二人の荷物を使用人にまかせて、俺たちは応接室に向かった。
「そういえば、フィンの屋敷には一年ぶりくらいに来た気がする」
「私もそれくらいぶりだ」
「フィンが男だけで集まる会を主催するようなやつじゃないしな。まぁ、俺もだけど」
「そう考えると、私たちが卒業してから会うことがなかったのも頷ける話だね。仕事もそれぞれ違うし」
「だな」
お茶を飲みながらゆっくり話すのなんて、本当に久しぶりだ。
……いや、お茶を飲みながらゆっくりした事なんてあったか……?
「ところで、フィン。今日は何をして過ごすんだ?」
「……これを作ってみた」
俺はテーブルの上にリバーシを置いた。
「なんだこれ?」
「チェス……とは違うみたいだ。ゲームなのは分かるけど……」
「リバーシっていうゲームだよ。ルールは簡単だから、二人ともやってみる?」
「ほう」
「どうやって遊ぶんだ?」
「まず、この駒を盤の上に置くんだけど――」
俺は二人に簡単にルールを説明した。
「なるほど。つまり、相手の駒を挟めばいいんだな?」
「そう」
「よし、やってみようぜ!」
ウィルとガレスがリバーシを始めた。
「よし!とりあえずここだな!」
「……では、私はここに置こう」
「あ、ここも挟めるよ」
「あぶねぇ! 取り忘れるところだった」
二人とも初めてにしては、なかなか飲み込みが早い。
ガレスは勢い任せに置いているように見えて、意外と先のことも考えているらしい。
ウィルは逆に、毎回じっくり盤面を見てから置いている。
……二人とも真面目にやってるな。
俺はルールを知っているから、当分は勝負にならないだろうけど。
「……ここに置くと、こっちも取れるんじゃないか?」
「本当だ!」
「……」
思ったより二人とも真剣だな。
「……あ」
「どうした、フィン?」
「ガレス、そこに置くと――」
「え?」
「……いや、何でもない」
「なんだよ、気になるだろ!」
「片方に味方するのもどうかと思って」
「初めてなんだからそれくらい、いいだろ! あ……負けた」
「よし!」
「もう一回だ!」
相変わらず、ガレスは負けず嫌いだな。
「失礼いたします。 昼食の準備ができましたので、みなさま食堂へお越しください」
「今かよ!」
「仕方ないだろ。昼食なんだから」
「午後に続きな!」
俺たちは食堂へ移動した。
料理を運び終えた使用人たちは下がり、食堂には俺たち三人だけが残った。
「おぉ! これは何だ? 初めて見る料理だな」
「ブラックボアの冷しゃぶサラダだよ」
「冷しゃぶ? サラダということは、この肉は冷やしてあるのかい?」
「あぁ。暑い日にさっぱり食べられると思って、再現してもらったんだ」
「へぇ。美味そうだな!」
二人はさっそく一口食べた。
「……! 美味しい」
「本当だ! すげぇ美味い!」
「口に合ったようでなにより」
うん、美味い。
肉の臭みもなくて、食べやすいな。
ごまの風味もちゃんと出ている。
料理長が頑張ってくれたんだろう。
「この冷製ポタージュも美味しい」
「昔、ここで初めてポタージュを飲んでから、俺の好きなスープになったんだよなぁ。最初は、冷たいスープって聞いて戸惑ったけど」
「それ、私も覚えてるよ。二人して、恐る恐る飲んだよね。でも飲んでびっくり、美味しすぎたんだ」
「そうそう!おかわりまでしてさ」
……そんな事もあったような、なかったような?
「……フィンは覚えて無さそうだね」
「あぁ。 いつも飲んでるから、その時は印象に残ってないんだろうな」
なぜか、二人に呆れた顔をされた。
「そういえば……」
ガレスが何かを思い出したように口を開いた。
「昔もフィンの話には驚かされたよな」
「……何の話だ?」
「ほら、フィンが前世の話をした時だよ」
……あ。
「あれは……確か、十歳くらいだったよな」
「そうそう。フィンが突然、自分は前にも別の世界で生きていたとか言い出して」
「俺たちも最初は何を言ってるのか分からなかったな」
「なんで二人に前世の話をしたのか、もう覚えてないな……」
「フィンとガレスが言い合いになって、フィンが『俺は大人だ!』みたいな事を言い出したような……」
……前世の記憶はあっても、心が体に引っ張られるような感覚があって、どうしても子供っぽくなってしまっていた。
「……俺は子供相手に言い合いをしていたのか。 なんかごめんな、ガレス」
「それは謝ってるのか?」
三人とも笑った。
「そういえば、食後のデザートも用意してあるよ」
あらかじめ料理長に頼んでおいたアイスが運ばれてくる。
使用人が下がると、ウィルとガレスが興味深そうにそれを見つめた。
「これは……氷菓子かい? 珍しいね」
「氷菓子……? 初めて見たかも」
「冷たくて甘いものだよ」
「また前世の料理か?」
「まぁ、そんなところ」
二人はさっそく一口食べた。
「……!」
「これ、美味いな!」
「冷たくて甘い……暑い日に食べると最高だね」
……やっぱり、避暑にアイスは必要だな。
