「……お久しぶりです。ウィルフリード殿下」
「相変わらずよそよそしいのは、どうにかならないのか?」
「殿下に対して、そのような無礼は出来かねますので……」
「まぁ、良い。挨拶を終えたらそっちに行くからな」
「……分かりました」
王家の皆様への挨拶を終えると、父さんたちはそれぞれ、先ほどまで話していた方々のもとへ戻っていった。
「フィン兄様、私はセレスティア様とアリシア様のところへ行きたいのだけれど」
……二人もすでに王家への挨拶を終えているようだ。
「分かった」
俺はティアナをエスコートし、二人のもとへ向かった。
「セレスティア様、アリシア様!
お二人とも、髪型がドレスにとてもよく似合ってますわ!」
「ありがとうございます。ティアナ様もとっても素敵ですわ」
「あれから毎日、華髪《ブルーム》で試しましたの!」
「私もですわ。毎朝、髪を整えるのが楽しみになりましたもの」
……二人とも、本当に気に入ってくれたらしい。髪型もドレスに合わせて、綺麗に整えられている。
「お久しぶりです。セレスティア様、アリシア様。今日の装いは一段と美しいですね」
「お久しぶりです、フィン様。この度は艶髪《グロウ》と華髪《ブルーム》をありがとうございました」
「フィン様のおかげで、髪を整えるのがとても楽しくなりました。華髪《ブルーム》で色々な髪型を試しているんです」
「気に入って頂けて、なによりです」
「それに、艶髪《グロウ》もとても気に入っていますわ。髪に艶が出るだけで、こんなにも印象が変わるなんて」
「そうですよね! 私も初めて使った時は――」
「フィン!」
……もう挨拶を終えたのか。
俺たちはウィルフリード殿下に向かって頭を下げた。
「そんなに畏まらなくていいって」
「そういうわけにはいきませんので」
「またそれか……」
「ふふっ。相変わらずですわね」
セレスティア様が微笑む。
「そういえば、あちらに他の令嬢たちが集まっているようですわ」
「本当ですわね。私たちもご一緒してきましょうか」
「そうね」
「フィン兄様」
ティアナがこちらを見る。
「ここまでで大丈夫よ。私もお二人と一緒に、他の令嬢たちのところへ行ってくるわ」
「分かった」
「それでは、私たちは失礼いたします」
そう言うと、ティアナたちは令嬢たちの輪へ向かっていった。
.....これでエスコートは終わりか。
「じゃあ、フィン。久しぶりにーー」
「フィン?」
振り返ると、そこには少し呆れたような母さんが立っていた。
「どうしてもうティアナと一緒にいないの?」
「え?」
「今日はティアナの初めての夜会でしょう?」
「いや、本人がもういいって......」
「そういう問題じゃないでしょう」
そう言いながら、母さんは殿下に頭を下げた。
「申し訳ございません、殿下。お話中でしたのね」
「いや、構わない」
「では、フィン。後で話がありますからね。殿下、失礼いたしました」
そう言うと、一礼して去っていった。
……え。
怖いんだけど。
「……何をしたんだ?」
「……多分、ティアナと離れたので……」
「あぁ……。フィンがティアナ嬢のエスコートだったのか」
「はい。見える位置にいるので、大丈夫だろうと思っていましたが……」
「初めての夜会なら、母親としては心配なんだろうな」
ティアナの方を見ると、いつの間にかエミール兄さんが近くに移動していた。
……どうやら、挨拶を終えたらしい。
「エミール殿がそばにいるなら、大丈夫そうだな」
「はい」
……ティアナのエスコートも終わったんだし、俺はもう帰っていいだろうか。
「……すごく帰りたそうなのが伝わってくるぞ」
俺の表情管理はいいと思っていたのだが……
「フィンは昔から顔に出やすいよな。まぁ、その方が私も気楽に接することができるから、いいと思っている」
……これは褒められてないな。
「それより、髪型を変えたのだな。なんだか、前より髪が綺麗になっている気もする」
「……新しい魔導具です。ティアナとセレスティア様、アリシア様にも使っていただいています」
「そういえば、三人とも華やかだった気がするな。母上やエルーシアが興味を持ちそうだ」
「販売は夏の終わり頃になると、叔父上から聞いています。その前に、王家へ献上されるかと」
「そうか。二人が喜びそうだ」
ウィルフリード殿下と話していると、殿下に話しかけたそうに様子を窺っている貴族子息たちが、ちらほらと目に入った。
高位貴族から声をかけられるまでは、こちらから話しかけるわけにもいかない。
.....まぁ、王子だからな。
その周囲には、令嬢たちの姿もある。
ちらちらとこちらを見ているところを見ると、殿下とダンスを踊りたいのだろう。
それを気にもせず、俺がいつまでも殿下と話しているのもどうかと思う。
「殿下。そろそろ、他の方々とお話しされた方がよろしいのでは?」
「ん?あぁ……そうだな」
ウィルフリード殿下が周囲を見渡す。
「確かに、待っている者が多そうだ」
「でしょう?」
「だが、フィンも一緒に来い」
「……え?」
……なんで俺まで?
