食堂に入ると、唐揚げの香ばしい匂いがする。
「っ!唐揚げじゃん!」
「久しぶりに見るね」
「二人とも唐揚げ好きだったよな」
「もちろん!フィンのところで食べてから、好きな料理の一つになったんだよ」
「私も好きだよ。……ただ、これは?」
「おろし唐揚げ。夏だから、少しさっぱり食べられるようにしてみた」
「おろし?」
「大根をすりおろしたものだよ。唐揚げに乗せて食べるんだ」
「へぇ……」
ガレスがさっそく唐揚げに大根おろしを乗せ、一口食べる。
「……うまっ!」
「本当だ。唐揚げなのに、後味がさっぱりしているね」
「だろ?」
……やっぱり夏は、おろし唐揚げだ。
「この魚も美味しいな」
ガレスが箸を伸ばしたのは、焼いた白身魚だった。
「それ、香草焼きだよ。臭みも少ないし、さっぱり食べられるから」
「へぇ。こういう食べ方もあるんだな」
「うん。俺も好きだよ」
ウィルはその隣に盛られていた野菜にも箸を伸ばす。
「この野菜も美味しいね」
「それは夏野菜の焼き浸し。冷やしてあるから、さっぱりしてるよ」
「本当だ。こういう料理なら、暑くても食べやすいね」
「だろ?」
「フィンの屋敷に来ると、本当に食事の時間が楽しみになるよ」
「俺も。新しい料理も嬉しいし、こうやって好きな物を出してくれるのも最高だよな!」
二人とも次々と料理に箸を伸ばしていく。
「このスープも美味しいね」
ウィルが椀を手に取る。
「こういう温かいものもあると落ち着くよ」
「本当、良く考えつくよな。なにげにすげぇバランスいい食事だし」
「夏バテは避けたいからな」
「夏バテ?」
ガレスが首を傾げる。
「あぁ……暑さにやられて、ダウンする的な?」
「なんだそれ」
「暑さで食欲が落ちても、ちゃんと栄養を取れるようにしているってことかな?」
「まぁ、そんな感じ」
「前世では夏になると、こういうことを考えて食事してたんだよ。 俺がいた国は四季もあったから、その季節に取れる物を食べるといいって言われてたりもしたし」
「季節に取れる物?」
「うん。夏なら夏野菜とか、秋なら魚やキノコとか。旬の物は美味しいし、栄養もあるって言われてたな」
「へぇ……」
ウィルが料理を見渡す。
「だから、この時期はこういう料理が多いんだね」
「まぁ、せっかくだからな」
この国にも四季はある。けれど、日本ほど酷暑になったり、極寒になったりすることはない。
食事を楽しんだ後、俺たちはそのまま食堂で食後のお茶に移った。
「……食べすぎた」
「満足した?」
「あぁ! 来た甲斐があった!」
「それ、避暑に来た感想としてどうなんだろうね」
「いいじゃん。美味い飯が食えるんだから!」
ウィルが苦笑する。
そんな二人を眺めながら、俺もお茶を口にする。
……俺も唐揚げ食べすぎたな。
「失礼いたします」
その時、使用人が食堂へ入ってきた。
「ウィルフリード殿下。お手紙が届いております」
「ありがとう」
差し出された封筒をウィルが受け取った。
「マティからだね。……二日後、仕事が終わってからこちらに向かうそうだ。三日間、休みを取れたみたいだね」
「おっ、じゃあマティも来るのか!」
「うん。帰りは私たちと一緒になりそうだね」
「……猶予は二日か。ウィル、フィン! それまでリバーシの特訓だな! マティから一度は勝ち取りたい!」
「……ガレスは俺たちに勝ててもいないけど」
「……二人にも、絶対一勝はしてやる!」
「でも、ガレスが上手くなるのと同時に、私たちも上達するんだよ? それに、ガレスの考えてる事はだいたい分かる」
「ガレスって、俺たちといる時は気を抜いてるのか、本当に分かりやすくなるよな。普段は貴族然としてるのに」
「そう言われると恥ずかしいんだが! そりゃあ、友達の前くらい素の俺でいるだろ」
「まぁね。私もだ」
……俺は――
「フィンはあまり変わらないね」
「いや、ちゃんと貴族対応できるぞ?」
「そうだけど、フィンはなんて言うか……フィンなんだよなぁ」
「うん。公式の場で言葉を改めていたけど、フィンはフィンだった」
……よく分からん。
「まぁ、今日はかなり遊んだし、そろそろ休もうか」
「そうだな。俺、部屋に戻ってもう少しリバーシのこと考えてみる!」
「まだやるの?」
「だって二日しかないんだぞ!」
「……ほどほどにね」
「分かってるって!」
ガレスはそう言うと、意気揚々と食堂を出ていった。
「じゃあ、私も部屋に戻るよ」
「あぁ。また明日な」
「うん。おやすみ、フィン」
「おやすみ」
ウィルを見送った後、俺も自分の部屋へ戻った。
……マティアスが来るまで、あと二日か。
トランプはマティアスが来るまで、取っておこうかな。
どうせ今は、二人ともリバーシに夢中みたいだし。
