翌朝。
俺は朝食を終えると、すぐに作業部屋へ向かった。
昨日作っていたヘアアイロン型の魔導具に、火属性と風属性を組み込むためだ。
昨日のうちに本体と魔導回路の大まかな形はできている。 あとは、乾風《ブロア》の仕組みをどう応用するか。
乾風《ブロア》の時より風属性の出力は弱めにして、逆に火属性は強めにする。 ただし、髪に直接触れる魔導具だから、熱が強すぎてもいけない。
……このあたりは、実際に温度を測りながら調整していくしかないな。
熱を加えると魔力の色が変化する感温石をプレートに触れさせる。
色の変化を基準にして、温度を確認していく。
……もう少し火属性の出力をあげても大丈夫そうだな。
組み込んだ火属性の魔導回路を調整し、再び魔力を流す。
「……あっつ!!」
慌てて手を離す。
……感温石、信用しすぎたか?
この温度を数値で確認できる魔導具があれば、もっと細かく調整できるな。
……温度を測る魔導具か。
いや。そもそも、ここまで熱くなる魔導具を作ることなんて、滅多にないな。
……今は感温石で十分か。
とりあえず、もう少し調整が必要だ。
……あ。
前世で、スチームアイロンとかあったよな? たしか、蒸気を使うことで髪へのダメージを抑えやすくなる……そんな感じだった気がする。
それなら、水属性を組み込めば、チリチリになるのを防げるんじゃないか?
……試してみるか。
火属性に干渉しないように、風属性の近くに水属性を組み込んでいく。
火属性との距離や、魔力の流れを調整しながら配置する必要があるから、少し細かい作業になりそうだ……。
水属性を組み込んだ部分に、少量の魔力を流してみる。
すると、プレートの一部から白い蒸気が立ち上った。
感温石で蒸気の温度を確かめる。
……問題なさそうだ。
念のため、軽く手をかざしてみる。
うん。これなら大丈夫だな。
次は温度調節出来る、つまみ部分だ。
扇涼《ヴェント》に使っているつまみ部分を、少し改良すればいいだろう。
扇涼《ヴェント》の場合は風量だったが、今回は熱量の調節だ。
……確か、髪に使うなら140℃から160℃くらいがいいと言われていたはずだ。 温度が高すぎると、それこそ髪が傷むらしい。
それを考えると、最低温度は少し低めにして110℃くらい。
最高温度は160℃でいいか。
感温石で確かめながら、温度を調整していく。
……蒸気を使うことも考えると、140℃をおすすめの温度として使用者に伝えるのがいいかもな。
強い癖を伸ばしたい場合は、160℃まで上げてもいいかもしれない。
ただ、髪質によって適した温度は違うはずだ。
なら、温度調節は細かくできるようにしておいた方がいい。
何度か調整を繰り返し、設定した温度を安定して保てることを確認した。
――よし。
最後に小型の魔核を取り付ければ……
……完成だ。
――ウィルフリード――
「父上!本日はリリエン伯爵が謁見に来られるのですよね?
ということは、フィンが作った魔導具をアレクシス殿が持って来られるはずです。私も謁見の場に立ち会わせてください」
「……エルーシアが言っていた魔導具か」
「それもありますが、もう一つ。清涼機《ブリーズ》も持ってこられるはずです」
「まぁ、いいだろう。
そろそろ来る頃だ。謁見の間へ向かうぞ」
「はい!」
王の執務室を出て、私は父上と共に謁見の間へ向かった。
席に着いて待っていると、ほどなくしてリリエン伯爵が姿を見せた。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます、陛下」
「うむ。今日はどういった内容だ?」
「はい。本日は新しく完成した魔導具を献上しに参りました」
リリエン伯爵がそう言うと、後ろで待機していた騎士が、預かっていた魔導具を伯爵の前へ並べ始めた。
「こちら、清涼機《ブリーズ》と扇涼《ヴェント》でございます。使い方をご説明させて頂いてよろしいでしょうか?」
「あぁ。頼む」
「では、扇涼《ヴェント》から。こちらは扇子と同じように、扇面を広げて扇いでいただくと、涼しい風が起こります」
騎士が父上と私に扇涼《ヴェント》を手渡してきたので、受け取って早速扇いでみた。
「……おぉ!涼しい!」
「……そうだな。これはいい」
「こちらは、移動の際などに快適を持ち運ぶ魔導具だと、製作者が申しておりました。
次に、清涼機《ブリーズ》でございます。こちらは、お部屋の壁際に設置していただき、起動して少しお待ちいただくと、お部屋全体が涼しくなる魔導具です。
謁見の間では広さがありますので、十分な効果は得られないかもしれませんが……試しに起動させていただきます」
……?
「……? 何だか少し涼しくなってきたような」
「確かに。清涼機《ブリーズ》から冷気が流れてきているな」
「本当に……! これが部屋全体を涼しくするのですか?」
「はい。この暑い夏、快適にお過ごしいただくためにお使いいただければと思っております」
「うむ。ありがたく受け取ろう」
挨拶を終え、リリエン伯爵が帰ったのを見計らって――。
「父上。王族の人数分いただいたようなので、私は早速、自分の部屋に設置してきたいと思います!」
「そうだな。私も今から執務室に設置してみよう」
「では、失礼します!」
リリエン伯爵の説明通り、壁際に清涼機《ブリーズ》を設置する。
扇涼《ヴェント》を手に、涼みながらしばらく待っていると――
「……本当だ。涼しい……。 この清涼機《ブリーズ》があれば、今日は久しぶりに、ゆっくり眠れるかもしれないな」
