リリエン商会から急いで帰ってきて、すぐに作業部屋の掃除に取り掛かった。
というのも、俺は昔から作業部屋にこもりがちだった。
そのため、ばぁちゃんは俺を外に連れ出そうと、ちょくちょく作業部屋へ突撃してきていた。
今はじぃちゃんと領地で暮らしているが、当主交代するまでは、この屋敷で二人とも暮らしていたんだ。
……俺が成人したからといって、作業部屋に突撃しなくなるとは思えないし。
なら、先手を打って、掃除すればいいだけだ。
このあと扇涼《ヴェント》を作るから、それに必要な魔導具と、材料だけ作業机に残して、他は片付けよう。
仕様書は用途ごとに分けて書類棚へ。
素材は収納ケースごとに整理し、今日使わない魔導具は棚へ戻す。
軽く掃除を済ませ、作業机の上には扇涼《ヴェント》の制作に必要な物だけを残した。
――よし。
扇涼《ヴェント》を作った後に、仕上げの掃除をすれば完璧だ。
さて、扇涼《ヴェント》を作るか。
作業机に残した材料と魔導具を確認する。
もう何度も作っている扇涼《ヴェント》だ。 今さら手順を間違えることもない。
まずは魔導具回路を丁寧に描いていく。
その後、魔法陣の調整を行い、魔核を組み込み、動作確認を済ませる。
しばらくして、三本の扇涼《ヴェント》が完成した。
とりあえず、最後に片付けておこう。
作業部屋を片付けていると――
コンコン――
「フィン様。昼食のお時間です」
「分かった。今行く」
……途中だが、仕方ない。
残りは食後に片付けよう。
食堂へ向かうと、母さんもちょうど来たところだった。
席に着いて、食事が運ばれてきた。
今日のメニューは、ざるうどんと天ぷらだ。
「母さんがリクエストしたの?」
「えぇ。清涼機《ブリーズ》で涼しく過ごせているとはいえ、さっぱりした物が食べたかったの。それに、貴方は一応、病み上がりでしょう?食べやすいと思って」
「ありがとう。作業部屋の掃除をしてたから、ちょうど暑かったんだ」
ちなみにざるうどんと、天ぷらを料理長に教えたのも俺だ。
「掃除?まだしていなかったの?お義母様が来られるの、明日よ?」
「明日来るって聞いたの、さっきアレク叔父さんのところへ行った時なんだよ……」
「あら?明日だと伝えてなかったかしら……」
「多分。それか、体調を崩して寝込んでたから、日付の感覚がずれてたのかも」
母さんは苦笑しながら、小さく息をついた。
「まぁ、お義母様が来られる前に、体調が戻ってよかったわ」
確かに。体調が悪いままだったら、作業部屋の掃除なんて出来なかっただろうし。
そんなことを話しながら食事を終え、作業部屋へ戻った。
作業部屋へ戻ってからは、掃除の続きだ。
基本的な掃除はメイドがしてくれているが、作業部屋だけは別だ。 魔導具の試作品や素材が置いてあるため、下手に触られると困るものも多い。 だから、この部屋だけは自分で管理している。
そうなると、やっぱり掃除機が欲しい……。
クリーン魔法は存在する。 しかし、掃除程度に魔力を使うのはもったいないという考えが、この世界では一般的だ。
実際、クリーン魔法は万能ではない。 綺麗にできる範囲も、汚れを落とせる確率も、使用する魔力量によって変化する。
そんな不安定な魔法を、わざわざ日常の掃除に使うのは非効率だ。 それが、この世界での一般的な認識だった。
……いつか作ろうかな。
あ、ロボット掃除機もいいなぁーー……
そんなことを考えながら掃除をしていると、いつの間にか作業部屋の片付けは終わっていた。
今日やるべきことは終わった。
あとは部屋でのんびり過ごし、気付けば夕食の時間になっていた。
コンコン――
「フィン様。夕食のお時間です」
「うん。今行く」
食堂に着くと、久しぶりにみんなが勢揃いしていた。
「エミール兄さんと、フィリップ兄さんも帰って来てたんだ」
「あぁ。明日、お祖父様とお祖母様がいらっしゃるからな」
「一応休みを取ったんだよ」
「じぃちゃんはリリエン商会に寄るなら、そのままリリエン伯爵家に泊まるのかと思ってた」
父さんが口を開いた。
「父上は商会に寄ってから、こちらへ来られる予定だよ」
それなら、外出する手間が省ける。
「そうなんだ。勘違いしてた」
なら、屋敷にいる間は、わざわざリリエン商会まで行かなくても、こっちでじぃちゃんと話せるな。
仕様書は書き直さなくても、じぃちゃんなら俺の汚い字でも読めるだろう。
……というか、販売用に清書した仕様書を見せる必要もないか。 じいちゃんなら、制作中に書いた殴り書きでも読めるだろう。
「あ、じぃちゃんの分の扇涼《ヴェント》は、作らなくていいよね。欲しかったら自分で作るだろうし」
父さんが苦笑いした。
「まぁ、フィンに作ってもらったら嬉しいとは思うが。一緒に作るのがいいんじゃないか?」
「……まぁ、明日聞いてみるか」
