侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「フィン様、おはようございます。朝食のお時間です」

「……おはよう」

ぐっすり寝たような気がするけど……もう少し寝たい。

「本日はゲレオン様とクラウディア様がお越しになりますから、早めに朝食を済ませて、準備なさいませんと!」

「……何時頃到着するか、聞いてる?」

「午前中には到着される予定です。昼食は、皆様ご一緒されることになると思います」

昼食か……。
そういえば、ばぁちゃんに食べてもらうアイスは用意できているだろうか。
アイス作ってあるか、料理長に確認しておこう。

食堂に向かうと、みんなもちょうど席に着いたところだった。

「おはよう、フィン」

「おはよう」

いつも通りの朝食だったが、今日は少しだけ屋敷の空気が違う。久しぶりに祖父母が帰ってくるからだろう。

まだ到着まで時間はある。 身なりを整え、作業部屋の最終確認をする。

..... これで、ばぁちゃんが来ても問題ないはずだ。

「フィン。ちょっといいかしら」

「ん?母さん。どうしたの?」

「先ほど侍女から聞かれたのだけど、お義父様とお義母様がお使いになるお部屋には、清涼機《ブリーズ》は置かなくていいのかと」

「あ。そういえば……この暑さだし、領地より王都の方が暑いと思うし、作った方が良さそう」

「ぎりぎりになってしまって、フィンには悪いけれどお願いできるかしら」

「うん、分かった。でももうすぐ到着予定だよね?挨拶だけ済ませて、すぐに制作に取り掛かるよ。
とりあえず、俺は部屋用と作業部屋用で二つ持ってるから、そのうち一つを応接室に持って行こう。
そこで、ばぁちゃんを足止めしている間に作る」

「……足止めって。分かったわ。それじゃあ、よろしくお願いするわね」

そんなことを話していると、そろそろ到着されるとのことで、ノアに呼ばれた。
俺は、ばぁちゃんに贈る扇涼《ヴェント》を手に、玄関へ向かった。

玄関には、すでに父さんと母さん、兄さんたちが集まっていた。


やがて馬車が到着し、扉が開く。

「父上、母上。お久しぶりです」

「あぁ。元気そうでなによりだ」

「久しぶりね……」

ばぁちゃんは、家族の顔を順番に見渡したあと、最後に俺へ視線を向けた。

「フィン。今回はちゃんとお出迎えができたのね。いつもは作業部屋から出てくるのが遅いのに。大人になったのかしら」

「……とりあえず、二人とも疲れたでしょう?応接室でお茶にしよう」

俺の話をこれ以上膨らまされる前に、ささっと応接室に誘導した。


応接室の扉を開け、二人を中へ促すと――

「……おぉ!涼しいではないか」

「まぁ!本当ね」

「父上、母上。これはフィンが作った魔導具で、清涼機《ブリーズ》です」

「そうか。フィン、いい物を作ったな」

「うん。最近暑いから」

久しぶりに、家族全員が揃った。
じぃちゃんとばぁちゃん。 父さんと母さん。 エミール兄さん、フィリップ兄さん、ティアナ。
そして、俺。

当主交代前は、この屋敷でみんな一緒に暮らしていた。 今はそれぞれの場所で過ごしているけれど、こうして集まると、昔の記憶が自然と蘇ってくる。

……そういえば、忘れるところだった。

「あ、ばぁちゃんには扇涼《ヴェント》を贈るよ」

「まぁ!扇子ね」

「これも魔導具なんだ。試しに扇いでみて」

「……とっても涼しいわね」

ばあちゃんに続いて、母さんとティアナも自分の扇涼《ヴェント》を手に取り、扇いでみる。

「素敵な魔導具をありがとう。とっても気に入ったわ」

「扇子自体は、アレク叔父さんと一緒に選んだんだ。ばぁちゃんの濃い緑色のドレスに、この深紅が似合いそうだって」

「まぁ……アレクシスも一緒に選んでくれたのね」

ばあちゃんは扇涼《ヴェント》を大切そうに眺めた。

聞いたことがある。 ばぁちゃんは、末っ子であるアレク叔父さんには特に甘かったらしい。
ちょっと意外だった。 アレク叔父さんは、昔から自由奔放だったと聞いている。そんな人に、ばあちゃんが甘かったというのは少し想像しにくい。

……いや。そうでもないか。
父さんと母さんも、ティアナに甘いし。

末っ子とは羨ましいものだな……。

そんなことを考えていると――


「私には扇涼《ヴェント》とやらはないのか?」

「じぃちゃんの分は、一緒に作ろうと思って。扇子、何本か持って来てるでしょ?その中から、気に入ってる扇子を使って扇涼《ヴェント》を作らない?」

「おぉ!そうだな。さっそく作りに行こう」

よし。これでスムーズに作業部屋へ戻れる!

「まぁ……ゲレオンったら。着いて早々……本当に二人は昔から似ているわね」

「老い先が短いのだ。気になったら、すぐに行動に移さねば」

「何を言っているのかしら。フィンの教育にも良くないですから、変なことは言わないでくださいね」

……ばぁちゃんは俺をいくつだと思ってるんだ?
もう成人して、数ヶ月経つんだが?

「分かっている。だが、昼までまだ時間がある。フィン、行くぞ」

「え、うん」

そう言うと、じぃちゃんは返事を待つことなく、さっさと作業部屋へ向かった。