侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜




……。

結局、昨日はほとんど眠れなかった。

ベッドに入ってからも、母さんの髪をどうにかするための魔導具について考えていたら、次から次へと疑問が出てきたのだ。

風量自体は抑えた方がいいけど、火属性を後押しするように風属性を組み込むべきか……。 でも、それだと乾風《ブロア》になってしまう。

……魔導回路から見直すべきか?

そもそも、材料も何を使うべきか……。

本体には、耐熱性と魔力伝導性に優れた白銀鋼。 髪に触れるプレート部分には……熱を均一に伝えやすい黒曜石系の魔導素材を組み込むか?

……どちらもいい素材だけど、高い。 貴族向けに売り出すなら採算は取れそうだけど、もっと手頃な素材でも作れるはずだ。

……本体は魔導金属でいいか。 プレート部分は……魔導陶板。

……うん。これなら良さそうな気がする。

気づけば、枕元には考えついたことを書き殴った紙が何枚も散らばっていた。

「……眠い」

俺は大きく欠伸をして、ベッドから起き上がった。

朝食までまだ少し時間がある。……作業部屋へ行くか。

本体の大きさは……女性が使いやすいように、持ち手部分は細めがいいな。プレート部分は少し太めにして、髪を挟みやすいようにしようか。

……これだと太すぎるか?

前世で俺自身、ヘアアイロンをあまり使ったことがないから、サイズ感の善し悪しが難しいな。 確か、前髪用に細めのヘアアイロンもあったはずだ。

……そうなると、サイズ別に展開した方がいいのか? 細めだと、短い髪の男性にも使いやすいだろうし。

……いや、待てよ。 サイズだけじゃない。髪質によっても、必要な温度は違うはずだ。

そうなると……温度調整機能も必要だな。


コンコン――

「フィン様。朝食のお時間です」

「……分かった。今行く」

食堂に着き、朝食を食べ始めてからも、俺の頭はヘアアイロンをどう作り上げていくかでいっぱいだった。

「フィン、また魔導具のことを考えているのか?」

じぃちゃんにはお見通しみたいだ。

「……あ、うん。昨日、母さんが夏はヘアセットをしても汗で髪がうねるって言ってたから。それをどうにかできないかなって。ヘアセットが長持ちしやすくなるような魔導具を考えてるところ」

「ほぉ……そのような物を考えていたのか」

「うん。でも、美容に関する魔導具はちょっと難しいね。髪質によって必要な温度も違うし、使いやすさも考えないといけない。熱を使うなら、安全性も大事だし」

「なるほどな。魔導具として使えるだけではなく、使う人間のことまで考える必要があるわけか」

「そういうこと」

「ヘアセットに使う魔導具ということは、乾風《ブロア》の応用か?」

「うん。それでいけると思う。けど、調整が難しそうなんだよね……乾風《ブロア》と違って、直接髪に当てる構造になるから。下手をすれば髪がチリチリになるし」

「……フィン兄様。そんな怖いものを作っているの……?髪がチリチリになるだなんて……髪は女性の命なのよ?」

「そうならないために、調整を慎重にしないといけないって話だよ」

「でも、完成したら試しに使うはずよね? もちろん自分の髪でしょう?夜会前に、チリチリにならないように気をつけてよね」

……それは確かに。

「乾風《ブロア》の時は、本当に感動しましたからね。髪はまとまりやすくなって、ツヤも出るようになって」

「当時は、私とお義母様で夜会の注目を集めましたからね」

ばぁちゃんと母さんが、懐かしそうに話し出した。

「皆さんから、どうやっているのかと、たくさん聞かれたわ」

「私も、たくさんの方に囲まれて説明するのが大変でした。フィンが今作っている魔導具が完成したら、またきっと話題になりますわ」

「そうね」

ばぁちゃんは、嬉しそうに頷いた。

「話題にするなら、私のデビュタントの時がいいんじゃないの? この夏の夜会では扇涼《ヴェント》を流行らせて、冬に行われるデビュタントで、今フィン兄様が作ってる魔導具を流行らせるの。アレク叔父様なら、そんな感じで売り出しそうだけれど」

「……そうね。アレクシスなら、そう考えそうね。でも、夏の場のヘアセットが悩みで作り始めたのでしょう?」

「まぁ。売るのはアレク叔父さんに任せて、魔導具ができたら、ばぁちゃんや母さん、ティアナは使えばいいんじゃない?」

「……そうなのだけれど。周りの方たちが黙っていないと思うわ」

……。

そうなった時は、アレク叔父さんに丸投げ案件だな。