侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜




……眩しい。

「……今何時だ」

魔導時計を見ると十四時を少し回ったところだった。
朝食を食べてから寝たとはいえ、さすがに寝過ぎたか……。仮眠を取るくらいにして、夜は寝れるようにしたかったんだが。

「あ……」

寝過ぎを防ぐなら、それこそアラーム機能付きの魔導具を作ればいいじゃないか。

貴族には従者やメイドがいるから、起こしてもらえるが、アラーム機能付きの魔導具があれば――

……いや、今はそれよりも。

完成したタイマー機能が、設定通りに起動しているか確認しないと。

身なりを整え、作業部屋の扉を開けた。

十二時に起動するように設定していたから、作業部屋は涼しく保たれているな。

……問題はなさそうだ。

次は一時間後に停止するように設定して、問題がなければアレク叔父さんに仕様書を渡そう。

その間に、軽く何か食べてくるか。


食事を済ませ、お茶を飲んでいると、食堂の扉が開いた。

「フィリップ兄さんも今起きたの?」

「あぁ。冷却魔導具のおかげで、暑さを気にせず久しぶりにゆっくり寝られたよ」

「それは良かったね」

「扇子型魔導具も気に入っているよ。暑い中でも、随分と優雅な気分で過ごせるからね」

そう言いながら、運ばれて来た軽食を優雅に摘んでいる。

「フィンは今日も魔導具をつくるのかい?」

「ん――……今日はリリエン商会に素材を買いに行こうかな。仕様書も書いたから、ついでにアレク叔父さんに渡しに行くよ」

「そうか。私は冷却魔導具をもう一台作りたいから、作業部屋を借りるよ」

「うん。分かった」

「仕事中も使いたいし、寮でも使いたいから、二台あれば持ち歩く必要もないからね。歩くときは扇子型魔導具があるし」

「卓上に置ける大きさだとしても、冷却魔導具を持ち歩くには効率が悪すぎるしね」


そんな話をしているうちに一時間が経ち、作業部屋へ向かった。

置いていた冷却魔導具を確認すると、設定どおり停止していた。

「よし、これで完成だな!」

仕様書も書き直す必要はなさそうだし、やっとひと段落か。

とりあえず、リリエン商会に素材を買いに行こうかな。アレク叔父さんに仕様書も渡したいし。

鞄に仕様書と、購入予定の素材を書いたメモを入れ、馬車でリリエン商会に向かった。


馬車を降り、リリエン商会に入った。


「こんにちは」

「いらっしゃいませ。フィン様」

すると、店の奥から聞き慣れた声がした。

「フィン兄様!」

声のした方を見ると、ティアナを中心に学園の制服姿の令嬢たちが集まっていた。

「え?……ティアナ? どうしてここにいるんだ?」

事情を聞けば、学園で扇子型魔導具が話題になり、みんなで予約に来たらしい。

「……え?」

思わず間の抜けた声が漏れる。

「だから言ったでしょ。話題の中心になるって」

「俺が寝ている間に、こんなことに……」

十人以上はいるじゃないか。

ティアナの友人であるリーヴェルト公爵令嬢やエヴァリス侯爵令嬢にも挨拶を交わしたあと、新しく出来たカフェへ誘われたが、アレク叔父さんとの打ち合わせがあることにして、丁重に断った。

「フィン。先に商会長室で待っていてくれ。私も終わり次第、そちらへ向かう」

アレク叔父さんが機転を聞かせて、話を合わせてくれた。

「分かった」

店員に案内され、商会長室へ向かった。


「お待たせ」

出してもらっていたお茶を飲み終えた頃、アレク叔父さんが商会長室へ入ってきた。

「ティアナのおかげで、もうたくさん予約が入ったよ。やはり学園での宣伝は効果絶大だね。予約分が完成して、みんなに使ってもらえるようになれば、さらに広がっていくだろう」

「昨日の夜、ティアナに渡したばかりなのに……」

「扇子型魔導具は男性にも需要はあるけど、特に女性向けの商品として伸びると思っていたんだ。ドレスに合わせて柄を選べるから、夏の社交シーズン用に複数購入する人も出てくるだろうね」

女性の購買意欲はすごいんだな……。

前世でもデザイン性は大切だったが、貴族社会ではより大きな意味を持つのかもしれない。
……まぁ、俺にはそんなセンスはないが。


「ところで、何か用事があったのだろう?また新作かい?」

「あ、そうだった。冷却魔導具を少し改良して、時間指定機能を付けたんだ」

「時間指定機能?」

「うん。起動したい時間、停止したい時間を設定しておけば、自動で動作する機能だよ。例えば、夜に寝室で寝ている間は、執務室の冷却魔導具は停止させるだろう? でも朝、執務室へ行く頃には暑くなっている」

「夜は締め切っているからね。朝、執務室に行くと熱気がこもってて嫌になるよ」

「だから、執務室へ向かう三十分前に起動するよう設定しておけば、到着した時には快適な状態になっているってこと」

「なるほど。確かにそれはいいな」

「とりあえず、これが仕様書」

アレク叔父さんは仕様書に目を通す。

「……魔力絶縁板か。冷却魔導具と、時間指定で起動・停止できる冷却魔導具は、少し価格に差をつけて販売することになるだろう」

「その辺は、いつも通りアレク叔父さんに任せるよ」

「分かった」

「それよりも、もう冷却魔導具を作って、この商会長室だけじゃなく、店でも使っているんだね」

「あぁ。この涼しさを実際に体験してもらうのが、一番手っ取り早く確実な宣伝方法だからね」

確かに。前世でも、実際に使ってみないと良さが分からない商品は多かった。これは体験してもらうことが一番効果的な魔導具かもしれないな。

「そうだ!フィンに相談したいことがあったんだよ。今日来てくれてよかった」

「相談?俺に?」

「前回来てくれた時に聞き忘れていたんだ。冷却魔導具と扇子型魔導具の商品名をね」

「え、商品名?なんでもいいけど」

「一応、制作者にも関わってもらわないとね。名前を付けるのも商品の一部だから」

結局、センスのない俺は、いつもアレク叔父さんに候補を出してもらって、そこから選んだり考えたりするくらいなんだけど……それでも一応、制作者が関わったことになるらしい。

「今回も私の方で、いくつか候補を考えておいたよ」