侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



王家主催の夜会当日。

今日はローゼン家の者たちも、朝から慌ただしく準備を進めていた。


「そろそろ出発しないと遅れちゃうんじゃない?」

「そうね。フィン、先に馬車で待っていなさい」

「分かった」

ティアナの準備に時間がかかっているみたいだ。初めての夜会への参加で気合いが入っているのだろう。

……さっさと行って、さっさと挨拶を済ませて、さっさと帰りたいな。

「お待たせ、フィン兄様」

馬車の扉が開くと、そこには夜会用のドレスに身を包んだティアナが立っていた。

……なるほど。

昨日まで何度も髪型を試していた理由が分かった。
いつもよりずっと華やかだ。

父さんと母さんはもう一台の馬車へ。
じぃちゃんとばぁちゃんも別の馬車に乗り込んだ。

俺たちを乗せた馬車も、ゆっくりと進み始めた。

「……そのドレスとその髪型、すごく似合ってる」

「ありがとう、フィン兄様。でも、世辞がぎこちないから他の令嬢を褒める時は気をつけた方がいいと思うわ」

「……分かってる。 苦手なんだよ」

「去年までは夜会に参加していたのに、未だに慣れないなんて……」

「しょうがないだろ……。 それより、エミール兄さんも今日は警備につくのか?屋敷に帰ってきてなかったけど」

「警備につくのはフィリップ兄様だけって聞いたわ。エミール兄様は、寮から直接会場に来るそうよ。次期侯爵なのだから、王家主催の夜会には出席しないといけないでしょうね」

……裏切り者はフィリップ兄さんだけだったか。
俺も警備の仕事があればよかったのに。

「そういえば、フィン兄様も少し毛先を巻いているのね。社交的に見えてとても素敵だと思うわ」

「……ノアが、せっかく作った魔導具だから使ってみましょうって。というか、それ、褒めてないだろ」

「艶髪《グロウ》も華髪《ブルーム》も、女性だけじゃなく男性も使えるって話題になれば、アレク叔父様も喜ぶんじゃないかしら」

……ティアナ、商品を売るための戦略を考える仕事とか向いてそうだな。


そんなことを話しているうちに、いつの間にか王城に到着した。

「到着しました」

御者の声が聞こえ、馬車がゆっくりと停まった。

扉が開くと、俺は先に馬車から降り、ティアナに手を差し出した。

「ありがとう、フィン兄様」

ティアナをエスコートしながら、入口で待っていた父さんたちと合流して、そのまま会場へ入った。

会場にはすでに大勢の貴族が集まっている。華やかなドレスに身を包んだ令嬢たちと、礼服姿の男性たちがあちこちで談笑していた。

……やっぱり、人が多いな。

「……涼しい。フィン兄様が大型の清涼機《ブリーズ》を作ってくれて、本当によかったわ。扇涼《ヴェント》だけでは、今日の夜会を乗り越えられないと思っていたもの」

「……俺も作ってよかったと、改めて思った」

「せっかくのドレスと髪型が崩れることもなさそうで、ほっとしてる」

「清涼機《ブリーズ》がない状態でこんな大勢の人がいたら、蒸し風呂みたいになってただろうな……」

……本当に作ってよかった。


父さんたちが知り合いに挨拶をしている間、俺はティアナをエスコートしながら、その後ろについて回っていた。

そんな中、王家の皆様が入場された。

会場内にいた貴族たちが一斉に姿勢を正し、王家の方々が用意された席へ向かうのを見届けていると、

「フィン、ティアナ」

後ろから聞き慣れた声がした。

振り返ると、そこには礼服姿のエミール兄さんが立っていた。

「エミール兄さん。来てたんだ」

「あぁ、さっき到着したところだ。フィンたちを探していたんだよ」

……ギリギリまで騎士団の仕事をしていたみたいだ。

「ティアナ、今日は一段と綺麗だな」

「ありがとう、エミール兄様!」

「フィンも……今日は少し髪型が違うな」

「ノアが巻いたんだよ」

「そうか。似合ってるぞ」

「……なんだろう。やっぱり信用できない」


王家の方々が席につくと、国王陛下が立ち上がった。

「皆、本日はよく来てくれた。今宵はどうか、ゆっくりと楽しんでいってほしい」

国王陛下の言葉に、会場から一斉に拍手が起こる。

国王陛下が席につくと、公爵家から順に王家の皆様への挨拶が始まった。
次々と呼ばれていく家名を聞きながら、俺はただ父さんたちの後ろについていた。


やがて、ローゼン家の番が来た。

父さんを先頭に、俺たちは王家の前へ進み出る。

「国王陛下。本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

父さんが代表して挨拶をし、俺たちもそれに続いて頭を下げる。

「うむ。皆、よく来た」

王家の方々と一通り言葉を交わし、挨拶を終えようとしたとき――

「フィン、久しぶりだな!」