侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「話を聞いていたら、私も扇涼《ヴェント》が欲しくなってきたな」

「ならば、先ほどフィンが作った物をブルーノにあげるのはどうだ?」

「うん。じぃちゃんがそれでいいなら。はい、父さん」

俺はさっき作った扇涼《ヴェント》を父さんに渡した。

「……おぉ! これはいいな。
騎士団にいる時は清涼機《ブリーズ》があるから、扇涼《ヴェント》は必要ないと思っていたが......」

父さんは扇涼《ヴェント》を扇ぎながら、感心したように続ける。

「馬車での移動を考えると、これがあるだけで快適さは全く違うだろうな」

「……そうなると、持っていないのはエミール兄さんだけになるけど、作った方がいいのかな?」

「そうだな。エミールの分もあった方がいいだろう」

「だよね。……夕食まで時間あるから、エミール兄さんの分も今から作ろうかな。
とりあえず、エミール兄さんに聞いてくるよ」

そう言って俺は、兄さんの部屋へ向かった。


コンコン――

「エミール兄さん。俺だけど、ちょっといい?」

「フィンか?入れ」

扉を開けて入ると、兄さんは本を読んでいた。

「どうかしたか?」

「さっき、扇涼《ヴェント》を作り終えて、父さんが欲しいって言ったからあげたんだけど、エミール兄さんの分も作ろうかと思って」

「あぁ、あの扇子型の魔導具か。騎士として動くことが多いから、扇子は持ち歩けないんだ」

「父さんは馬車の移動で使うのにちょうどいいって言ってたよ?」

「馬車か……確かに、暑いな」

「まぁ、みんな持ってるし、せっかくだし作るよ。
だから、扇涼《ヴェント》にしてもいい扇子貸してくれないかなって思って取りに来た」

「作るのは決定事項なのだな」

エミール兄さんに苦笑いされた。

「エミール兄さんが使ってくれれば、男性にも人気が出て売れると思うんだよね。アレク叔父さんが喜びそう」

「それは……想像できるな」

エミール兄さんはそう言うと、紺色の扇子を渡してくれた。


それを受け取ると、俺はすぐに作業部屋へ向かった。

……扇涼《ヴェント》を作るの、何本目だろう。 家族分はこれで最後だから、当分作ることはないかな……いや、じぃちゃんの量産に付き合わされるんだった……。

やっぱり女性物の扇子より、男性物の方が骨組みも少し大きくて、魔導回路の描き込みや魔法陣の組み込みがしやすいな。
それに、流行りなのかは分からないけど、女性物の扇子はレースや透け感のある扇面だったから、取り扱いにも気を遣ったし。

「……これなら、少し早く完成しそうだ」

つまみ部分を取り付け、魔核を設置する。
魔導回路と魔法陣を確認しながら、細かな調整を進めていった。

……よし。あとは試すだけだ。

扇子を開き、起動を確認する。
紺色の扇子から、涼しい風が流れ出した。
風量調整も問題なし。

……うん。
扇涼《ヴェント》は問題ない。
完成した。
が……

作業部屋が、また元通りになってしまった……。
せっかく片付けたのに。

まぁ、今回は清涼機《ブリーズ》と扇涼《ヴェント》を作っていると知っているから、多分ばぁちゃんは突撃してこないだろう。

……いや。ちょっとだけ片付けておこう。

そう思って片付け始めたところで――


コンコン――

「フィン。ちょっといいかしら?」

……え?

「ばぁちゃん、どうしたの?」

「もうエミールの分は作り終わったのかしら?」

「うん。ちょうど終わって、今片付けてるところ」

「まぁ、そうなの?
これから社交シーズンでしょう? 扇涼《ヴェント》を持っていれば、きっと興味を持つ方もいるでしょうから。フィンがどんな想いで作っているのか、少し見ておきたかったのよ」

「どんな想い……?
扇涼《ヴェント》に関しては、移動中も快適に過ごせないかなって思っただけだよ。清涼機《ブリーズ》を応用して作ったんだ。
最初は清涼機《ブリーズ》を持ち運べないかとも考えたんだけど……正直、面倒でしょう?
だから、普段から使っている扇子を魔導具にするのはどうかなと思って、作ってみたんだ。小型の魔核を付けたけど、重さもほとんど変わらないから、持ち運ぶにはちょうどいいと思って」

「……フィンらしい発想ね」

……怒られるのかと思った。
危なかった。片付け始めておいて正解だったな。

「もうすぐ夕食だから、早く片付けて食堂に来なさいね」

「……分かった」