握りやすく滑りにくいように、持ち手にゴム製の部分があったんだよな……。

……今持っている素材だと、絶熱樹脂だけど、本体自体は熱くならないはずだ。
それなら、わざわざ絶熱樹脂を使う必要もないか。別の素材で、握りやすく滑りにくいものを探した方がいいかもしれない。

……柔らかくて滑りにくい素材なら、柔軟樹脂が使えるか。 確か、少しだけ残っていたはずだ。

棚から柔軟樹脂を取り出してみる。

……やっぱり、これだけか。

残っている量を確認すると、髭剃りの持ち手を作るには十分そうだが、これを使い切ればほとんど残らない。

またリリエン商会に素材を買いに行かないとな……。

柔軟樹脂を持ち手の周囲に合わせてカットし、芯材に巻き付けながら固定していく。

……よし。これなら持ちやすいな。

さて、次は刃だな。

今ある剃毛用の刃を使えば、刃を用意する手間は省ける。 ただ……あれをそのまま左右に動かして、本当に上手く髭を剃れるだろうか。
前世の往復式は、もっと細かな刃が並んでいたはずだ。

……やっぱり、刃そのものから考えた方がいいか。

剃毛用の刃には、確か刃鋼が使われていたはずだ。 ……なら、刃鋼を加工して作ればいいか。

……あれ?

刃鋼、残ってたっけ?

棚を確認してみるが、目当ての素材は見当たらない。

……ないな。 仕方ない。昼からリリエン商会に買いに行くか。

そうなると、ヘッド部分を先に作っておいた方がいいな。

ヘッド部分は薄鋼板で、刃を固定する部分と、その周囲を覆う部分に分けた方がよさそうだ。

刃が肌に直接触れないように、薄い保護板を間に入れる。 そこに細い隙間を作れば、髭だけを刃に触れさせられるはずだ。

……よし。これならいけそうだな。

あとは刃を取り付ければ完成だけど、肝心の刃鋼がない。
……なら、先にヘッド部分に魔導回路を描いておくか。

ヘッド内部に魔力が行き渡るよう、魔導回路を引いていく。
扇涼《ヴェント》ほどではないが、これも細かく描く必要があるな。

魔力の通りを確認しながら、丁寧に描き込んでいく。

……。

……あ。

曲線になってるから、描きづらいな……。

歪んだ箇所を何度か訂正しながら、ようやく描き終えた。

……よし。魔導回路はこれでいい。
今出来るのはここまでだな。

魔導時計を見るともうすぐ、昼食の時間だ。少し早いけど、食堂へ行くか。


食堂でお茶を飲みながら待っていると、しばらくしてウィルとガレスもやってきた。

「久しぶりに、二度寝できてスッキリした!」

「良かったね、ガレス。私も、ずっと気になっていた本をやっと読めたよ」

「俺も、キリのいいところまで魔導具作りを進められた」

そう話していると、使用人が料理を運んできた。

料理をテーブルに並べ終えると、使用人は一礼して食堂を下がっていった。

「なんだ、これは? 麺料理なのは分かるけど」

「素麺だよ。 このつゆに浸けて食べるんだ。 お好みで、薬味とかも自由に入れてみて」

「……!この薬味……だっけ? すっげぇ、さっぱりさせてくれるんだな」

「それは、おろし生姜と茗荷だ。 結構いけるだろ? こっちの小ネギもいいアクセントになるから、おすすめだ」

「シンプルなのに、すごく美味しいね。 ていうかこれ、ワサビだよね? 結構貴重なものだけど」

「たまたま手に入ったらしい。せっかくだから、素麺と食べたいと思って」

「へぇ……そんなに貴重なものなのか。俺も食べてみよう!」

「……あ!そんなに食べたら!」

「……?! かっっっら!!」

止める間もなく、ガレスがワサビの犠牲になった。

「こんな辛いのが貴重なのか?! 一瞬、毒かと思ったぞ」

「わざわざガレスを毒殺なんかしないよ」

一瞬、三人の間に沈黙が落ちた。

「……っ、ははは!」

「ふふっ……!」

「はははは!」

三人とも堪えきれず、思わず吹き出した。



「他にも豚肉とか鶏肉、錦糸玉子もあるから、食べてみて」

「お、じゃあ次は鶏肉を入れてみるか!」

「私は錦糸玉子をもらおうかな」

それぞれ好きな具材を素麺に乗せながら、三人で昼食を楽しんだ。

「そういえば、フィンは午後からどうするんだ?」

「リリエン商会に、素材を買いに行こうと思ってる」

「そうなのか。じゃあ、俺たちは屋敷でゆっくりしてるか」

「私は、もう少し本を読んでいたいかな」

「じゃあ、俺は……リバーシの攻略だな!」



昼食を終えると、二人を屋敷に残し、俺はリリエン商会へ向かった。