侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「ありがとう」

ノアが淹れてくれるお茶は、いつも美味しい。 俺の好みに合わせて、すっきりとした茶葉を選んでくれている。
このお茶を飲むと頭がすっきりするから、魔導具を作るときは特に考えがまとまりやすい。

「今日のお茶も美味しいよ」

「ありがとうございます、フィン様。お気に召していただけたようで、何よりです」

ノアは一礼すると、静かに部屋を後にした。



さて、今日も早速、魔導具創りを始めるか。



エアコンの試作品一号の本体は、置き型かつ卓上サイズにしたから、それに合わせて魔導回路も少し細めに引かなきゃいけない
。
細すぎれば魔力の流れが悪くなるし、太すぎれば本体に収まらない。

先の細いペン型魔導具を買っといて良かった。これなら細かな魔導回路も問題なく描けそうだ。

ペン先から魔力を少しずつ流し込みながら、魔導具本体に慎重に魔導回路を描き込んでいく。これは送風機とほとんど同じ魔導回路だから、細かな違いを除けば意外と簡単に描ける。

小さい頃、じぃちゃんの工房でよく見てたからな。

「回路は焦らず、一筆ずつだ」って、じぃちゃんから最初に教わったことだ。



一筆一筆、焦らず魔導回路を描き込んでいく。
少し時間はかかったが、回路に乱れはない。

最後に魔石を組み込もうとして、配置を見直したそのとき――


いや……やっぱり、ここは少し狭すぎるか。
このままだと冷却用と送風用の魔力の流れがぶつかってしまう。効率が落ちるだけじゃなく、冷却性能まで下がりかねない。

「しょうがない…やり直すか」


魔導回路修正ペンで、問題のある部分だけを消す。魔導回路を部分的に修正できる、職人には欠かせない道具だ。

ここの回路は、さっきより少し上向きに引いて……。魔力の流れが接触しないように真っ直ぐ――いや、次の角の部分で魔力が滞らないように、緩やかに曲げれば……


……。

――

……よし。


「魔核を入れてみるか」


魔核を手に取ったところで、ふと気付く。


――スイッチを作るのを忘れてた。



たまにはこういうこともある。

本体にスイッチを付けるだけなら簡単だ。でも、部屋のどこからでも操作できた方が便利だよな。
やっぱりリモコン式にするか。

その方が温度や風量の細かな調節もしやすいはずだ。

リモコンの素材は軽くて手に持ちやすい物がいいけど……。木が一番扱いやすいか。コストも抑えられることを考えたらアレク叔父さんが喜びそうだな。


よし、リモコンの外装は木製で作るか。
中に魔導具用の薄い鉄製の板を挟んで固定すれば、魔力の流れも安定して、遠隔操作するにはちょうど良さそうだ。

リモコンの外装作りは5分もあれば終わる簡単な作業だ。
問題はこの小さな筐体に遠隔操作用の魔導回路をどう組み込むかだ。

赤外線の代わりになるものが必要だ。
この世界なら、無属性魔法を使った魔力通信が一番近いか。なら、遠隔操作の術式を組み込めば、魔導回路をもっと簡略化出来る。

そうなると、小型の魔核で安定した通信が出来るかだな。いや、本体とリモコンに別々の魔核を使えば、魔力の干渉も起こらず安定して作動するはずだ。
それぞれに魔核を使うと少し値は張るが、使いやすさや快適さを考えれば必要なコストだ。

うん、アレク叔父さんに頑張ってもらおう。



魔導回路だけなら、もう問題ない。
残るのは、冷却と送風を制御する魔法陣の調整だ。


最近また新しい魔法陣が売り出されるようになった。
でも、性能が良すぎて今作っている魔導具には少し扱いづらい。消費する魔力や必要な魔核の大きさを考えると、まだ使うには早いな。

次に作る魔導具なら、使い道があるかもしれない。



無属性魔法を組み込んだ魔法陣を基礎に、冷却と送風の術式を配置する。さらに、それらを制御するための文字を書き加えていく。既存の魔法陣を調整し、魔導回路との接続を確認する。


あとは魔核を組み込めば完成だ。


「さて、やっと快適に過ごせるのか…」


魔力を流すと、冷却用の魔法陣が淡く光り始めた。
続いて送風用の魔法陣も反応し、魔導具の内部から静かな音が響く。



冷たい風が流れ出す。


……成功だ。


これで暑さに悩まされることもなくなるな。
そう思いながら、温度の微調整を続けていると――





「フィン兄様――」



「寒っ!!」


「……え?」