侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜




「なんでこの作業部屋こんなに寒いの?!」

「おかえり」

ティアナが学園から帰って来たようだ。
……もうそんな時間なのか。


「おかえりじゃないよ!寒すぎるんだけど!」

「そうか?快適な温度に調整したつもりだったんだが…」

「これが快適なら、フィン兄様の感覚がおかしいよ!」

寒そうに自分の腕を抱くティアナを見るに、試作品一号は調整不足だったか……。
いや、魔導具としては正常に動いている。問題は温度設定だな。ただ、この温度を快適だと感じる人もいるはずだ。

……父さんや一番上の兄さんなんかは騎士として働いているから暑がりのはずだ。

なら問題は冷却性能ではなく、温度の幅だな。



「それで、何か用か?」

「そろそろ夕ご飯の時間。ちゃんと食べないとお母様を心配させることになるんだからね!あと、どんな魔導具作ってるのか気になって見に来たの」

「分かってる。一応キリがいいから食堂に向かうよ。ちなみに今作ってる魔導具は、暑い日は部屋から出なくても快適に過ごせる画期的なものだ」

「それ、ただの引きこもりじゃない」

「わざわざ避暑地に行かなくて済むんだぞ?」

「普通は涼しい場所に行くの!」

「移動しなくていいだろ?」

「そういう問題じゃない!」



作業部屋では狭すぎて正確な調整ができないな。
食堂くらいの広さなら、実際に使う環境に近い。

「試作品を食堂に持っていくか」

「え?あんな寒いものを?!」

「ここと食堂では広さが違うからな。冷却効果を確認するなら、もう少し広い場所で試した方がいい。どのくらい調整が必要か、皆の意見も聞けるし丁度いい」

「……食事中に試す気?」

「暑い中で食べるより、少し涼しい方がいいだろ?」

「……」

「……ブランケットを持って行くべきかしら……」



俺は試作品一号を持ち上げ、ティアナと共に食堂へ向かった。



食堂に着くと、早速魔導具を設置した。
だが、置く場所によって冷却効果は変わるはずだ。

人の出入りが多い入口付近は冷気が逃げやすい。
なら、空気が安定して広がる部屋の奥側がいい。

一番奥の壁際に置けば、冷風が部屋全体へ流れやすいはずだ。



「それをずっと作っていたの?」

先に食堂に来ていた母さんが、食堂の隅に置いた魔導具へ視線を向ける。

「うん、せっかくだから涼しい部屋で食事にしよう」

そう言って、俺は魔導具のスイッチを入れた。


魔力を流すと、冷却用の魔法陣が淡く光り始めた。
続いて送風用の魔法陣も反応し、魔導具の内部から静かな音が響く。



「……涼しい。食堂に持ってきて正解だ。やはり広い場所だと冷気の広がり方が違うな」


「まぁ……!本当に涼しいわね」

母さんの反応を見る限り、温度設定は悪くないようだ。



「最近は送風機だけでは少し物足りなく感じていたのよ。サマードレスを着ていても、暑い日はどうしても辛くて……。私の私室にもこれがあれば、とても快適に過ごせそうね」

確かに、暑さを感じるのは外で活動する者だけではない。
屋敷で過ごす母さんやティアナにも必要なものなのかもしれない。

「まだ試作品だからもう少し調整する必要があるけど、完成したら母さんの部屋にも設置するよ」

「まぁ!ありがとう。楽しみにしているわ」


部屋の広さによっては、本体をもう少し小型化するのもありだな。
母さんの私室に置くなら、この大きさでは少し無骨すぎる。
アレク叔父さんなら、装飾や外装の調整も――


……そのあたりは丸投げしよう。



「「涼しい!!」」

「おかえりなさい。ブルーノ、エミール」

母さんが先に声をかける。

「おかえり。父さん、兄さん」

続けて俺も声をかけた。

「おかえりなさい。お父様、エミール兄様」

ティアナも笑顔で迎える。


「ただいま。イレーネ、フィン、ティアナ」

「ただいま帰りました、母上。久しぶりだな、フィン。ティアナも変わりないようで安心した」



父さんとエミール兄さんは騎士団に所属している。

父さんは仕事を終えると屋敷に戻ってくるが、エミール兄さんは普段、王城の騎士団寮で生活している。
そのため、屋敷に帰って来るのは月に何度かある程度だ。

今日は父さんと一緒に帰ってきたらしい。


「それにしても、どうしてこの食堂だけがこんなにも涼しいんだ?今日一日暑くて、訓練も早めに切り上げるほどなのに」

「フィンが新しい魔導具を作って、それを食堂に持ってきてくれたのよ」

「ほぉ。魔導具で食堂を冷やしているのか」

父さんが魔導具に目を止めた。

「これが新しく作った魔導具か」

「うん、まだ試作品だけどね。食堂で使う分には今のところ問題なさそうだ。ただ、作業部屋で試した時にティアナから寒すぎると言われたから、もう少し調整が必要なんだ」

「フィン兄様が食堂に持っていくって言った時は、本気でブランケットを持って行こうかと思いました」

「作業部屋では冷気が滞留していたからな」

「私は私室用に欲しいとフィンに頼みましたの」

母さんの言葉に父さんが目を輝かせる。

「おぉ!それはいいな!私の執務室にもあれば仕事が捗りそうだ!フィン、私の分も作ってくれると助かる!」

「えっ!それなら騎士団寮にも欲しい!最近暑くて寝苦しいんだ!」



……需要はあると思っていたが。


完成前から、三台分の注文が入ってしまった。


「私も、もう少し寒くないやつが欲しい」




四台必要になった。