侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



あれから数日――。

じぃちゃんの清涼機《ブリーズ》の量産に付き合わされているうちに、いつの間にか、社交シーズンが始まる時期が近づいていた。

そして今日は、母さんが頼んでいた礼服が届いた。


母さんが俺と、エミール兄さん、フィリップ兄さんの三人分まとめて頼んでいたらしく、今日は俺たち三人で礼服の最終確認をすることになっていた。

応接室に呼ばれ、仕立て屋に礼服の最終確認をしてもらう。

紺色のスリーピースで、シルバーの糸で上品な刺繍が入っている。
俺が使っている扇涼《ヴェント》も、水色から紺色のグラデーションだから、これにもよく合いそうだ。

さすが、母さん。 俺の好みをよく分かっている。

派手すぎなくてよかった。

……ん? 少し、きついような……。
……まさか。 最近、魔導具作りにかまけて、あまり動いてなかったからか?

……これは、少し運動した方がいいかもしれない。

「フィン様。いかがでしょう?」

「……ちょっときつい気もするけど、夜会まで運動するよ」

「これくらいでしたら、すぐにお直しさせていただきますよ?」

「いや、これで大丈夫」

「なんだ、フィン。太ったのか? 騎士団に鍛えに来ればいい」

「俺が騎士団の訓練についていけるわけないよ。それに、これはアイスを控えればいいだけだから……たぶん」

「フィンは本当に、部屋と作業部屋ばかりにいるからな」

「……魔導師団に入り浸ってるフィリップ兄さんに言われても」

「俺は仕事で行っているんだ」

「俺だって作業部屋で仕事してるよ」

「他の国のことわざに『どんぐりの背比べ』というものがあるが……お前たち二人のことだな」

……エミール兄さんに言われるのは、なんだか癪だな。


そんなやり取りをしながら、三人の礼服の確認は終わった。
仕立て屋を見送った後、母さんが満足そうに俺たちを見回した。

「三人ともよく似合っているわ。
フィンも、少しきついだけなら問題なさそうね」

「うん。夜会までには少し運動するよ」

「……本当に運動するのか?」

エミール兄さんが疑わしそうに俺を見る。

「するよ。……たぶん」

「その『たぶん』が信用ならないな」

「大丈夫だって。アイスも控えるんだから」

それに、俺が参加するのは王家主催の夜会だけだ。
王家主催の夜会は社交シーズンの最後だから。 まだ時間はある。

……たぶん。

「ティアナも今年から夜会に参加するのだから、フィン、しっかりしなさい。私たちが挨拶に回っている間は、フィンがティアナの側についていてあげるのよ」

そういえば、今年からティアナも家族と一緒に夜会へ参加するんだったな。 冬のデビュタントを迎える前に、少しずつ社交の場に慣れておくためだ。

「……分かってる」

俺自身、夜会での立ち回りに慣れているわけではない。
まぁ、ティアナの方が俺よりずっと社交に向いている。 俺が余計なことをしなければ、きっと大丈夫だろう。

「そういえば、兄さんたちはいつまで休みなの?」

「明日までだ。それからは普段の業務に加え、夜会の警備やらで忙しくなる」

「フィリップ兄さんも?」

「あぁ。魔導師団も社交シーズン中は仕事が増えるからな」

「そっか」

俺は二人の礼服を見る。
……なんだか、いつもより家族みんなが忙しくなりそうだ。


「明日、叔母さんたちが来るんだよね?」

「えぇ。みんなが忙しくなる前に、お茶会は明日になったの」

「二人に扇涼《ヴェント》を渡したいから、俺もお茶会に顔を出すよ」

「私たちも、叔母上たちに挨拶してから王城に戻ることにする」

エミール兄さんがそう言うと、フィリップ兄さんも頷いた。

「明日なら、まだ時間も取れるし」

そんな話をしながら、俺たちは届いたばかりの礼服を眺めつつ、しばらくお茶を飲んでいた。

「それにしても、今年の夏は暑いわね……。外出した時、せっかくセットした髪が、汗でうねるのよ」

前世の時より湿度が低い分、カラッとした暑さだけど、汗をかけば髪型が崩れてくるのは分かる。
そんな時は、ヘアアイロンで伸ばしたりできていたけど、この世界にヘアアイロンはない。

……作るのもありだな。

火属性と風属性を組み合わせれば、乾風《ブロア》の応用で作れそうだ。

乾風《ブロア》は、俺が子供の頃に作ったドライヤー型の魔導具だ。
当時は女性にとても喜ばれた。

……そういえば、ばぁちゃんもかなり喜んでたな。

なら、ヘアアイロンも喜ばれるかもしれない――。

母さんが、呆れたように俺を見ていた。

「フィンったら、また黙り込んで……。今度は何を作るつもりなの?」

「さっき母さんが髪がうねるって言ってたから、それをどうにか出来ないかなって。乾風《ブロア》の応用で魔導具が作れそうだから試してみるよ」

「まぁ!それは楽しみだわ」