あれから数日。
屋敷にも大型の清涼機《ブリーズ》を数台設置し、部屋や廊下、使用人たちが過ごす場所も快適になった。
そして、社交シーズンも始まった。
とはいえ、俺が参加するのは王家主催の夜会くらいだ。
それ以外は、いつも通り魔導具を作って過ごしていた。
……。
「……暇だな」
魔導具作りも一段落している。 暑い中、わざわざ街へ出る気にもならない。
かといって、部屋でずっと過ごすのも飽きてきた。
「何か、家でできること……」
そんな事を考えながらぼぉーっとしていた。
「……あ」
大型の清涼機《ブリーズ》が効いているおかげで、食堂は外の暑さが嘘みたいに涼しい。
「……そうだ」
冬に食べることの多い鍋も、これだけ涼しければ問題ないんじゃないか?
それに、今日はじぃちゃんとばぁちゃん、父さんと母さんは、それぞれ夜会に出席だ。
だから夕食はティアナと俺だけ。
簡単だし、野菜もたくさん食べられる。ダイエットにも、ちょうどいい。
コンコン――
「ティアナ」
「なに?」
「今日の夕食、鍋にしない?」
「……今、夏よ?」
「でも、食堂も涼しいだろ」
「……まぁ、そうね」
ティアナは少し考えてから、楽しそうに笑った。
「じゃあ、鍋にしましょう」
夕食のメニューを鍋にすることを料理長に伝えるため、俺は食堂へ向かった。
「鍋、でございますか?」
「うん。清涼機《ブリーズ》で涼しいから、鍋なんてどうかなって思って。それに俺、夜会に着ていく礼服がちょっとキツくて……。だから、鶏肉と野菜をたっぷり使った鍋がちょうどいいと思ったんだ」
「なるほど。では……本日の夕食は鶏鍋にいたしますね。
ちょうど、ロックバードの肉が入ったところですので、鍋にもぴったりかと」
「おぉ!ロックバードか。なら、鍋はシンプルな味付けで」
鶏肉より少し高価なロックバードは、旨味がしっかり出る。
シンプルな味付けでも、十分に美味い。
「かしこまりました」
夕食までは、のんびり本でも読んで過ごそうかな。
……。
本棚から一冊の本を取り出し、ページをめくる。
……この世界には、俺のように前世の記憶を持って生まれてくる者が、稀にいるらしい。
この国でも、これまでに五人いたと聞いている。
俺が前世の記憶を思い出した時には、五人目が亡くなった後だった。
今、手にしているのも、その五人のうちの一人が残した本だ。
同じ時代に一人しか現れないのか分からないが、今のところ同じ境遇の人に会ったことはない。
みんな何かしら功績を遺したみたいだが、俺は――……
コンコン――
「フィン様。夕食のお時間です」
「……もうそんな時間か。今行く」
本を閉じて、食堂へ向かった。
「おぉ……冬ぶりの鍋だ。……でも、これならもう少し清涼機《ブリーズ》の設定温度を下げてもいいな」
……いや、一番涼しい設定でいいか。
少し待っているとティアナが食堂へ入ってきた。
「……寒っ!
だれ?食堂の清涼機《ブリーズ》をこんな寒く設定したのは!」
「え、俺だけど」
確かに少し肌寒いが……
「鍋を食べるんだから、これくらいでいいだろ」
「よくないわよ!」
……ティアナに設定温度を上げられた。
「う〜ん!美味しい! ……もしかして、この鶏肉……」
「ちょうどロックバードの肉が入ったそうだ」
「……やっぱり。
鍋にロックバードのお肉は……ちょっと贅沢ね」
「……まぁ、野菜たっぷりだし。
それに俺、夜会までに少し痩せないといけないんだよ」
「それとロックバード、関係ないじゃない。……美味しいからいいけれど」
味付けは塩と出汁だけのシンプルなものだ。
ロックバードの旨味がしっかり出ていて、野菜の甘みも感じられる。
これで十分美味い。
「あ、フィン兄様に相談というか……艶髪《グロウ》のことなんだけれど」
「ん?艶髪《グロウ》に不具合か?」
「いいえ。とっても気に入ってるわ。今日も使ったもの。
艶髪《グロウ》を使って、私のウェーブした髪を整えてから、侍女が綺麗に仕上げてくれるのだけど、少し大変そうなのよね」
「あぁ……」
前世でも、ヘアアイロンで巻いたり、ウェーブを作ったりしている女性は多かった気がする。
「だから、巻き髪用があればいいなと思ったの」
そういえば、カールアイロンも作ろうかと一瞬考えていたな。
忘れてた。
ティアナは元々、ゆるいウェーブ髪だから、それを活かすにはカールアイロンの方が確かに良さそうだな。
「艶髪《グロウ》の応用でいけそうだし、試しに作ってみるよ」
「本当?!ありがとう、フィン兄様!」
