侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



ウィルフリード殿下が周囲にいた貴族子息たちに声をかけると、あっという間に人が集まってきた。

……俺まで一緒に来る必要、あったのだろうか。

「フィンじゃないか。久しぶりだな」

「……あぁ、久しぶり」

学園では毎日のように顔を合わせていたが、こうして夜会で会うのは、なんだか少し変な感じがするな。

「夜会で見かけなかったが、王家主催以外は出席しなかったのか?」

「あぁ。なんだかんだ忙しくて……」

「……フィン。俺に嘘は通じないぞ」

じっとこちらを見る友人。

「どうせ、大勢が集まるところに行きたくないとか、魔導具作りが楽しくて作業部屋から出たくなかったとか、そんなところだろう?」

「……」

……なんで分かるんだ。

「そりゃあな、昔から変わってないからだ」

「聞いてくれ、ガレス! フィンは私が手紙を送らなければ、王家主催の夜会へも出席する気はなかったはずだ」

「想像がつき過ぎる……。フィン、幼なじみだからってウィルに甘えすぎだぞ」

「……元々、王家主催の夜会には出席する予定だった」

……母さんやティアナに言われたし。

「イレーネ様やティアナ嬢に言われたからだろ」

なぜ分かった?!

「フィンは昔から顔に出やすいよな」

ガレスにまで表情を読まれていたとは……不覚だ。

「ガレスは他の夜会に出席していたのか?私は見かけなかったが」

「あぁ。何度か出席していた。ウィルとは参加した夜会が違ったみたいだな」

「そうだったか。しかし、ガレスと会うのも久しぶりだな。最近は忙しかったのか?」

「いや……父が早く当主を交代して、領地でゆっくり母と過ごしたいらしくてな。学園を卒業してから、領地経営を俺に叩き込もうとしていて……」

「あぁ……レイグレン伯爵は夫人をとても愛していると有名だったな」

「まぁな。母と二人で領地をのんびり回りたいんだとさ」

「それで息子に仕事を押しつけるのか……」

……ウィルとガレスが、父親の話で盛り上がっている。

俺には関係のない話だが、貴族家の当主になるというのも大変そうだ。

「フィン、お前はどうなんだ?」

「……え?」

「聞いていなかったのか?」

「いつものことだな」

「フィンは当主になることもないし、好きなことをしていればいいって話だ。私は兄上の補佐ができるように公務に励んでいるが、たまにフィンが羨ましくなるよ」

「王太子殿下の補佐となると重大な責務だもんなぁ。伯爵家の当主でさえ、重荷なのに」

「俺は魔導具作りで手一杯だな」

いつの間にか、周囲の貴族子息たちは少し離れていた。
……俺たち三人の会話に割って入るのは、さすがに遠慮しているらしい。

「あ、フィン!清涼機《ブリーズ》を作ってくれて助かってるぞ!今、父上に領地経営を叩き込まれてるところだからな。蒸し暑い中じゃ、やってられなかった」

「分かる。私も執務室が快適になったおかげで、仕事の効率が上がったんだ」

……仕事をするために清涼機《ブリーズ》を作ったわけじゃないんだが、それは黙っておこう。

それより、腹が減った。

「そろそろダンスを踊った方がいいんじゃないか?」

遠巻きで様子を伺っている令嬢たちが、ソワソワしている。

「……そうだな。ガレスとフィンも、一緒に令嬢を誘いに行こう」

「俺は、何か食べてからにします。殿下とガレス、先に行ってて」

「それ、踊らないやつだろ」

「……そんなことはない」

「いや、絶対踊らないやつだ」

「……ティアナと踊る予定だったんだよ。でも今はエミール兄さんが付いてるから、その後に踊ろうと思って……」

「……はぁ。ガレス、私たちは先に行こう」

「だな」

俺は二人を見送り、食事が置いてあるスペースに移動した。
……やっとダイエットが終わったんだ。
せっかくなら王城の料理を食べて帰りたいからな。


……美味しい。

さすが王城の料理だ。
いい肉を使っているのだろう。すごく柔らかくてジューシーだ。
……こういう料理を食べられるなら、夜会も悪くないな。

「フィン様」

「.....え?」

声をかけられて顔を上げる。

そこには、エルーシア殿下が立っていた。

「お食事中にごめんなさい」

「いえ……」

……王女殿下が、なぜ俺のところに?
エスコートの者は……いない。

「ティアナ様から、新しい魔導具を作られたと聞きました」

「はい」

どれの事だろう?

「ティアナ様だけではなく、セレスティア様やアリシア様も、艶やかで華やかな髪になられていて、とても興味を持ちましたの」

……あぁ。

「艶髪《グロウ》と華髪《ブルーム》ですね。お二人には試作品を使っていただき、使い心地や仕上がりについて意見をいただいたのです」

「そうだったのですね」

「販売開始前に王家へ献上予定ですので、エルーシア様もぜひ試してみてください」

「まぁ!楽しみだわ! 扇涼《ヴェント》もとても気に入っていて、いつも持ち歩いていますの」

「そうでしたか」

「ドレスに合わせて、いくつか注文もさせていただきました」

……気に入ってもらえているなら、作った甲斐があったな。

「次はどんな魔導具を作られるのですか?」

「そうですね……まだ決めてはいませんが、いくつか構想はあります」

「そうなのですね!フィン様の魔導具は素敵なものばかりなので、楽しみです」

「……ありがとうございます」

「それでは、私はそろそろ失礼いたしますね。お話しできて嬉しかったです」

「こちらこそ、ありがとうございました」

エルーシア殿下は微笑むと、令嬢たちの輪へ戻っていった。

……そこまで期待されると、少し困るな。

まぁでも、次に何を作るか考えるのは楽しい。


さて、もう少し料理を食べよう。