侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



「お帰りなさいませ。フィン様」

「ただいま。少し疲れたから、焼き菓子とお茶をお願い」

「かしこまりました。すぐにご用意いたします」

部屋に戻り、外出用の服から楽な服へ着替えると、ソファーに横になりながらお茶を待った。


コンコン――

控えめなノックの音が響いた。

「入って」

「失礼いたします」

そう言って入って来たノアは、テーブルにお茶と焼き菓子を置いた。

「お待たせいたしました。お茶のご用意が整いました」

「ありがとう」

ノアは一礼すると、静かに部屋を後にした。

はぁ――……。
美味しい。

ノアが淹れてくれるお茶を飲みながら、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした。


それから数日間は――。

工房に籠もって魔導具を作ったり、フィリップ兄さんと魔法や魔導具について話したりと、いつも通りの日々を送っていた。


そんなある日、一通の手紙が屋敷へ届いた。

「フィン様。ウィルフリード殿下より、お手紙が届いております」

「……嫌な予感しかしない」

封を開け、読み進める。


『久しぶりだな。元気にしているだろうか。
私は学園を卒業してから、公務に勤しんでいる。
フィンは相変わらず、魔導具作りに邁進していると聞く。
最近では、清涼機《ブリーズ》と扇涼《ヴェント》を作ったそうではないか!
清涼機《ブリーズ》は部屋を涼しく快適にし、
扇涼《ヴェント》は優雅ながらも快適にしてくれると。
それが今、学園で流行りつつあると。
エルーシアから、ティアナがフィンの新作だと話していたと聞いた。
私は初耳だ!
なぜ、そんな素晴らしい物を作ったのにも関わらず、私に教えてくれないのだ!
私は毎日、暑い中、公務に励んでいるのだぞ。
友人として、そのくらいの情報共有はしてほしいものだ。

それと、すでに王家から夜会の招待状が届いているはずだが、ちゃんと来いよ。
私が声をかけないと、フィンはサボろうとするからな。
久しぶりに会えるのを楽しみにしている』


……もう学園で流行りつつあるのか。

ということは、アレク叔父さん、本当に急ピッチで作って、予約分を捌いているんだ……。すごい。

教えるも何も、王家には最初にお贈りする予定なんだけど……。

はぁ……夜会に出席するつもりではいたけど、俺宛てに直接来たら本当にサボれないじゃないか。


手紙を読み終え、テーブルに置いた。

……作業部屋で昨日の続きをしようかな。


いや、今日は少し休もう。

そういえば、前から食べたいと思っていたものがあった。
カツサンドだ。
あれからずっと食べたいと思っていたけど、何だかんだ忙しくて、 料理長に作り方を伝える機会がなかったんだよな。

よし、今日は料理長に再現してもらおう。


「料理長。再現して欲しい物があるだけど」

「……フィン様。今度はどのような物で?」

「カツサンドって言って、他の国の料理なんだけど」

「カツ……サンドですか?サンドということは、サンドイッチのようなものでしょうか?」

「そう!サンドイッチの中身がトンカツなんだよ。
豚肉は脂身と赤身の間に数ヶ所切り込みを入れて、塩こしょうを振る。そのあと薄力粉、溶き卵、パン粉の順につけて油で揚げる」

確か、こんな感じでトンカツが出来るはず。

「なるほど。そうなると、少し厚みがある肉の方が良さそうですね。揚げ時間はどれくらいか分かりますか?中までカリッと揚げるのか、肉がしっとり柔らかなくらい揚げるのか」

「外はサクッと、中はしっとり!」

「分かりました。試しに作ってみましょう」

そう言うと、料理長は慣れた手つきで、下味をつけ、パン粉を纏わせ、油の温度を確かめながら揚げていった。


味見のため、一口に切ってもらい、塩をふって食べた。

「うまっ!」

衣はサクッと軽くて、肉は驚くほど柔らかい。
塩だけなのに、肉の旨味がしっかり感じられる。

前世の記憶を頼りに伝えただけなのに、この再現度……。
料理長、凄すぎる。

「ほぉ……確かに美味いですな。意外と簡単ですし、豚肉以外でも応用出来そうですね」

「これをキャベツと一緒にパンに挟むんだけど、甘酸っぱくて、少し濃厚なソースをかけるらしくて……詳しくは分からないんだけど」

「甘酸っぱいとなると……トマトを使ってみましょうか。そこに赤ワインを加えれば、味に深みが出るかもしれません」

おぉ……確かに、そんな感じだった気がする。

それに加え、料理長は味を確かめながら少しずつ調味料を加えていき、ソース第一弾が完成した。

「ん――……美味しいけど、少し塩味が強いかも。もう少し甘くてもいいと思う」

「そうですね……今度は少し甘めのワインを使って、砂糖ももう少し入れてみましょうか」


そして、第二弾のソースは――

「美味い!トマトの酸味とワインの風味がちょうどいい」

「これは肉料理との相性がとても良いでしょう」

「あとは、パンにトンカツとキャベツを挟んで、このソースをかければ完成だ」

料理長は薄く切ったパンに、揚げたトンカツと千切りのキャベツを挟み、先ほど作ったソースをかけた。

一口サイズに切ってもらい、口に運ぶ。

「……これだ。これが食べたかったんだよ」

衣のサクッとした食感。柔らかな肉。甘酸っぱいソースとキャベツの相性。
完全に前世と同じではない。 でも、懐かしさを感じるには十分だった。

「こちらを夕食の際に、皆さんにも食べていただきましょうか?」

「そうだな。夕食の時に、一口サイズを二切れずつくらい出してみようか。多分、父さんは気にいるはずだ」


みんなの反応が楽しみだ。