侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「フィン様。間もなくアルヴェイン公爵夫人とグランディス侯爵夫人がいらっしゃいます」

「分かった。今行く」

作業部屋でヘアアイロンの本体をサイズ別に作っていたところ、ヴィクトリア叔母さんとセレナ叔母さんがそろそろ到着するらしく、ノアが声をかけてきた。

二人に作った扇涼《ヴェント》を手に取り、俺は応接室へ向かった。

ばぁちゃんと母さん、ヴィクトリア叔母さんとセレナ叔母さんの四人で、ちょうどお茶会が始まったところみたいだ。

「フィン、来たのね」

「うん。ヴィクトリア叔母さん、セレナ叔母さん久しぶり」

「久しぶりね、フィン」

「元気そうで何よりだわ」

「二人に渡したい物があったんだけど……やっぱりもう持ってたか」

二人の手元には、扇涼《ヴェント》があった。

「今日会えるって聞いて、扇涼《ヴェント》を作ったんだ。ティアナが、従姉妹たちが学園にいるから、持ってる可能性があるって言ってたけど」

「えぇ。娘が学園で扇涼《ヴェント》の話を聞いて、すぐにリリエン商会へ注文しに行ったみたいなの。その時に私の分も頼んでくれて、二日前に届いたばかりなのよ」

「私もお姉様と同じで、娘がすぐに注文してくれて。とっても気に入っているわ」

「そっか。じゃあ、良かったらこれは予備として使って」

「まぁ!予備だなんて……。ドレスに合わせて扇涼《ヴェント》も選べるから嬉しいわ」

「ありがとう、フィン。とっても素敵な色を選んでくれたのね」

「二人とも小物は爽やかな色味が好きだって、アレク叔父さんに聞いて。ヴィクトリア叔母さんはエメラルドグリーン、セレナ叔母さんはレモンイエローにしたんだ」

「ふふっ。アレクシスは、そんなところまで覚えていたのね」

「えぇ。あの子、商売のことになると本当に抜け目がないもの」

「……それ、褒めてるの?」

「もちろんよ」

……どの家庭でも女性が強いのかな――

「そういえば、清涼機《ブリーズ》も届いたの。とっても快適になったわ。フィン、とっても素敵な魔導具を作ってくれてありがとう」

「私も昨日届いたのだけれど、久しぶりにゆっくり眠れたわ。さすがはフィンね!成人してまだ数ヶ月なのに。叔母として誇らしいわ!」

「快適な生活が一番だからね」


その後もしばらく叔母さんたちと話をしてから、俺は作業部屋へ戻ることにした。

途中、エミール兄さんとフィリップ兄さんに会った。二人とも、王城へ戻る準備をしているところだったようだ。

「もう帰るの?」

「あぁ。準備も終わったし、叔母様たちに挨拶してから戻る」

「俺も一緒に顔を出しに行くよ」

「そっか。じゃあ、俺は作業に戻るよ」

そういって、俺は二人と別れ、作業部屋へ戻った。



結局、本体は二つ作った。

細めのものと、少し幅のあるもの。 前髪や短い髪にも使いやすいように、サイズを変えて試してみるつもりだ。


しばらく作業を続けていると、コンコン――と扉を叩く音がした。

「フィン様。お昼のお時間ですが……こちらで召し上がりますか?」

ノアが軽食を載せたトレイを持って立っていた。

「うん。作業を続けたいから、ここで食べるよ」

「かしこまりました」

机の端にトレイを置いてもらい、俺は軽く昼食を済ませる。

……さて。続きだ。

二つの試作品を机の上に並べる。

形はだいたい出来た。

プレート部分の厚みがどう作用するか……もう少し薄い方がいいか?
でも、そうすると本体が熱くなりすぎて、持てなくなる可能性がある。

持ち手部分と先端に、ゴム製の素材を取り付けるか……。

……いや、ゴムだと熱で劣化するかもしれない。
なら、耐熱性のある素材を――。

持ち手部分と先端には……火蜥蜴の皮膜を使うか?
……耐熱性は申し分ないけど、さすがに高すぎるな。

なら、熱を通しにくい絶熱樹脂を使うのが一番良さそうだな。

……。

よし。これで本体は大丈夫だろう。

次は魔導回路だ。
髪を挟むプレート部分に、丁寧に描き込んでいく。

……あ。

ヘアアイロンって、横向きにして使うことが多いよな?
そうなると、魔導回路もそれに合わせて配置した方がいいか。

プレート全体に均一に熱が伝わるようにするなら……縦方向に回路を走らせた方がよさそうだ。

魔導回路修正ペンで一度回路を消し、描き直していく。

魔導回路同士が接触しないよう、ギリギリを攻めてみたが……。

……ダメだな。

二枚のプレートで髪を挟むのだから、閉じた時に魔導回路が重ならないようにすればいい。

上側と下側の回路を互い違いに配置して……。
……これなら、熱が一部分に集中せず、プレート全体に均一に伝わるはずだ。

二枚のプレートに回路を描き直し、魔力の流れを確認する。

……よし。回路は問題ないな。
次は乾風《ブロア》の応用を――


コンコン――

「フィン様。夕食のお時間です」

もうそんな時間か……。

「……今行く」