侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「これが扇涼《ヴェント》の仕様書で、こっちが制作中に書いてたメモ」

「……なるほど。送風機を元にしているのか」

「うん。清涼機《ブリーズ》も、送風機を応用して作った」

「あれの仕様書も見せてくれ」

「はい」

清涼機《ブリーズ》の仕様書を手渡す。

「……見比べると、この二つは結構似ているな」

「そうだね。送風機の応用が清涼機《ブリーズ》で、清涼機《ブリーズ》の応用が扇涼《ヴェント》かな」

「清涼機《ブリーズ》の方もつくってみたいものだ」

「二人にお土産として、清涼機《ブリーズ》を持って帰ってもらおうと思ってたんだ。それを二人が滞在中に作る予定だったんだけど、それなら、じぃちゃんも一緒に清涼機《ブリーズ》作ろう」

これなら、清涼機《ブリーズ》を作るには、ちょうどいい口実だ。

「そうだったのか。ありがとう」

「まぁ、俺一人じゃ、じぃちゃんの屋敷中に設置する分の清涼機《ブリーズ》は作れないから、手伝ってもらえるなら助かるよ」

「では、滞在中は清涼機《ブリーズ》と扇涼《ヴェント》の量産だな」

「……え?」

……え?

え――っと……

「そういえば、じぃちゃん。リリエン商会に寄ってから来るんじゃなかったの?」

「あぁ。その予定だったのだが、今、商会が凄く忙しいらしくてな。『職人は何人いてもいい!』とアレクシスが言うもんだから……」

……あぁ。 アレク叔父さん、じぃちゃんを職人側に引き込んで、清涼機《ブリーズ》と扇涼《ヴェント》の量産を手伝わせようとしていたのか。

……なのにじぃちゃんは、自分の屋敷分の量産を、俺に手伝わせようとしているのか。

似た者親子だな。


「ん?こっちは時間指定と書いてあるが……起動・停止か。この機能は便利そうだな」

「使わない時は停止にしておいて、使いたい時間の30分前くらいに起動するように設定しておけば、部屋が快適になってるよ」

「なるほど……使用者の生活に合わせて動作を変えられるのか」

「うん。朝起きてから起動させて、部屋が涼しくなるのを待つより、寝る前に設定しておけば、作業部屋に入った時には快適な温度になってるから」

「上手いこと考えたものだな」

「まずは清涼機《ブリーズ》から作る?」

「うむ」

薄型鉄板を魔力で纏い、形を整えていく。

「清涼機《ブリーズ》を四角に形成した理由は?」

「中に回路や魔核を組み込むなら、四角の方が空間を無駄なく使えるからね。外装も作りやすいし、修理もしやすい。あと、壁際や棚の上にも置きやすい」

「……なるほど。本体が小さくても確かに魔導回路を描き込みやすいな。では、なぜ魔導回路描写ペンのペン先を、そこまで細くした?仕様書を見る限り、わざわざ難しくしているようにも見える」

「細い方が、回路同士の間隔を詰められるから。回路を密集させても干渉しにくい。小型化するには、この太さがちょうど良かった」

「……試作を重ねた結果か。そうなると……夜会などで使われる大広間なら、本体を大きくして、魔導回路も太いペン先で描けば、広い部屋用の清涼機《ブリーズ》も作れそうだな」

確かに前世でも、広い部屋用の大型エアコンあったし、こっちでも需要はありそうだな。

「夏の社交シーズンも始まるし、試しに大広間用の清涼機《ブリーズ》を作ってみるのもいいかもね」

「そうだな。滞在中に一度試してみよう」

じぃちゃんが制作をしながら問いかけるのは、昔から一緒だ。
そうする事で、俺の頭の中も自然と整理されていく。

本体形成の次は、魔導回路だ。

「フィンが言っていた通り、ペン先を細くする事で、回路同士の干渉を避けているな。……相変わらず無駄のない魔導回路だ」

……じぃちゃんにこうやって認められると、何だかくすぐったい。

「だが……老眼には少し厳しいくらい細かいな」

「……老眼鏡の魔導具を作る……とか? 近くを見る時は自動で調整してくれるような」

「……ほぉ。それは面白そうだな。それが出来れば、遠くを見る時にも自動で調整される眼鏡型魔導具もできそうだ。だが、作るとなると……目に関する知識と、医師への確認も必要になってくるだろう」

作る前に、そういうことまで考えないといけないのか。
..... なるほど。こういうところも、アレク叔父さんと似ている気がする。
..... いや、アレク叔父さんが、じいちゃんに似たのか。

「次は送風と冷却の組み込みだな……」

やっぱり、じぃちゃんの魔導具制作のペースは早い。確認し、調整しつつ丁寧だが、迷いがないというか……すごい。

その後も操作盤の制作、調整、確認を進め、俺とじぃちゃんは、それぞれ一台ずつ清涼機《ブリーズ》を完成させた。


「……寒いな」

「……うん」

すでに作業部屋は清涼機《ブリーズ》のおかげで快適だった。
そこに、先ほど完成した二台を試しに起動してみたのだが……。

流石に三台同時起動は、作業部屋には強力すぎたらしい。