侯爵家三男は快適に暮らしたい。〜前世の知識で異世界魔導具づくり〜



――ティアナ――


「それにしても、フィン様って昔から便利な魔導具を作ってらして、本当にすごいわよね」

「えぇ。発想力も技術力も飛び抜けて優秀でいらっしゃるし」

「去年まで学園にいらっしゃったけれど、ほとんどお見かけしないくらい、忙しそうでしたものね」

……それは、いつものように昼夜関係なく魔導具を作っていたからだと思うわ。魔導具研究会の部屋に入り浸っていたみたいだし……。

「天は二物を与えずということわざが、他の国にあるけれど、フィン様は二つどころか、いくつも天から与えられていると思うわ」

「私もそう思う!侯爵家のご子息で、優秀な魔導具師で、それになによりかっこいいもの!あんなお兄様がいるティアナ様が羨ましいわ!」

えぇ……。

「……妹からすれば普通の兄って感じだけれどね」

「その気持ち、少し分かるわ。私にも兄がいるでしょう?確かに優秀で、今後も期待されていて、容姿も整っている方だと思うけれど、妹の私からすると優しい兄なのよね」

「ティアナ様もセレスティア様も羨ましいです!私には弟と妹しかいませんから」

「私は兄が三人もいるから、一人くらい姉が欲しかったわ。それこそ小さい頃、セレスティア様に『お姉様をちょうだい!』なんて、言った恥ずかしい思い出があるもの」

「あ!それ私覚えてるわ!ティアナ様と一緒に、セレスティア様のお家に遊びに行った時よね。ちょうど、学園の初等部からセレスティア様のお姉様が帰られた時に、一緒に遊んでくださって」

「そんなこともあったわね。私は『お姉様がティアナ様に取られちゃう!』って、泣いてしまって……」

三人で顔を見合わせて笑った。

……昔から変わらない。
セレスティア様も、アリシア様も、私にとって大切な友人だ。


その後、チャイムが鳴り、私たちはいつものように授業を受けた。

基礎学、魔法学、貴族として必要な教養。高等部になって内容は難しくなったけれど、友人たちと一緒なら楽しく学ぶことができる。


魔導具に関する講義もあったけれど、そのたびに、周囲から扇子型魔導具について質問され、私は何度も同じ説明をすることになった。

そして昼食を挟み、午後の授業も終わり――

「それでは、リリエン商会へ向かいましょうか」

セレスティア様の言葉に、私たちは頷いた。

それぞれの家の馬車で向かえば、リリエン商会の前が混雑してしまう。
そこで、数人ずつ馬車に乗り合わせて向かうことになった。

私はセレスティア様とアリシア様と同じ馬車に乗り込んだ。
馬車の中でも話題は、やはり扇子型魔導具のことばかりだった――



「あ、アレク叔父様」

リリエン商会に着き、馬車から降りようとしたその時――。

アレク叔父様が、お客様を見送っているところだった。

「やぁ、ティアナじゃないか。久しぶりだね。それに、リーヴェルト公爵令嬢とエヴァリス侯爵令嬢もご一緒だったとは」

「うん。他にも学園の子たちも一緒に来たの」

「そうなんだね。とりあえず外は暑いから、みんな中へどうぞ」

アレク叔父様に促されて、みんなで店内に入った。

すると――

「「「……!!涼しい!!」」」

店内へ一歩足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が身体を包み込む。

「こちらは最新の魔導具でして、今後発売予定のものです」

……もう冷却魔導具を店内に設置して、お客様に体験していただいているなんて。

さすがアレク叔父様。

これだけ涼しさを実際に体験したら、誰だって欲しくなってしまうでしょうね。


「もしかして、ティアナ様が言っていた冷却魔導具とは、このことかしら?」

「えぇ。この冷却魔導具、本当におすすめよ!」

「これも絶対欲しいわ!」

口々に感想を話し始める令嬢たちを見て、アレク叔父様がこちらへ歩いてきた。

「ティアナ。今日は何か必要なものがあったのかい?」

「えぇ。学園に扇子型魔導具を持って行ったのだけれど、みんな興味を持ってくれて。それで予約をお願いしに来たの」

「あぁ!もう宣伝してくれたのだね!ありがとう、ティアナ」

話に夢中になっていたみんなを落ち着かせると、アレク叔父様は一人ひとりの予約を受け始めた。

扇子型魔導具と冷却魔導具の両方を予約する人がほとんどで、冷却魔導具は家族の分まで、扇子型魔導具も母や姉妹の分まで予約する令嬢も少なくなかった。

.....その筆頭は、もちろんセレスティア様だった。

「では、皆さん。こちらから扇子のデザインをお選びください」

そう言ってアレク叔父様は、色や柄の異なる扇子を、ずらりと並べた。その数は五十本近くもあった。

「もちろん、お持ちの扇子に冷却機能を付けることもできますよ」

「まぁ!こんなに素敵な扇子がたくさん……」

「私はお気に入りの扇子があるから、それに冷却機能を付けてもらおうかしら」

「姉の誕生日プレゼントにちょうど良さそうだわ」

みんなそれぞれ好みの扇子を手に取り、あれこれと見比べながら、楽しそうに選び始めた。



「こんにちは」

「いらっしゃいませ。フィン様」

その声に、思わずお店の入口へ目を向ける。

「フィン兄様!」

「え?……ティアナ?どうしてここにいるんだ?」

「学園のみんなと一緒に、扇子型魔導具と冷却魔導具の予約をお願いしに来たのよ」

「……え?」

「だから言ったでしょ。話題の中心になるって」

「俺が寝ている間に、こんなことに……」

「こんな時間まで寝ていたの?」

一体何時だと思っているのかしら……。

「徹夜だったんだからしょうがないだろ」


「あ、フィン様。お久しぶりです」

「セレスティア嬢、アリシア嬢。久しぶりですね。いつもティアナと仲良くしてくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ。ティアナ様には仲良くしていただいております」

「私も、いつも楽しく過ごさせていただいていますわ」

「フィン様。よろしければこの後、新しく出来たカフェに行くのですが、ご一緒にいかがですか?」

「お誘いありがとうございます。ですが、この後は商会長と打ち合わせがありますので……」

「そうですわよね。お忙しいでしょう。フィン様は今、話題の方ですもの!」

「……私が、ですか?」

「えぇ。扇子型魔導具をお作りになられたとか。早くも学園の一部では知られておりますわ」

「ま、そういうことよ。私はこのあと、セレスティア様たちとカフェに寄って帰るから」

「あ、あぁ。楽しんで」

「フィン。先に商会長室で待っていてくれ。私も終わり次第、そちらに向かう」

「フィン様。ご案内いたします」

店員に連れられフィン兄様は、奥へ消えていった。


「さて、予約も無事できたことですし、私たちもカフェへ向かいましょうか」

セレスティア様の声に、私は頷いて、リリエン商会を後にした。




……私も扇子を選ぼうと思っていたのに、フィン兄様の登場ですっかり忘れていたわ。