侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



さて、カールアイロン型魔導具の仕様書を書き直すか。

朝から作業部屋に籠って、昨日完成した試作品を手元に置きながら、仕様書の修正を進めていく。

……三種類もあると、仕様書を書くのはめんどくさいな。

太さ以外の構造は共通しているから、基本仕様を一つにまとめて、サイズごとの差分だけ書き足せばいいか。

……よし。
仕様書をまとめ終えたら、リリエン商会に持っていくか。

仕様書を一通りまとめ終えた頃には、昼食の時間になっていた。

昼食も済ませ、俺はリリエン商会に向かった。


……忙しそうだな。

リリエン商会に着き、中へ入る。
店内は人でいっぱいだった。

……忙しそうだな。

「あ、フィン。魔導具のことについてかい? だったら、商会長室で待っててくれ」

「分かった」

アレク叔父さんが対応するほど忙しいなら、別の日にすれば良かったかもな。
急ぎの用でもないし。


しばらく待っていると、ようやくアレク叔父さんが商会長室に入ってきた。

「すまない。だいぶ待たせたな」

「大丈夫。それにしてもすごい人の数だったね」

「あぁ。社交シーズンに入って、清涼機《ブリーズ》や扇涼《ヴェント》を求める客が一気に増えていてね」

……なるほど。

「それで、今日はどうしたんだ?また新しい魔導具かい?」

「あ、うん。これなんだけど」

カールアイロン型魔導具をテーブルに置いて、アレク叔父さんに仕様書を手渡した。

「……艶髪《グロウ》の応用か。……なるほど」

「ティアナに試してもらったら、すごく喜んでた。髪を巻くだけで華やかになるし、艶髪《グロウ》みたいにツヤも出るって」

俺がトイプードルになったことは黙っておこう。

「この魔導具もサイズ別で作ったのか……人や用途によって使い分けられるな。……火傷か」

「あ――……火傷に関しては、注意しながら使ってもらうしかないね。安全対策も考えたけど、これ以上は難しくて」

「そうか。売る時は、しっかり注意するように伝えた方が良さそうだな」

「艶髪《グロウ》は夏の終わり頃から売るって言ってたけど、この魔導具もそれくらいになりそう?」

「そうだな。艶髪《グロウ》とセット売りにしても良さそうだ」

「ティアナが、友人二人に販売前に使ってもらってもいいかって言ってて。一応、アレク叔さんの許可をもらおうかと思って来たんだ。二人の分は俺が作るつもり」

「なるほど。友人二人と言うと、セレスティア様とアリシア様かい?ティアナとあのお二人が使えば話題になるだろうな。令嬢たちの間にも広まりやすい」

「そう思って、二人分を作ろうと思ったんだけど」

「それなら問題ない。ただ、販売前のものだ。使い方には十分注意するよう伝えておいてくれ」

「分かった」

年頃の令嬢に火傷なんてさせられないからな。

「……艶髪《グロウ》とセット売りをするなら、商品名も関連付けた方がいいかもしれない」

「またアレク叔父さんが候補を出してくれると助かる」

「そうだなぁ……華髪《ブルーム》、麗髪《エレガ》、舞髪《フロウ》辺りが巻き髪の華やかさを表現出来ると思うが、どうだろう」

「舞髪《フロウ》かな。……いや、艶髪《グロウ》と響きが似過ぎてるか」

「そうだな。確かに少し紛らわしいかもしれないな」

「じゃあ、華髪《ブルーム》で」

「いいと思う。巻いた髪が花開くような名前だな」

「うん」

そう答えながら、俺はふとアレク叔父さんの顎に目を向けた。

髭剃りをしたばかりなのだろう。顎には小さな切り傷があり、赤く滲んでいる。

「......叔父さん、その傷」

「ああ、今朝剃ってもらった時に少し切ったみたいだな」

そう言われて、改めて考える。
この世界では高位貴族は、髭を侍従に整えてもらうことが多い。それも切れ味の良い剃刀で。

俺自身は元々髭が薄いから、そんなに整える必要がなくて、今まで気にしていなかったけど……

前世で使ってた電気シェーバーを、魔導具で作るか……?

「ん?どうかしたか?」

「あ、いや」

……電気シェーバーなら、髭を剃るたびに侍従の手を借りる必要もなくなる。
だが……高位貴族なら、それでも侍従に任せるかもしれない。
それなら、貴族向けというより、自分で髭を剃る必要がある人向けか。

……エミール兄さんなら欲しがるかもな。
騎士団の寮で生活しているから、多分、自分で整えてるはずだ。

……意外と需要があるかもしれない。

「……フィン?」

「あ、いや。ちょっと次の魔導具について考えてた」

「もう次かい?」

「まだ作ると決めたわけじゃないけどね」

「ははっ。フィンらしいな。次の魔導具も楽しみにしているよ」